18.金髪の少女

昨日の目覚めは最悪だったが今日は"驚き"から始まった。タオルにくるまっていたせいで、秀徳高校の部屋で寝ていたことをすっかり忘れていた。慣れない環境ではあったがタオル効果で意外とぐっすり良い眠りに着けた気がする。
緑間が起きる前にこっそりと腕から抜け出して、良いにおいがする食堂へと向かおうとしたが、それも叶わず高尾に捕まってしまった。そこまではいいのだか、何故だかその先はずっと秀徳と行動を共にしていた。午前練が終わり、午後練が終わり、あっという間に夜になってしまった。

これ以上私がトラだとバレないように、お風呂は今日も黒子に入れてもらう予定だったが、高尾と緑間にもバレているため、そのまま高尾がお風呂に入れてくれた。
そして更に時は進み、就寝の時刻を迎え、昨日の約束通り、私は高尾の隣で寝ることになった。

そこまではまだ良いとして(全然よくないけど)、昨日緑間と寝た時と、今日の条件とではかなり違うのだ。

…タオル忘れた……。

タイミングを見計らって、せめてタオルを持ってこようと試みたがホークアイのそれに勝てるはずもなく…。
室内の照明が落とされ、真っ暗になると数分もしないうちに安らかな寝息があちらこちらから聞こえて
高尾もその中の一人である。

今の私の状況を簡単に簡単に説明しよう。
高尾に抱き付かれており、首と腰を押さえられているため全く身動きが取れない。

高尾に抱きつかれたまま、タオルもなしに寝れるはずもなく、暗い空間で私はどうしようかと思考を巡らせていた。

とりあえず、この状況で寝るのは無理だ。落ち着かない。タオルを忘れるなんて、本当に私はアホだ。
こっそり高尾の腕から抜け出して、誠凛の部屋に戻るのが1番良いだろう。でも、私がモゾモゾ動きすぎて、ハードな練習で疲れている高尾を起こしてしまったら申し訳ない。
どうやらこれは高尾が私を離してくれるのを待つしか無いようだ。
秒針が鳴らず小さな音を、飽きるほど数え、ゆっくり呼吸をしながらその時を待った。


「……も、走れな、……」


高尾が苦しそうな寝言を発した。そういえば今日、練習中に余計なことを言ってマー坊に走らされていたのを思い出した。
やはり相当疲れていたに違いない。超ハード合宿メニューにプラス長距離ランニングもんね。疲れないはずがない。

変に動いて高尾を起こさなくて良かったと、自分の判断に頷いていた時。ついにその時が来た。

高尾が寝返りを打つと共に私の体から、巻き付けていた腕を離した。

チャンスはやはり待つものの様だ。

私はゆっくりと動き、音を立てないように気を付けながら部屋の扉へと向かった。運よく扉も少し開いていて容易にすり抜けることが出来た。

薄暗く、静まり返った不気味な廊下をビビりながらも歩き、とうとう誠凛1年生が泊まっている部屋に来たわけだが…。
私の努力は空しくも散ってしまった。
ドアノブの扉はしっかりと締まっており、レバータイプのドアノブなら何とか開けられたかもしれないが、丸いタイプのドアノブなんか開くわけがない。
どちらにしろ、壁を支えにして立っても届かない位置にあるドアノブを捻って開けることなど無理に等しいし、出来たとしても大きな音が出てしまうのは確実だろう。



…どうしよう。



さっさと諦めて秀徳の部屋に戻ればいいのだろうが、今はどうもその気になれず、鍵が開いているか開いていないかも分からない玄関へと足を向けていた。
夜の海を眺められたら良いなという軽い気持ちで。

此処も鍵が掛かっていたらまた来ただけ損になる。まぁそれならもういっその事、部屋に戻るのも面倒だし怖いから、石畳でひんやりとしたここで寝てしまおう。

引き戸の凹凸に手を掛け、横へと手を動かした。


開いちゃったよ。
隙間から海の香りがふわりと漂ってきた。

本来なら、就寝時には鍵を掛けておくものだが、この施設の方が忘れてしまったのだろう。本当は良くないけれど、こうして私が外に出られるのも、うっかりやさんの従業員さんのおかげだから、今回だけは良かったのかもしれない。


