今日の放課後は部活がある。といってもただの大掃除だけど。
単刀直入に言うと、書道部の部室はとてつもなく汚い。
まぁその理由は単純明快で、“とりあえず・・・”という感じで作られたこの部に与えられた部屋は適当なものだった。
タローちゃんが誰も入ると思っていなかったので、その汚い部屋でも(どうせ使わないから)それでもいいと言ったそうだ。
まるで物置のような部屋だ。
そんなところで字を書くなんてとてもできない。
そう思った私は、しばらくこの部屋が片付くまでは掃除を主な活動にするという方針を立てた。
ドアを全開にし、さんにホコリがつもった窓も全開にする。
さて。お掃除開始!!
ジャージの袖をまくり気合を入れた。
---これ、何日間やれば終わるんだろう。
長い間手の付けられていないホコリだらけの部屋を見てそう思った。
* * *
掃除を開始して早々、問題が発生した。
取りあえずこの部屋にあるものをすべて外、廊下に出そうとした。
紙束や本、椅子、机これは何とかなる。
しかし、私の身長より大きい棚はさすがに無理だ。最低でももうひとり必要だ。
仕方ない。タローちゃん呼ぶしかないかー。どうせ暇だろうしあの人。
呼び出す前に、自分だけで運び出せるものはすべて出し、棚に入っていたものもすべて廊下へ出した。
これであと残るのはこの棚だけだ。
よし、呼びに行こう。
とそう部室から出ればバッタリ。ナイスタイミングだ。
「あー、やよいちんじゃーん」
だるそうにしゃべる彼の片手には教科書が3冊程。練習着を着ているからおそらく忘れ物でも取りに来たんだろう。
『紫原!ちょっと手伝ってっ!』
「・・・・えー。」
何をー?と尋ねられ、汚い部屋へと招き入れる。本当に汚い。
そんな室内を見て彼は眉を寄せた。
「何すればいいの」
『この棚あを廊下に出すのを手伝ってほしいんだけど・・・
私がこっち側持つから・・・』
全部言い終わる前に紫原は私の前に出た。
「わかったー。じゃあこれもってて」
『え、うん・・・?』
紫原は手に持っていた教科書を私に手渡して、スタスタと一人で棚へ向かった。
え、ちょっと。まさかね。
「んっ・・・」
『う、うそ・・・』
まさかと思ったが彼は一人でその大きな棚を軽々と持ち上げ、あっという間に廊下へ出してしまった。高さは棚の方があったのに・・・。
それに重たそうな素振りを見せることもなかった。
『すごいね。一人で持ち上げちゃうなんて』
「別に。ふつーだし」
そういう紫原は本当に“何あたりまえなこと言ってんだ”みたいな顔をしている。でも普通じゃないから。
「ちょっと動かないで」
『?』
そういつもより低い声でと大きな手を私の方へ伸ばしてきた。怖くてぎゅっと目をつぶった。
でも痛みはいつまでたっても襲ってこず、かわりに私の髪をさらっと撫でるような感覚が走った。
ゆっくりと目を開けると紫原はしゃべりだした。
「ほこりついてたよー」
えっ!?は、恥ずかしい・・・。いつの間についてたんだろう。
『ありがとう』
「そろそろ戻んないと怒られるからもう行くねー」
『あ、ごめんっ!』
紫原は大きな手を差し出してきて一瞬何かと思ったけど、目線が教科書を抱く私の腕の中にあり、教科書を丁寧に彼の掌に置いた。
それを受け取った紫原はじゃーねーといって部室を後にした。
あれ?私、なんか忘れてる。ん、ん…?あっ!!
部室から飛び出し遠くにある紫原の姿を確認し、いつもより少しだけ深く息を吸い、それに向かって叫んだ。
『紫原ありがとうー!!』
突然のことに驚いたのか、肩をびくっと揺らした彼はチラッと私の方を向き、またすぐ前を向いた。
彼のことだからどうせ無視されるとはわかってたけど少しショックを受けた。が、彼は私に背を向けたまま、ひらひらと手を振ってくれた。
嬉しい。素直に。
一度沈んだ気持ちはすぐもとに戻った。
よーしっ!この勢いで頑張るぞっ!!
