04.VS海常

原作はそこそこ進んでた。でも大事なところは逃していなかった。



今日の火神はいつも以上にギラギラしてる。まあいろんな意味で。

そうなんです。

今日はあのキセキの世代“黄瀬涼太”がいる海常高校と練習試合なのだ。


昨日火神全然寝れてなかった。
というのも、私はいつも火神の横で寝るから知っているのだ。

毎日床で寝るかと思いきや、毎日火神と一緒に寝ている。

初めは慣れなかったけど、今ではもうすっかり慣れて毎日ふかふかのベッドで図々しく寝ている。



私は今、火神の腕の中。もうここが定位置だ。
首輪もリードもしてないから勝手に何処かに行ってしまわないようにするためか、基本的にあんまり歩かせてくれない。


それにしても海常広い!
自分が小さい分大きく感じるというのもあるかもしれないけど。


キョロキョロと周りを見回しているとキラリと金色に光るものが目の端を掠めた。

あ、あれはっ……!!



「どもっス
今日は皆さんよろしくっス」

「黄瀬…」



黄瀬だ!わぁー!!すごい!シャララしてる!やっぱりモデルをやってるだけあるな。イケメンだ。


一通りの会話を終えると黄瀬と目が合い、黄瀬はそのまま私をじっと見つめてきた。



「ねぇ、あんたがもってるそれなに?」



それ!?それとは失礼な
黄瀬は私に指を指しながら火神に問った。




「あ?こいつか。こいつはト「猫です。」いって!なにすんだ黒子!」

「猫?」




黒子は“トラ”と言おうとした火神の口を咄嗟に押さえ、言い換えた。
あ、危なかった……。

黒子ナイスだ。

黒子に止められた理由がわからない火神は、黒子に文句を言っていた。耳元でこっそり“トラとバレたら飼えなくなるの忘れたんですか?”と言われ、はっ!とした表情をした。


ちょっと、忘れないでよ……。


少しだけこの先が不安になった。
火神なら気付かない間にぽろっと言ってしまいそうだ。


黄瀬はふーんと言い、私から目を離した。少し不振な目をしていたのは気のせいだと思いたい。



体育館に入ると予想通りの光景が広がっていた。



「……片面…でやるの?」



もう片面では海常バスケ部が盛んに練習を行っている。しかもこっちのゴール汚いし。



「あぁ来たか。
今日はこっちだけでやってもらえるかな」



さらっと言った相手監督の言葉にリコは顔を歪めた。



「だが調整とは言ってもウチのレギュラーのだ。
トリプルスコアなどにならないように頼むよ。」



明らかに見下したその言葉は誠凛のバスケ部に火を着けた。
みんな怖い。ぎゃー!リコの顔がっ!!ビキビキってなってる!
火神も血管浮き出てる!

とりあえずみんな怖い…!!

