それはさつき姉と大輝の邪魔をしないためだ。
原作には描かれていなかったけれど、私は本当はさつき姉は黒子じゃなくて、大輝のことが好きで、大輝も本当はさつき姉のことが好きなんだろうと思っていた。
そしてその想像は見事に的中した。
生まれた時からずっと一緒にいるから気づかないだけなんだと思う。
さつき姉は、はっきり顔に出したりしないから、今の時点だと大輝が好きがどうかっていうのはあまりわからないけど。
大輝は感情がすぐ顔にでるからわかる。大輝はさつき姉のことを女の子として意識してる。
大輝はとてもとても素直じゃない。
でも男の子ってそうだよね。好きな女の子に素直になれないのって。だって現に今、小げんかが始まっている。
大輝はさつき姉の頭についていた花びらを取ったとき、その髪に触れたわけだが、“何?”とさつき姉に尋ねられたが“別に。なんもねぇ”とだけいい、なんなのよ!と、なんでもないわけない、教えてくれたっていいじゃないかと、少し言い争いになっている、
うん。ここは手助けに入ろう。周りの目も気になるし。こんな日に喧嘩するもんじゃない。
『さつき姉落ち着いて。大輝は花びらとってくれただけだから』
「え?そうなの?」
『うん。ね。大輝』
大輝は予想通りの反応をした。“お前何言っちゃってくれてんだ!”みたいな顔をしている。
さつき姉にありがとうと言われると、ふいっとそっぽを向いてしまった。一瞬だけど顔が赤く染まっているのが見えた。
「なに〜照れてるの〜?笑」
さつき姉は茶化すかのように大輝に言った。時々おもう。さつき姉は小悪魔だって。本当に(真顔)。
まぁ大輝は勢いよく否定したため、赤くなったままの顔をこちら側に向けたわけで。。。さつき姉に再びいじられていた。そうして結局は再び言い争いになってしまった。
私余計なことしちゃったかなー。後で大輝に怒られそうだ。逃げるけど。
こうなると私にも2人はとめられない。もうほっとこう。
私は二人に会話(?)を耳からシャットアウトし、誇らしげに咲く桜を眺めながら歩いた。胸の中に渦巻く感情をごまかすために。
---ドンッ
『あっ、すいません』
私としたことが。桜ばっかりに気を取られ、周りを全く見てなかったよ。ん、え、ちょっ、ちょっと待って。
「大丈夫です」
綺麗な水色の髪、髪と同じ色をした澄んだ瞳。そしてこの声。これって100%“黒子テツヤ”だ。
『ホントすいません。』
このどうしたらよいのかわからない気持ちを静めるため、もう一度謝罪した。そういえば彼は“気にしないでください”と微笑みながらそう返してくれた。どうしよう。可愛いです。
そしてどうしよう。気まずい。
私たちはあの会話(?)のせいで立ち止まってしまった。再び足を進めたいが、行く場所は同じなわけで、“さようなら”と言っても並行して歩くことになる。
さて、どうしようか、と考えを巡らせていると黒子は口を開いた。
「あの、よければ一緒にいきませんか?」
『え?』
今なんと?
っていうか、さつき姉と大輝いるのに誘うとか黒子つよっ!!私はいいけど2人は??どうなの!??と思って2人がいるはずの方を振り返るが、隣にいるはずのその存在はなかった。どうやらはぐれてしまったようです。
うーん。ならいっか!!黒子も気遣ってくれたわけだし!!
『じゃあ行こっか』
黒子は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐいつものポーカーフェイスに戻って“はい”と返してくれた。歩きはじめてしばらくは沈黙だったが、黒子が自己紹介をしてくれて、私も名乗って、後は他愛もない話をして歩いた。
今更ですが、やっぱり彼は黒子テツヤだった。違ったらどうしようかと思ったけど・・・。あ、門見えてきた。
“入学式”と大きく書かれた看板がとても目立っている。その門の周りには親子で写真を撮っていたり、おどおどして周りをきょろきょろと見回しているまだぶかぶかの制服をきた男の子がいたり。
二度目の中学校の入学式はなんだか大人目線で、元いた世界での感情を思い出していた。私マジでばばあだわ。なんて思ったけど、わくわくしたこの思いは、他の新入生と同じだと思う。隣の黒子は水色の瞳の奥をキラキラと輝かせている。顔には出ていないが、嬉しそうなオーラがにじみ出ている。
あ、そういえばあの2人は・・・
「やよいちゃーん!!」
「おい!やよい!!」
『ん・・・?あーーー!!』
正門の前で私の名前を大声で呼んだのは、はぐれてしまったあの2人だった。そしていまだにその名を呼び続けている。
わかった。わかったから。今行くから、お願い。もう名前呼ばないで。みんなに名前覚えられちゃうからっ!!!
うぅん。取りあえず一旦黒子とはバイバイか。なんか申し訳ないな。
『ごめん、黒・・・・・子』
さっきまで私の左隣にいたはずの黒子はもうすでにそこからいなくなっていた。さすがというべきか、なんというか・・・。
まぁ、また会えるよね!!!
---ズキン
あぁ、またこれか。
たまに感じる鋭い胸の痛みに気づかないふりをしながら私は二人の方へと駆けた。
それを認めてしまったら。私はどうなるかわからないから。
今はまだ。いや、これから先もずっと。
私はずっと知らないふりをする。
(私はこの胸の痛みの名前を知ってはいけないんだ。)
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