わたあめ
下手に触れたら消えてしまいそうな、甘い甘いあなたは、わたあめの生まれ変わりなんだろう。
「あっ……う、」
舌全体を使って首を舐めているだけなのに、あなたは女の子みたいに、かわいい声をあげてくれる。それが本人は恥ずかしいみたいで、手の裏で口を隠しているけど、鼻から抜ける息に乗る声。
「あと、つけてい?」
ソファに座っていた俺の膝に乗ってきたのは、そっちからだし、キスしたい、言いだしたのもそっちからだし、これじゃあ苦しい、といって正面を向いて俺に跨ったのも、そっちからだし。だったら俺がそれくらい黙ってしたって、いいかなって思ったけど、一応きいてみる。
はぁはぁ、熱い吐息がかかる。目だって、ウルウルしてるし、ほっぺたも真っ赤だし、唇は腫れぼったいし、なんかもう、俺をいろいろと限界にさせる。
「ね……だめ?」
「うぅ……や、だ」
頬を撫でたついでに、耳たぶに触れたら、こてん、と頭を傾けて、キュッ、と目を瞑り少し嫌がった。てゆうか、なに、今の返事。
「おれが、さきにつける、の」
そういって、ボタン2つ開けていたカラーシャツの隙間に手を入れて、やんわりと前を開けて、見えないから分からないけど、俺の鎖骨あたりに口づけた。
ジクリ、と痛む。また歯を立てられた。血液がそこに集中し、あっつくなる。あなたは、少し困った顔をして、血を止めようとペロペロ傷口を舐めてくれたけど、残念ながら好きな人に舐められたから傷が癒える、わけなんてないから。
「あ、ぅ……ち、ごめん」
シャツを控えめに掴んで、若干上目遣いで、いまにも泣き出しそうな表情で、そんなことを言われて、俺は顎を撫でて、唇を重ねた。
「ゆるさない」
にっこり笑って言えば、あわあわ、しだして、ホントにごめん、と泣き付いてきた。
あったかい体温。まだ寒い春先。心地よい心音。まどろむ意識。愛しさが沸々と煮える。
「俺が先につけるって、言った」
ふわふわと癖のある柔らかい髪が頬をかすめ、くすぐったい。ぎゅう、ときつく抱き締められているけど、俺は今だにあなたをどれだけの力で抱いていいのか分からない。
「ご、ごめん、……えっと、」
そうしていれば、するり、俺から離れて、正面で向かい合って、あなたが一息つく。五月蝿い鼓動を落ち着かせているようにも見えた。
「つ、けて……?」
ゆったりと、大きめにあいた胸元なのに、人差し指でわざわざ襟首を広げて、俺に肌色を見せつけてきた。
あなたを強く抱き締めたら、なくなっちゃいそうで、ずっとこのままにしておきたいけど、なんだかそれじゃあ勿体ない気もして。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
あなたがふわふわの、わたあめだったら、もし、いま、俺があなたに触れたら、イケナイのかなって少し思ったけど、やっぱりそれくらい黙ってしたっていいと思う。
だったら一緒に、べたべたになって、イケナイことになろうか。なんて。
俺が細い身体をギュッと抱き締め、あなたの体温があがって、それが始まる。