ユニフォームを着ようとした黄瀬をげんげんが止め、黄瀬は強烈な一言を残した。それはそれはゲスい表情で。



「オレを引きずり出すこともできないようじゃ…
“キセキの世代”倒すとか言う資格もないしね」



黄瀬の一言で誠凛の雰囲気は一気に変わり、自分は無意識に毛を逆立てて威嚇していた。



「あの…スイマセン
調整とかそーゆーのはちょっとムリかと…」

「「そんなヨユーはすぐになくなると思いますよ」」



ヤバイ……。めちゃくちゃカッコいい


体育館を出て更衣室に向かう途中、火神が私の頭をぽんぽんと撫で、それから言った。



「ぜってー勝つからなっ!」



火神の目はさっき以上にギラギラと光っていた。その強い光に心臓が大きく跳ねた。


原作通り進むのなら、誠凛は勝つ。それは分かっているのに、何故だか心の底から勝って欲しいと思ってしまった。



さぁ、ここから誠凛の快進撃の始まりだ





* * *





片面から始まった試合は火神がいきなりゴールをぶち壊したことにより、全面になった。

ユニフォームを着て試合をするところは初めてみたから終始ドキドキが止まらなかった。

点差が開いて危ない場面もあったけれど、火神がブザービーターで決め、無事勝利をおさめた。


嬉しくてぴょんぴょんと椅子の上で跳ねた。しかし盛り上がった体育館でもはっきり聞こえてしまったある言葉がキッカケで私はその動きをピタリと止めた。



「黄瀬泣いてねぇ?」

「いや悔しいのは分かっけど…
練習試合だろたかが…」



声のしたギャラリーの方をみれば必死に頑張って汗を流したこともないような男子生徒がいた。
耳がよくなると嫌なものまで聞こえてしまう。

コートに視線を戻すとポロポロと涙をこぼす黄瀬の姿が目に映った。その涙がなぜ出てくるのか、彼にはまだわからないのだろう。


試合前はあんなにムカついていたのに、今は、どうにかしてあけたいと思ってしまった。

両チーム挨拶をし終えた後、黄瀬はひとりで体育館を出ていってしまった。みんなが着替えに更衣室へと移動している間に、私はこっそりとその列から抜け出した。


においを辿ってくと、ザーという水の流れる音がした。
どうやらこの場所で間違いないようだ。

近付けば近付くほどその音は次第に大きくなっていった。

校舎の角を曲がると水道があり、その蛇口の水を頭から被る黄瀬を発見した。その頬から伝う水はただの水なのか、涙なのかは分からなかった。


胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

少し迷ったが、私は黄瀬の元へ駆け寄ることにした。
時々声を漏らすのが聞こえて、泣いてるのがわかった。

黄瀬は一人になりたくてここにいる。
でも私はそんな事などお構いなしに、黄瀬の足の甲に自分の足を上から押し付けた。

ビクッと身体を揺らして驚いた後、黄瀬は私がいることに驚いたのか、目を大きく開けた。

黄瀬は私の前にしゃがんだ。

上からは黄色の髪を伝ってポタポタと滴が落ちてくる。
黄瀬は眉にシワを寄せ、口元には緩い弧を描き、『困ったな』という表情をして私に言った。



「こんなところでどーしたんスか?」



私は言葉が使えない。それは黄瀬もわかっているはず。でも話しかけてしまうのはきっと心が何かを欲しているからだ。
私は黄瀬にほしい言葉をかけてあげられない。だから、出来ることをするしかないのだ。

彼の足においていた自分の前足を、今度は黄瀬の膝の上に置き、ぐっと黄瀬の顔に自分の顔を近づけた。




「っ・・・!」




少し大胆だけど、今この姿なら許されることだ。

私は涙の後が残る目の下をザラザラとした自分の舌で舐めた。
手を当ててあげることも考えたけど、鋭い爪が頬に傷を着けてしまう可能性があるのでやめた。


実際やってみると恥ずかしいな・・・・・・。


私が二、三度舐めたあと顔を離し、黄瀬の顔を覗き込むと、目を真ん丸にして驚いていた。

しかしそれは一瞬で、次には目を細めて微笑んでいた。

少し愛おしそうに見つめられ、不覚にもドキッとしてしまった。


すると黄瀬はいきなりくしゃくしゃと私の頭を撫でてきた。



「なぐさめてくれたんスか?」



今度は両脇に手を入れられ、グッと顔の高さまで持ち上げられた。

ち、近い!!近い近い近い!


近くでみると本当に綺麗な顔をしていて、睫毛が長いのがよくわかった。


ぐいっと更に近付けられ、えぇ!?と心のなかで慌てた。



「……ありがとうっス。」



私の額を自分の額に当てて小さな声で呟いた。

それは小さかったけれと、ちゃんと芯があって、もう大丈夫だなと思わせる力強さがあった。
ちゃんと元気付けられたみたい。……良かった。


にしてもいつ帰ろう……。その事全然考えてなかったよ。。。

思考を巡らせているとふいにまた、見る景色が変わった。


こ、これ、抱き締められてる!?


目の前にあるのは明らかに黄瀬の服で、くんっとにおいをかぐと少しだけ汗のにおいがした。

わー!わー!わー!どうしよう!!
本当にこれ抜け出せないよ!!


きゅっと抱き締められる力が強くなると、黄瀬の息が耳にふぅとかかった。



「オレのところこないっスか……?」



は?え、ちょっと、……は??

わざと低くされた声にからだがビクビクっと反応してしまう。
なんだコレ。黄瀬は何をいってるんだ?

動こうにも動けなくて私は固まってしまった。

これ、もしかして気に入られちゃった感じ…?



……あれ、なんだろう。知らないにおいが近付いてくる。ま、まさか緑間!?
え、やだ!なんかここで会いたくない…!


するりと黄瀬の腕から抜け出し、もうダッシュでその場から離れた。

黄瀬ごめん。なんか放置しちゃったよ。



火神のにおいを探して走り続けると、“ソラー!”と、バスケ部の皆が私の名前を呼んでいた。

あらら。探させちゃった。
早くいかなきゃっ…!

火神に飛びつくと『勝手にどっか行くなよ…』と切なそうに言われ、それからぎゅっと抱き締められた。

ごめんなさい。もう勝手にどっか行ったりしない。……たぶん。




こうして私たちは海常高校を後にした。




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