* * *
取りあえず今日はごみを片付けてしまおう。
廊下に並べられたものの量はすさまじくて、小さな部屋に今までこんなに入っていたかと思うととても恐ろしい。
廊下を散らかしたままは、さすがに迷惑がかかる。
中の掃除はそのあとだ。まずは廊下を第一優先に片付けなくては。
まず、紙、本類をまとめるところから始めた。
なにか面白い本がないかと一冊一冊丁寧に見ていった。もしかしたら魔法の本とかあるかもしれないじゃん?
全てそれらを縛り終え、資源ごみ回収のゴミ収集場に持っていく。タローちゃんに聞いたところ全部いらないものだと言われ、すべて捨てて言われたから、おかげさまで部室から収集場まで8往復するはめになった。今度なんかお菓子もらおう。
最後の1個を運びに外に出れば、日は傾き夕陽へと変わっていた。
今日はこれで終わりかー。
掃除はあしたからだなっ。
あ、ちなみに魔法書はなかった。
どさっと、わざと音がするように最後の一束を置いた。
やっとおわったー!!
思い切り伸びをすると肩がごきっと一度だけなった。
せっかくだし少し覗き見してこ。
収集場はバスケ部3軍が活動している体育館に近く、半開きになった扉からちらちらと黒子の姿が見える。
一生懸命に走る彼らを見ていると、やっぱマネージャーやってればよかったなんて思う。でもそんなの今更だ。
それにこれから起きる出来事に耐えられる自信はない。
このくらいの距離がちょうどいい。
きっと。
暗くなっているのに気づき、あわてて部室へと戻った。
夜の校舎は不気味だとおもったけど、電気の明るさでその気持ちを打ち消した。
だれか入部してくれないかな。
それが今の私の願い。
だって本当にさみしいんだもん。
* * *
部室の掃除は4日を費やした。
床、天井、壁をはき、吹き、最後はワックスまでかけた。
でもその甲斐あって、ピカピカの美しい部室へと生まれ変わった。よく頑張ったよ。
紫原に見てほしい。
汚い部室を知ってるのは彼くらいしかいないから。
でもせっかくきれいになったけど、床や机で書くのはなんか嫌だ。
畳、畳、畳ほしい。
どうせ字を書くなら畳の上で書きたい。
「無理だ」
『そんなっ!!』
私立だから絶対にOKでると思ってたのに!
タローちゃんに相談しに来たわけだが見事に玉砕した。
「茶道部の活動がないときに部室でもつかわせてもらうしかねーんじゃねーか?」
『・・・・・わかりました』
うんうんと唸りながら職員室を後にした。
そしてダメな理由を思い返していた。
ダメな理由を聞いたところ、部員は一人だし、特に功績の残らない部にそんなお金はかけられない。そんな金があれば費用はすべてバスケ部へといく。という大人な話をされた。
仮にも私中学生なんだけどなぁ。
タローちゃんはきっとそういうこと気にしないんだろうなー。
にしてもなんか悔しい。
少しばかりバスケ部に対抗心を燃やした。
有名になればいいんですか??
ならそうなろう。
私は来た道を引き返し、再び職員室に入った。
『私、大会に参加します。』
そう一言。
嵐のように去った。
タローちゃんのあの間抜け面は心の中のアルバムに留めておこう。
見てろよバスケ部!!
畳の欲しさにここまでする私ってバカだと思う。
(畳があればお昼寝できるし。)
(あ、もうすぐテストじゃん)
←◆◇◆あとがき◇◆◇
そろそろいろんなバスケ部と絡ませたい・・・。
最近むっくんが好きすぎてとけそうです。←
読んでくださってありがとうございます!
引き続き読んでいただければ光栄です。