16.和解

---木吉said




オレがいない間に誠凛は随分と変わった。それは良い意味でだ。

もちろん新一年生にも興味がわいたが、もうひとつ気になる存在があった。


そう、ソラだ。


日向から少し話は聞いていた。誠凛にはもうひとり仲間がいると。それがソラだ。
なんでもそれはトラだそうで、今少し荒れ気味なあの火神が愛でていたと聞いたら、気にならずにはいられなかった。


オレはソラに興味を持ち、日向に尋ねた。

今桐皇にいるのかは、なんとなく理由を聞いた。だから、これに関しては特に何か詳しく聞く気はないし、それ以上聞く様なことはなかった。



それよりオレは、そんなに大切にしていたのならなぜ火神はソラを向かえに行かないのかそれが聞きたかった。

日向の「火神のキャラが変わるほど愛でていた」という情報と矛盾する今の状況にオレは疑問を持ったのだ。


いつもなら嫌そうな顔をして断るかもしれない日向が、今回だけは少し深刻そうな表情で答えた。




「オレもそう思って聞いたんだがな」




日向は1拍空けた後、言葉を続けた。




「“頼りすぎていた”だそうだ。」




オレはそれを聞いて首をかしげた。それは黒子について言った言葉じゃなかったのか?
オレの新たな疑問を察したのか、日向は呆れたような、でもどこか納得したような顔をして、言葉を続けた。




「なんつーか、精神面で?」




なるほど。黒子はプレー面での意味だったということか。

そしてオレが少し納得している間に、日向は、火神だけじゃなくてオレら全員そうだったんだと思う。と言った。
正直トラ、というよりも動物にそこまでの効果があるかどうかは分からない。でも、火神だけじゃなく、日向も、プレイヤーだけでなくリコにまでとなると、やはりそのソラのパワーは本物なのだろうと思った。



オレが復帰してから暫くしたころ、ソラが誠凛に来た。

“戻ってきた”や“帰ってきた”ではなく、“来た”という言葉を選んだのには訳がある。


とても4月からの数ヵ月間、ここにいたとは思えないほど、ソラの振る舞いは皆に対してよそよそしかったのだ。


姿は分からないが、ソラが桐皇からいなくなったと聞いたときはオレも一緒に探した。
今でもあの時のことは覚えている。

ソラはここへ来た。強く降る雨の中、自らの足で、片足を怪我していたのに。少なくともここへ来たのはソラの意思のはず。
なのにも関わらず、皆の様子を伺うように、何時も怯えたように体を小さくしているのは何故だろうか。


その理由をオレは暇があれば考えていた。


そしてその答えが出る前に、事は動き出した。
火神がソラを怒鳴り付け、成り行きで俺の家に預けられることになったのだ。



それにしてもこんなに大人しい動物にオレは今まで会ったことがない。オレの腕に抱かれるソラは、ピクリとも動かない。
腕の中から逃げようとしたり、身を乗り出したり、普通はするものなのに、ソラはじっとして、姿勢も崩さなかった。


家に着き、誰もいないのにただいまと言ってドアを開けた。
本当はじいちゃんとばあちゃんがいるはずだか、今日から二人で二泊三日の温泉旅行に出掛けている。

タイミングは良かったのかも知れない。説明するのも大変そうだから。



夕飯を済ませ、その片付けも終えたあと、オレは縁側に腰掛けた。
夏になりかけのこの季節には、夜になってもジメジメとして、肌にまとわりつくような風は吹かず、逆に肌寒さを感じる。
今日も昨日と同じ様な天気のはずなのに、今日の風は昨日より冷たい気がした。


数えるほどしかないが、夜空に浮かぶ星を見つめたあと、オレはこちらを向き、部屋の隅で姿勢をピンとして座っているソラを、オレの隣に招いた。

ソラはゆっくりと歩き、オレと少し離れた場所に、またさっきのように姿勢よく座った。

ソラが座った場所はオレから随分と離れていて、オレが腕を伸ばしてもぎりぎり手が届かない距離だった。
その距離にもどかしさのようなものを感じながらも、オレはまた空を見上げた。



無心になっているつもりだった。

でも無意識にオレはまた、ソラがここへ来た理由と、よそよそしい行動の理由を考えていた。


“オレだったら・・・・”


ふいに考えたそれを、考えがまとまっていないにも関わらずオレは話し始めていた。



「不安になるよなぁ」




ビクリとソラの肩が跳ねたことにオレは気づかなかった。


もしもオレだったら、不安になる。いきなり知らない場所で、知らない人に囲まれて。
それにいつも隣にいた火神がいない。

それから、火神が自分のことを好いているとソラ自身も感じていたはずだ。
これは火神目線だが、オレだったら勝負に負けたかもしれないが、意地でも迎えに行く。
ここからはソラ目線だ。ソラも火神が迎えに来てくれると思っていたのではないだろうか。




