「峰ちん、ちょっと来て」
「あん?」
体育館に入り、真っ直ぐオレの方に歩いてきていたようで、オレの目の前に立って紫原はそう言った。
“なんでだよ”と言わせないような圧力があって、オレは大人しく更衣室へ移動するでかい背中についていった。
「なんだよ。用って。」
「・・・・・・・・・」
更衣室にはオレと紫原しかいなくて、自分の声が部屋だけじゃなくて頭の中にも響いた。
オレに背を向けていた紫原がこちらを向いた。
紫原は眉をハの字にし、まるで怒られるのを怯える子供のような顔をしていた。そんな表情は初めて見た。やよい関係のことなんだろうとなんとなく察しはついたけど、なんでこんな顔をするのかも分からなかった。
すると紫原は手に持っていたそれをオレに突き出した。
「これっ・・・!
やよいちんから貰った」
紫原からそれに目線を変えた。
それまだ綺麗に包装されたままで、その中身を開けていないのはすぐに分かった。
「貰うの断ったんだけど・・・・・・」
その後はなにも言わず言葉を濁した。
断った?あの紫原が?
それにただ驚いた。
「貰ったけどやっぱり貰えないから・・・・・・」
“峰ちん貰って”と。後に続けた。
驚きすぎて言葉がでない。
貰って?あいつの口からそれが出るのか?
困惑した。
「要らねぇよ。」
そういい放てばビクッと肩を揺らして、“どうして?”という目をした。
それはお前のためにあいつが作ったもの。オレのために作ったもんじゃねぇ。
あいつの頭の中には紫原しかいなくて、オレなんかいない。
そんなもの食いたくねぇ。
自分でもくだらないと思う。
でもそんなことを言えるはずもなく、咄嗟に思い浮かんだ嘘を吐いた。
「オレ昨日食ったし」
少し皮肉気味に言った。
何もいう暇を与えずオレは紫原を残して更衣室から出た。
去り際にチラリと見えた顔が、一瞬にも関わらず脳裏に焼き付いていた。
驚いた顔をしたかと思えば、次には目線を落とし複雑そうな顔をしていた。
そういえばさっき“断った”と言った。つまりはやよいに真実を伝えたということ。
それなのにやよいは紫原にあれを渡した。
紫原が断ったんだ。
オレに渡すという選択肢もあったはず。でも紫原に渡した。
オレには感謝しねぇってか?そんなやつじゃないって分かってる。
でもそんときはそう思っちまった。
「なんなんだよ」
小さく呟いたそれは、熱いものが飛び交う体育館の空気へと溶け込んだ。
「ちょっと大ちゃん!何処行ってたのっ!」
“もう練習始まっちゃうよ!”と、頬を膨らませているさつきが目の前にいた。
それだけで心の中の色が全て塗り替えられた。
オレはこの色だけ知っていればいい。
心の中に広がるピンク色に、似ていながらも違う色が混ざっていることに、このときのオレは気付かなかったんだ。
気づこうともしなかった。
●後書き●
どうでしたでしょうか?
とことんすれ違ってますねーーーー。
じれったいっ!!!
切なくなっているでしょうか…。
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