---おぎゃあおぎゃあ
うるさい。
目覚めは最悪だ。今までにないくらい。身体は金縛りにあったかのように全くと言っていいほどいうことを聞かない。動かせるのはせいぜい眼球だけだ。しかし目のあたりにだけ布がかかっていて見事に見えない。見えるのはただの真っ白な布しか見えない。
しばらくすればなくなるはずの金縛りは消えない。赤ん坊の泣き声もやむ気配はない。
あぁ。本当に最悪だ。
やっぱり信じなければならないのだろうか。
今、私の目の前に映るものが現実のものだと。
そう、全てにおいてリアルなんだ。赤ん坊の泣き声に、いつも私が見ているものと同じように見える視界、服を着ている感触、、どこからか漂ってくる甘い匂い。もうなにもかも。
それに何度も何度も意識が途絶えているにも関わらず、私はその続きを見る。
もう夢なのか現実なのか訳が分からない。
---一体ここはどこなんだ。
と、そう考えたら急に怖くなってきた。
ここはどこで、私はなにをしているのか。
私って・・・?
パニック状態になったその時。あの聞きなれた名前を不意に呼ばれた。
「・・・・やよい」
それは自分の名前だった。しかしその声は聞きなれたものではなく、初めて聞く声だった。そう、聞きなれた声じゃなかった。でもなぜだろう。優しくて、全てを包み込むようなそのやわらかい声に安心した。パニック状態だった私の心はいつの間にか落ち着いていた。
この人物は誰なんだろう。そう思った時だった。
急に私の体に何かが触れた。びっくりして、手足をばたつかせるが、やはり思うように動かず無意味な抵抗に終わった。そして、たて続けて突然の浮遊感。
今まで背中に触れていた、やわらかくてあたたかいものは消え、代わりに少し硬くて、さっきよりもあたたかい何かに包まれた。左耳にはじんわりと温かさが伝わってきた。それと同時に、とくんとくんと規則正しい心臓の鼓動が聞こえてきた。
落ち着く・・・・・。
ゆっくりと目を閉じてその音をよく聞こうとしたとき、顔にかかっていた布がはらりとなくなった。
おい、うそだろ。私は目を大きく見開いた。裂けるんじゃないかってほど。だって、不良とか聞いてない。
白い布にかわって私の視野を一杯にしたのは、ピンク色の長い髪を垂らした、これまたピンク色の大きくてたれ目の瞳をした女性だった。服装は入院したひとが着るような服をきている。どうやらこの人が私の母親のようだ。
ちょ、っと。マジ勘弁。ピンクとかふざけてるでしょ!!私こんな頭のお母さんいやだよ!?
彼女は聖母の優しい顔をして私に微笑んでいた。こんな顔できる人がどうしちゃったの!?
しかしよく見てみるとその髪の毛は少しも傷んでなくてまるで地毛のようだった。
ちょっとまって。い、いや。まさかね。
「ほーらさつきー!妹のやよいだぞーっ!」
「まったくあなたったらっ・・・!」
「髪の色は二人ともお前似だな!!さつきは顔だちもお前にそっくりだ!」
「そうね。でもやよいはあなたにそっくりよ。特に鼻のあたりが」
低い男性の声が私の耳に飛び込んできた。あなたと呼んでいるからきっと私の父親だろう。首は動かせないため姿は確認できないが、イケメンだ。じゃないと困る。女の子なのに父親似ってどうなのよ。姉はこの美人のお母さんにそっくりなのに、私だけゴリラみたいな顔とかいやだよ。
ってか、さつき・・・?髪の色は地毛ってこと・・・?
---コンコン ガラガラガラ
「桃井さーん。失礼します。体調の方はいかがですか?」
「はい。とても元気です。」
「そうですか。赤ちゃんの方も元気そうですね^^」
ん・・・・?
そのあとの会話は全く耳に入ってこなかった。
今まで突っかかってきた単語を並べてみる。
髪の色は母親譲りのピンク。姉の名前はさつき。そして苗字は桃井。
あ、はは。
どうやら私は黒子のバスケの世界へトリップしてきてしまったようです。
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