よめ。よむんだ。タローちゃんの呼吸を・・・・・・。
今だ・・・・・・!!
『メェェェェェエエエエンンン!!!』
これで五分五分っ・・・!
私たちはとったりとられたりの攻防を繰り返していた。
「だぁ!!もう一回だ!!」
『負けませんよ!』
「ヤァァァアアア!!!!」
『もう一回!!!!』
「次も俺がとる!」
『メェ−−−−ントォォォ−−− !!!』
「もう一回!!」
私がとればタローちゃんが、タローちゃんがとれば私がもう一回!!もう一回というので終わりなき戦いを続けていた。
強い人とやるのは楽しい。
どちらが勝つか分からないこのドキドキ感みたいなのが堪らない。
しかし楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
時計に目をやると時刻はもう少しで私がここを出る15分前をさしていた。
汗をかいたからシャワーも浴びたいし(帝光中には更衣室にシャワー室がある)、着替えるのにもそこそこ時間がかかる。
これ以上は無理そうだ。
『すいません。もう時間が・・・・・・』
そう告げると“ガーン”という効果音がとても似合う顔をした。ちょっと納得してない表情を浮かべながらもタローちゃんは“仕方ねぇな”と了解してくれた。
面をはずし、手拭いもとると高い声が静かになった剣道場に響いた。
「やっぱやよいちゃんだったんだね!」
『さ、さつき姉!??』
入り口にはさつき姉だけではなく、赤司も緑間も紫原も、あと大輝もいた。
み、みられちゃったかんじ・・・・・・?
タローちゃんとの試合に集中しすぎて周りの事、全然気にしてなかった・・・。
私は何となくそちらへ近付いた。
数名は信じられないという顔をしている。というのも緑間と紫原だけど。
「やよいは剣道をやっていたんだね。」
『ま、まぁ・・・。』
赤司は興味深そうに言った。
「やよいちゃんが剣道やってるとこ久しぶりに見たなー。ねっ大ちゃん!」
「あぁ。そうだな。」
ほわほわとした顔で言うさつき姉に対し、大輝はさらっと答えた。
あの体育祭の日以降、こうして私と大輝が言葉を交わすのはこれが初めてだ。
大輝のこの反応を見る限り、あの日大輝が私のことを運んだって事実を、紫原から聞いてしまったってことは知らないんだろう。
勝手に気まずさを感じていた自分がバカみたいだ。
「やよいちんめっちゃかっこよかった!!」
『ありがとっ』
紫原はさっきは驚いていたけれど、今は感動したような顔をしていた。なんか照れるなー・・・。
「お前時間は」
『あっ!これから稽古なの忘れてたっ・・・!』
タローちゃんの言葉ではっと我に返る。
ヤバイヤバイ!急がないと!!
入り口にいるみんなをかき分けて、さっさと走って更衣室に向かった。シャワーは意地でも浴びたいから。
袴を踏んで転けそうになったのは、誰も見ていないと信じたい。
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