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姿は見えなくても狙われているのはわかっていた。
あの二人ならば、この程度の距離ならそれこそヘッドショットも容易なはずだ。
なるべく建物の影に隠れながら、少しでも遠くへ逃げ続けるしかない。


「ペイント弾だ」

尾形さんの言葉に、赤井さんは吸っていた煙草を携帯用灰皿にしまって、尾形さんの手の平の上に乗せられたペイント弾に検分するような眼差しを向けた。

「それで?」

「これなら死ぬことはない。先にこいつに当てたほうのものになる…ということでどうだ?」

なんてことを言い出すんですか!
飛び上がらんばかりに驚いた私をよそに、二人はいたって冷静だった。
お願いだからそんな恐ろしい賭けに乗らないでほしい。
そう思っていたのに。

「いいだろう」

赤井さんはあっさり頷いてしまった。

「赤井さん…!」

「これは君をこの男から守るための行為だ。恐れることはない。俺が勝つさ」

「随分余裕じゃねえか」

不敵な笑みを見せる赤井さんに、尾形さんも挑発的に口端を吊り上げて笑った。

「こいつは俺の女だ。それを今から教えてやる」

ライフルのストラップを肩に掛けて、尾形さんは背を向けた。
歩きながら振り返って私を見る。

「精々遠くまで逃げてみせろ。どこに逃げても必ず俺が撃ち抜いてやるよ」

ひえっ…!
怯える私に愉しそうに笑ってみせてから尾形さんは悠然と立ち去った。
狙撃ポイントとなる場所を探しに行ったのだろう。

「心配するな、俺がいる限り奴にそんな真似はさせない。決してな」

「赤井さん…!」

縋るような眼差しを向けた私に微笑み、赤井さんもまた狙撃ポイントを探しに行ってしまった。

残された私はごくりと喉を鳴らすと、覚悟を決めて走り出した。
少しでも遠くに逃げるために。

こんなゲームで自分の身の振り方を決められるなんて真っ平ごめんだ。
絶対に二人から逃げ切ってみせる。

そう心に決めて。


  * *


「はぁ…はぁ…」

壁に凭れかかって呼吸を整える。

どれくらい走っただろうか。
かなり遠くまで逃げたはずだが、まだ油断は出来ない。
2000メートル離れた場所からでさえ標的に当てられる二人なのだ。
正確な距離はわからないが、まだ射程範囲にいる可能性は高い。

そう思いながら、また走り出した瞬間だった。

バシッ!

脚に衝撃を感じて思わずよろけてしまった。
何とか態勢を立て直して脚を見る。

そこには、


赤いペイント弾が付いていた

白いペイント弾が付いていた




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