部活が終わった後、自主練をすることなくすぐ家に帰った。荷物をおき風呂に入ってからやよいの家に行くことに決めた。
家の鍵をきちんとかけてから、自分の家に入るかのように幼なじみの家に上がり込んだ。
玄関を開けたのと同時に、旨そうなにおいがオレの空腹をいっそう強くした。
リビングに行くとエプロンをつけたやよいが台所と向き合っていて、においですぐ何を作っているか分かった。
好きなもんのにおいはすぐわかる。
オレやよいの作るクッキー好きだし。
茶碗が三つ並んでたから、オレの分もあると察して、なんの遠慮もなくどかっと椅子に座った。
テーブルの上には何品か並べられたおかずの他に、机の角にラッピングが置いてあることに気付いた。
気になって聞いてみた。
「なにつくってんだ?」
『お菓子』
知ってるけど聞いてみた。
ってかんそんなの見りゃ分かる。ふつークッキーとかそーゆー料理名言うだろ。と、そう思ったが口には出さなかった。
「誰かにやるのか?」
一瞬黙った気がしたけど、やよいはすぐに答えた。
『うん。紫原に』
は?なんで紫原なんだよ。
お前倒れたのに無理する必要あんのかと思った。
「今日作る意味あんのか?」
言ってからやよいが紫原と同じクラスで時々作って渡しているのを思い出した。
もし“頼まれたから”と言ったら、明日紫原をシバくつもりでいた。
『うん。お礼だからさ。』
「・・・?」
お礼?なんのだ?
一瞬、一日マネージャーん時の映像が流れた。
『私倒れたでしょ?その時紫原が運んでくれたから、そのお礼。』
思考が停止した。
おい、何言ってんだよ・・・・。だって、お前を運んだのは・・・・・!
こいつがどういう勘違いをしたのか分からない。でも、紫原のせいだろうなと直感で思った。あいつはずる賢いやつだから。
今クッキーの型をとっているやよいは、紫原のことを考えてそれを作っている。
それが酷く気に入らない。
“それは紫原じゃなくてオレだ。”と言いそうになった。
けど、言ったところでどうなる?
紫原がやよいに好意を抱いているのは、そーゆーのに疎いオレでも分かる。
ここで言ったらどうなる?
“嘘つき”だと、あいつらの関係をぶち壊すだけだ。
別にオレはそれを望んでいる訳じゃない。
オレはやよいが好意を抱いて欲しいなんて思ってない。
それなら言わなくてもいい。
オレには関係ないことだ。
だから、何も知らないふりをした。
「・・・・・なるほどな」
会話は底で途絶えてしまった。
自分があえてそっけなく返した。
なのに“オレが助けた。”と、大声で本当の事を言いたくなっている自分がいる。
なんでなんだよ。
オレはそれを望んでいないのに。
さつきが風呂から上がってきて、3人で席についた。
隣に座るさっきから甘い香りがして、今までのモヤモヤは何処かへ消えてしまった。
さつきが好きだ。
オレはただそれだけ。
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