静かに響く波の音を聞きながら、雲一つない夜空に浮かぶ大きな満月が良く見える場所へと移動した。
夏の海辺であるこの場所も、夜はやっぱり少し冷えるようだ。時折吹く風に冷気を感じる。
夜で黒く染まる海も、月の明かりを受けてキラキラと光っていて、単純な言葉でしか表現できないけれど、とても綺麗だ。
目で見るものも美しい。けれど音もちゃんと聞きたくて、私はゆっくりと目を閉じた。聞こえるものは波の音くらいなのに、耳を凝らせば凝らすほど、小さなノイズ音が大きくなっていく。なんだなんだと眉間に皺を寄せたとき、その答えは一気に解けた。


「…ソラか?」


慌てて後ろを振り返る。目を開ければ彼がそこに居た。突進する様に彼に飛びつけば、彼は難なく私を受けとめてそれからぎゅっと抱きしめた。私も私で鼻や額をぐりぐりと彼の胸に押し当てた。


「…やっと会えた  」


息を吐く様に漏れた言葉はどこか切ない色をしていて、ツンと胸の奥が痛くなった。

散々ぎゅっとされた後、自然な流れで海を眺めることになった。同じ場所に並んで腰かけて、
同じもののはずなのに海の色は、ひとりで見たものと違って見えた。

さっきは聞こえなかった、自分の心臓の音が今は良く聞こえた。


こういう時にふいに思うのだ。



---私が人間だったら…



もしも私が人間だったら、今の様に火神と一緒に居られただろうか?
居れないとしても、仲良くなれただろうか?

どんなことを疑問に思っても、人の姿である私が彼の隣に存在している姿を想像することが出来ない。ずっと前からそうなのだ。

人間に戻りたいと思う反面、戻りたくないと思う自分がいる。一体自分がどうしたいのかも、正直まだ分からずはっきりしない。




---でももし私が人間だったら…?




そう思った少し後に、私の背中の方から大きな音を立てた風が吹いて、私は思わず目を瞑ってしまった。
しかし目を開けると、隣から視線を感じ、そちらを向けば火神と目が合った。驚きと困惑の表情を浮かべる彼に、私は首を傾げた。
一体、私が目を瞑っている間に何が起きたのだろう。聞かなくても、正しく言えば聞くことは出来ないのだが、火神は大体私が思っていることが分かる様だ。


「いや…。なんでもねぇ…。」


気になるが、火神がそう言うなら仕方ない。私は追及することはせず、そのままの言葉を飲み込んだ。



「そろそろ戻らねぇか?」


なるほど。忘れていた時間の経過を、あの風で思い出したのか。そういえば今何時なんだろう。あんまり遅いと明日?今日?に響く。
この空間はとても好きだが、ずっとこうしているわけにもいかない。私は首を縦に振り、火神に抱っこされながら宿へと戻った。

火神から伝わってくる体温に心地よさを感じながら、私は毎回この腕に抱かれるのである。


そういえばさっき風の後目開けた時、なんか金の糸っぽいものが見えた気がしたけど…あれは何だったんだろ?気のせい?うーん。分かんないからいっか。



---火神が驚いた顔をしていた本当の理由を、私はまだ知らない。











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あとがき
ぬぉぉおお!久々の更新申し訳ありません!!
なんか最近スランプ的なものに陥っていて、何度も書こうと試みてはみたんですが。。。
現在時刻夜中の一時半を過ぎました。
いやぁ、“今なら書ける気がする!!!”っていうのが来たもので、寝ずに書くことを選びました(笑)←
文体が大分変っている気がする…、というか確実に変わっている!!Oh...やっぱり定期的に書かないとだめですね。

今回、何かが起こると予告しておりましたが…。
濁し過ぎてうまく伝わっていない感が…!!!
章の名前と、火神君が驚いてる反応とか、主人公ちゃんが見えた金色の何か…ってところで連想させて分かっていただけたら…涙
読者様任せで申し訳ないです…。

『意味不明!!なんだ今回!!』

と思われたかたは、拍手ページのコメント欄、これを更新してほしい!のアンケートの一言の欄でもどちらでもどこでも構いませんので、言っていただければと思います…。『解説』のような形で新たにページを設けて今回の出来事について、説明させて頂きます…!

長々とすみません🙇💦

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