第6Q(2/11)


1軍の体育館の前まで来たが、中から盛んに声がする。
どうやらまだ部活は終了してないみたいだ。

どうしよう。

校舎にはもう入れないし、門の近くで待ってるのも目立つ。かといって、体育館から離れると部活が終わったのに気付けない。

体育館の入り口の前でうろうろしていると、突然大きな人影が現れ、私の陰をすっぽりとおさめてしまった。

やばい。見つかってしまった。

バスケ部のファンの子だったらどうしよう。


怖くて後ろが向けない。

ごくりとつばを飲み込んだ。



「やよいちん・・・?」



気の抜けた声。ゆっくり後ろを振り向くと、長めの髪を垂らした人物。そう。



『紫原・・・・?』



がいた。
汗のせいで彼の紫色の髪は額に張り付き、彼はうっとうしそうにその前髪を払った。



「こんなところでどうしたのー?」



ぎくっ。
ここで大輝の話をするわけにはいかない。あ、そうだ!



『さつき姉と一緒に帰ろうと思ってたんだけどまだ部活終わってないからどうしようかなーって。』

「ふーん。じゃあ今暇なのー?」

『・・・・まぁ、そうなるね』



なんでそんなこと聞くんだろうと疑問に思えるのは一瞬で、次の言葉はすぐに発せられた。



「じゃあお手伝いできるねー」

『ん?』



そういうと私の手首をつかみ、グイっと引っ張られた。
突然の出来事で転びそうになるが、そんなことに紫原は気づかず腕を引き続けた。

そして閉めてある体育館の扉に手をかけた。



『ちょ、ちょっとどこ行くの!』

「体育館ー」



“待って!”という前にその扉は開かれた。

そして選手の視線を一斉に浴びることになった。

シンと静まりかえる体育館に、ここにいる全員から変な目で見られている私の気持ちなど紫原にはわからないんだろう。その証拠に必死に逃げだそうとする私の腕をを掴む力が緩むことがなかったから。

怖くて涙で視界がゆがみ始める。唇をかんで落ちそうになるそれを必死にこらえた。



「さっちーん、お手伝い連れてきたー」

「へっ・・・?」

「どういう意味だ紫原」



赤い彼がそういった。ここにいる者誰人、紫原の考えを理解していない。私もその一人である。



「今日マネージャーさっちんしかいないじゃんー」



“だから連れてきたー”と紫原は言った。

体育館がざわめきだす。

それもそのはず。ここは選び抜かれた人しかいない。それはマネージャーも。

なのになんの審査も受けず、彼の気まぐれだけで現れた未知の人間に1軍のマネージャーをさせるというのはおかしい。


もう大輝のおごりとかいい。今すぐ帰りたい。

どうしたらいいのかわからなくて下を向いていた。

目には、自分と足と、紫原の大きな足が映った。ずっしりと立つ紫原にむかついて思いっきり蹴り飛ばしたくなったけど、彼も1軍の大事な選手だから堪えた。



「できんのかよそいつ。
まずいきなり来たやつに“どうぞよろしく”なんていえねーよ。」


誰が発したのかはわからないが、いら
だっているのがよく分る声だった。

それだけマネージャーという存在を大事にしているから、彼女たちの努力や辛さを知っているから。だからわけのわからない人物に1軍のマネージャーをやらせることが許せないんだと思う。

誰かが反対してくれればこの場から立ち去ることができる。それを望んでいたはずなのに、いざ言われるとなると胸に刺されたような痛みが走った。
一度収まった涙は再びじわじわとあぶれてくる。

もう早く帰りたい。この場から去りたい。早く誰かなんとかしてよ。
お願いだから



「問題ないと思います」



え・・・?

赤司のその一言でざわめいていた空気は一気に静かなものになっていた。

何を言ってるの赤司。




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