「オレも火神はお前のこと迎えに行くと思ってたよ」




ここまで言ってはっとした。もしもソラがオレと同じことを考えていたとしたら、オレはソラに言わなきゃいけない、伝えなければいけないことがあるのではないかと。

火神がソラに“頼りすぎていた”と言った。

黒子に対しても同じことを言った。


まだ火神と知り合ってそんなに経ってはいないが火神は不器用だと分かった。

不器用なあいつは黒子と距離をとるという方法で頼ることをやめた。ソラにも同じ様にした。

実際黒子は気づかなかった。一度頼ることをやめて、お互いのレベルを上げるという火神の考えに。


それはソラも同じなのではないだろうか。
火神の本当の気持ちを知らないまま、自分はいらない存在なのだと勘違いしているのではないだろうか。




「あいつはたぶんお前の事迎えに行こうと思ってたと思うぞ」




伝えなくては思いながらも、正直何をどう伝えたらいいのか分からない。でも、ここで言葉を詰まらせてはいけない気がして、俺は必死に言葉を紡いだ。

考えながら出す言葉は、とてもゆっくりだった。




「さっきのは俺の予測だがこっからは本当に話だ。」




小さく輝く星たちにに向けていた顔を、ソラへと変えた。姿勢よく座っていたはずのソラは、なぜかいつでも逃げられるような体制で身構えていた。




「火神はな

お前に頼りすぎてたって言ってた」




ピシリと。まるではく製になったかのようにソラは固まった。でも、グレーのような青のような、不思議な色をした瞳だけはグラグラと揺れていた。

俺は少しだけソラに近い位置にゆっくりと腰をずらした。




「火神のプレーが皆は自己中だって言ってるけど、俺には焦って見えた。」


---早く強くなって、早くお前の事迎えに行かなきゃ、ってな




「ソラお前、火神にとって自分は必要ないとか思ってただろ」




少し茶化すように言った。
それから逃げられるだろうと思いながらも、ソラに手を伸ばした。




「そんなことない。
お前は大事に思われてるよ。」




俺の声が届いたのか、ソラは俺から逃げることをせず触れることを許してくれた。

ぐっとソラの脇に手を入れて、自分の膝にソラを乗せた。
さっきは動揺で揺れていた瞳は、今度は困惑で揺れている気がした。


図星だったとみて間違いないだろう。

そうと決まればやることは一つだ。




「んじゃあ火神んとこ行くか!」




俺はそのままソラを抱えて立ち上がり、テーブルの上にある携帯電話を手に取り、電話帳から火神の名前を探し出し、それを耳に当てた。


がしりと俺のTシャツを掴み、不安そうな視線を俺に向けるソラに「心配するな」と小さく言った。
言い終わったのとほぼ同時に、電話のコール音が切れた。




「火神か?俺だ木吉だ。
お前ちょっと今から出てこれるか?」




俺は火神の返事を聞く前に、耳に携帯電話を当てたまま、玄関へと向かった。



* * *



「おはよう!」
「…木吉か。はよ」
「なんだ日向、元気ねーな」
「てめぇは朝から元気だな!!つかソラは!?」
「あぁ、それなら…」
「ちょ、ソラ!!!!!」
「おー!ソラ!!」



何が起きているか説明しよう。
本日もバスケ部はいつも通り朝練があり、木吉が体育館にやって来たが、日向は木吉と一緒にいる筈のソラがどこにも居ないことに気がついた。そんな時、なんともタイミング良く火神がソラを連れて体育館に現れたわけだが…



「何で即行木吉先輩に飛び付くんだ!!」



昨日の夜の出来事を知らないバスケ部一同は、今だ状況を理解できずにいた。
たまらず日向は木吉に尋ね、訳を聞いた。

木吉は「俺は火神にソラの気持ちを伝えただけだ」と簡潔に伝えた。


「なるほどな。
ソラがお前になついたのは…」
「木吉の事を"良き理解者"…てな感じに認識した、ってところかな」


木吉はソラの頭を撫でながら、なるほど!と納得した声を上げた。
「昨日はあんなに甘えてきたのに!」と嘆く火神をフォローするものは誰もおらず、どっと笑いが起こる。

昨日まで少し重く感じていた空気は何処へやら。木吉はソラの力を実感するのであった。

(ソラ…か)

撫でてやれば気持ち良さそうに目を瞑って喉を鳴らすソラに心の奥を擽られる。出来心でソラの額にキスを落とせば、動物のように赤い髪を逆立てて火神が俺からソラを奪う。
そしてまたみんなの明るい笑いが体育館を包んだ。昨日までツンとした態度の火神は明らかに今とは違って、こっちが本当の火神なのだろうと感じた。



「終わってみればただの痴話喧嘩でしたね」



冷静な黒子の一言に、赤面する一人を除き全員が首を縦に振った。
すると突然背後から短い笛の音が聞こえた。



「何みんな集まってんの!練習始めるわよ!」



リコの声で、みんなのスイッチが切り替わる。各自するべき事をするため、各々が動く中、俺はひとりソラに駆け寄った。



「おかえり」



やっと君はここに帰ってきた。
俺はそんな気がしたから。



「なにやってんだ木吉!早くしろ!!」
「悪ぃ今行く」



軽くソラの頭を撫でて、俺は輪になるみんなの元へ向かった。
誠凛の練習はこれから始まるのだ。



「誠凛ーーー!!!」
「「「ファイ!!!!!」」」



合わさった全員の声は、高い青空まで響いていった。



暑い、熱い夏はもう目の前に。ーーーー






−−−−−−−−−−−−−−−−
🌷あとがき🌷
おぉ・・・・。めちゃくちゃ書きにくかった…。
木吉さんめっちゃ好きなんです。好きなキャラはたぶんひいきしてます。(笑)
どうか皆さん木吉さんを好きになってください。いい人ですよね。もう包容力半端ないっすよね。ちょっと抜けてるけど、でも芯はしっかりしてる木吉さんマジサイコーです。
あとがきってよりつぶやきですね。すいません。


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