第10Q(1/2)

『暑い・・・・・・』




季節はいつの間にか完全に夏へと移り変わっていた。
盛んに鳴くセミの声はより一層この空気を暑く感じさせ、うなじから玉の汗が私の首を滑り落ちた。

登校するだけでも汗をかくようになったのはいつからだろうか。そう思いながらタオルを汗が滲む額へ押し付けた。

学校には教室だけでなく、廊下にまでクーラーがついている。さすが私立。
私はその天国へと早足で向かった。

しかしこんな思いをしながら登校するのは取り合えず今日が最後。


そう。明日から夏休みなのだ。


教室にはもう唯がいた。




『おはよう』

「おはようやよい」




夏休みは嬉しいけれど、こうして唯と挨拶を交わすことも暫くはないのだと思うと、寂しいな、なんて思った。




「やよいちんおはよー」

『おはよう』




朝練で疲れているのか、机にくでっと突っ伏し、顔だけをこちらに向けてへらっと笑いながら紫原が言った。

紫原は眠いのに、それでも律儀に“おはよう”と、毎日挨拶をしてくれる。

いいやつだ。


このかわいい二人はが見られなくなると考えると、やっぱり夏休みはいらないかもしれない。宿題の量も半端じゃないし・・・・・・。




「やよいは夏休みどこか行くの?」

『んー・・・。今のところは特に予定ないかなぁ。』




さつき姉がバスケ部で忙しいから、旅行には行けないし。まぁ私は剣道で忙しくなるんだろうけど。




「じゃあさ!じゃあさ!海行こうよ!」

『は・・・・・・?』




唯が目を輝かせて、突然そんなことを言うもんだから変な声が出てしまった。
それに、まさか誘われるだなんて思ってなかったから。

海か。良いかもしれない。




「だめ、かな・・・・・・?」

『ダメじゃない!行く!行きたい!』

「本当?やったぁ!!」




唯のそんな悲しそうな顔されたらもう行くしかないでしょ!
海でしょ?いったのはずいぶん前だから水着買わなきゃなー。行くならどこの海が良いかな。綺麗なところがいいな。とのんびり考えていた。




「オ、オレも行きたい!」




これまた目を輝かせて言ったのは紫原。キラキラとしたオーラを全身に纏っていた。かわいいなこいつ。




『私は別にいいけど』




唯はどうなんだろうか・・・?横にいる唯をチラリと見ると、少し恥ずかしそうにモジモジしていた。なぜだ。
仮に紫原を呼んだら男女比は1対2。もう一人は欲しい。あ、これは赤司を呼ぶしかないでしょう!

唯に小さく耳打ちすると、唯は耳まで真っ赤にした。どうやら同じことを考えていたようだ。




『唯もいいってさ。
でもこのままだとアレだから、もう一人男子適当に誘ってくれる?』




ここで赤司以外の人を誘ったらどうしようかと思ったけど、99%それはない。




「分かった!」




突っ伏していた身体を勢いよく起こし、さっきまでダルそうにしていたのにさっさとある人物の方へと駆けていった。

よかった。やっぱり赤司を誘ってくれるみたいだ。


頬を染めた唯の頭をぽんぽんと撫でた。恋する女の子は可愛いというのは本当のことだと思った。

早く赤司とくっつかないかなー。


“夏休み、一回は二人っきりで遊ぼうね・・・!”と、頬を染めたまま言うもんだから、不意打ちをくらってこっちまで顔が熱くなった。




どうやら今年の夏休みは楽しくなりそうです。




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