第12Q(2/2)


---赤司said



オレは廊下を歩きながら今日のゲームの内容を思い返していた。


常にリードはしていたし、最後はそれなりの点差をつけて勝ったものの、最初から最後まで、勝敗がどちらに転んでもおかしくないそんな試合だった。


全中も近い。それなのにこんなんでいいのだろうか。

自分的には納得のいくものではなかった。



目的の場所に近づくにつれ、あの独特のにおいは強くなっていった。



オレはやよいに会いに行こうと、書道部の部室に向かっているのだ。


やよいが試合を見ていると気付いたのは、みんなのプレーが急によくなり始めた時から。
ちらっと2階の応援席に目をやるとその人物はすぐに見つかった。

彼女は第2Qの途中から最後まで試合を見てくれていた。


あいつは基本的に表情をあまり変えないから、何を考えているのかわからないのだが、常にいろいろ考えている。


部員と意見を交換するのもいいが、それだけでは解決しないこともある。バスケ経験者では気付けないことを、バスケの知識が全くない人間が気づくことは珍しい事ではない。

オレたちが見落としているなにか。


やよいの素直な試合の感想を聞きたいのだ。




部室にたどり着き、コンコンと二度ノックするが返事がない。
試しにドアノブをひねり、ぐっと力を込めるとわずかな隙間が生まれた。

どうやら鍵は空いているらしい。

そのまま扉を開けるとぶわっと墨の匂いがオレを纏った。



やよいはいない。周りを見ても荷物らしきものもない。どうやらミーティングが長すぎてもう帰ってしまったようだ。

かわりにオレの興味を引いたのは大きな半紙に書かれた力強い文字。


ふっと口角が上がった。


オレはそれを見ただけで満足して部室を出た。



ここに来る前のもやもやとした感情は、クリアになっていた。



書かれていた文字は「百戦五十勝」。大きな半紙に帝光のスローガンである「百戦百勝」と書き、「百」の部分にわざとらしくバツ印をつけ、その上に「五十」と書き直していた。

あいつらしいと思った。


それは今日の試合の感想ではない。やよいの考えだと思った。


この数が月同じクラスで過ごしてわかったことは、あいつが相当な負けず嫌いで、勝負ごとが好きってこと。


文字から




「その方が楽しいでしょ?」




と、尋ねられている気分になった。
勝つためにどうすればいいか常に考える。剣道で山田先生とやっている時は、相手との駆け引きを心底楽しんでいるように見えた。



「勝利がすべて。負けることはゆるされない。」とういうこれが想像以上に自分のプレッシャーになっていたのだと気づいた。

勝利することばかりに目がいって、一番大事な“バスケを楽しむ”ということを忘れていたようだ。


やっぱりあいつは読めないやつだ。

もしかしたら部室の鍵を閉めていたなかったのはわざとだったのかもな。



体育館に向かう足取りは軽かった。








(あ、やば。部室のカギ閉め忘れた。ま、いっか。)



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