14.帰る場所はどこでしょうか

一時間が、一日が、一週間が過ぎるのはこんなにも長かっただろうか。

一週間。これは私が桐皇に来て経った時間でもある。
まさか本気とは思っていなかった。心のどこかで、青峰は火神を挑発するために私をかけの対象にしたのではないかとそう思っていた。
しかしそれは違ったと、本気だったと、誠凛が負けた後にようやく分かった。




「おい、行くぞ」




そして私は、青峰にそう言われ、今日も桐皇学園に行くのである。

火神の家から誠凛までの移動は直ぐに慣れたというのに、青峰の家から桐皇までの道は一週間が経過しても、初日と変わらず慣れないままでいる。



それは、私はいつまでここにいればいいのかという不安が日に日に積もっていくからであろうか。

決してうぬぼれているわけではないが、少なくとも私は火神に嫌われてはいなかったと思う。毎日ちゃんとお世話もしてくれたし、お風呂にだっていれてくれたし、ブラッシングもよくしてくれた。

だから、桐皇に来た私を力ずくでも連れ帰しに来てくれるのではないかと、そう思っていた。
でも、一日が経ち、二日が経ち、三日が経ち、一週間たっても火神は来なかった。


ここまでくると、火神にとって私はなんだったのだろうと考えずにはいられなかった。

むしろ私なんかいなかった方が良かったのか。

今まで火神の事を自分なりに支えているつもりだった。でもそれもただの“つもり”であり、火神にとっては鬱陶しかったのか。


そして今の私は、青峰と初めて戦った後、ストリートのコートで言ったあの言葉すら嘘だったのではないかと疑い始める始末である。



青峰は怖い。
でも手をあげる事は今までされたことはないし、そんな素振りを見せる事すらない。

ご飯だってくれるし、毎日じゃないけどお風呂に入れてくれたり、水浴びをさせてくれたり。


初めにあった警戒心を私は少しずつではあるが解き始めている。



火神に見捨てられるはずがないという、好かれているという、以前はあった自信は徐々に消えかけている。


初めこそ、青峰の目を盗んで逃げだして自力で誠凛に戻ろうとした。

でもできなかった。

まず一つに青峰にスキがなくてタイミングがなかった。でももう一つは、日が経つにつれなくなっていく自信が、逃げ出そうという気持ちを削いでいった。

そして今に至るのだと思う。




青峰は学校に行っても基本授業に出ない。でもごくたまに授業に出る。
これでも単位の事を気にしているのか、それとも学校側から寝ていてもいいから授業には出る様に言われているのか、と言われたらたぶん後者だろう。
窓際の一番後ろという超いい席で、寝るか、マイちゃんの写真集を眺めるか。それか、きっと暇でせめて手だけでもという感じで私の頭を撫でたりして、時間を潰すようにして授業に出ている。


でもほとんどは屋上で寝ている。と言うより、空を眺めている。

青峰の目はいつも何を映しているのかわからない。空の青色すら青峰の目には映っていないように思える。
だっていつも遠い目をしているから。



私が青峰から離れないもう一つの理由。

それは彼の隣には誰かいなければいけないとかと思うからだ。



ひとりで居るのが良いという人はいるけれど、それには必ず理由がある。

ひとりが良い人なんていないと私は思っている。



いつも誰かが傍に来れば、嫌がる青峰。追い払ったり、逃げたり。
でも私にだけそういうことをしない。


だから、もしかしたら、という思いが、私の“ここから逃げ出そう”という行動を止めた。




「今日もバスケやんぞ」




斜め前を歩く青峰が、後ろにいる私に少しだけ顔を向けてそう言った。

そして今の私は、青峰のバスケ相手だったりする。
それはもうほぼ毎日やっている。

正直私的には、青峰の相手になっていない気がするが、どういうわけだか、バスケをしようと誘われる。

確かに時々、本当に時々青峰のドリブルを止めたりするけど・・・。
普通なら嫌なような顔をするけれど、青峰は逆にうれしそうな顔をする。



こういうとき、私の胸はひどく痛むのだ。



理由は二つ。

誤解をうむかもしれないけれど、単純に青峰が可哀想だから。こんなにもバスケが好きなのに、思い切りバスケができないのかと。





もう一つは    火神のバスケをする姿が。

火神の笑顔が私の目の裏に浮かぶから。



* * *





それから更に一週間がたった。

前ほど一日が過ぎるのが長いとは感じなくなっている。



相変わらず火神が来る様子もなけらば、連絡もなく、もうこのまま青峰のもとでずっと世話になろうかという気にさえなってきた。

終始ピリピリした雰囲気があるイメージの桐皇だったけれど、そんなことはなかった。青峰と若松を除いてだけど。


誠凛ほどではないけれど、桐皇もなかなかいいのではないかと。




でも私が何か思うとき、“誠凛と比べたら”と、必ず誠凛と何かを比べる。

頭ではわかっている。


私は誠凛に帰りたいのだと。



でも心がそうさせない。


火神の事が心のどこかに引っかかるのだ。





例えば私が誠凛に帰ったら。

今まで通り火神と暮らすのだろうか。私を必要としていない、むしろ鬱陶しいと思われている火神と。


誠凛に行っても、帰る場所がないのではないのか。と





今日は雨だ。

雨の日に考え事をするのは良くない。良くない方向に物事を考えてしまうから。



そういえば火神に拾われたのも雨だったな…。


むっ。火神がなんだ。
私の事なんてどうでもいいのに、私の事拾ったりして。

本当にもうわけわかんないよ。




「ソラちゃん!体ふかなきゃ!」




学校に着くなり私はさつきに捕まった。
今日は雨で、勿論濡れる。

意外と世話焼きの青峰だがタオルは常備していないようで、幼馴染であるさつきがそれを見込んだのだろう。
学校に着くとすぐに真っ白なタオルで私をくるんで持ち上げた。部室に行くためだ。


ちなみに桐皇の方々には(プレイヤーだけだけど)、私がトラだとバレている。
でも今吉が、リコのように、日本でトラを飼うことは法律違反だと知っていたから、広まずに済んでいる。

それにしても妖怪サトリ、じゃなくてキャプテンの力は偉大なようで、“誰にもいうなよ”と口止めした時、体育館の空気は一瞬にして冷たくなった。

いやぁ、恐るべし今吉。



他の生徒にバレると私は動物園送りになるので、着替えはバスケ部の部室や、青峰かさつきの家である。


ちなみに着ぐるみは、桜井が作ってくれた。
さつきはできないらしい。


うん、女子力なら微妙にリコの方が勝っているようだ。
どっちも料理はできないけど、誠凛着ぐるみはリコが作ってくれたからね!!



でも桜井の女子力は、女子でも勝てない。
桜井の女子力はすごい。




部室に着くなり私はベンチの上に乗せられた。今日は朝練があって、体育館の方からは、ボールが跳ねる音や、バッシュのスキール音が聞こえてきた。

いつもは朝練なんかに青峰は来ないけど、今日は監督に呼び出されてるとか何とかで、途中まで一緒だった青峰はいなくて、今はさつきと部室で二人っきりだ。


私の体をふき終わり、新しい着ぐるみを着せてくれたさつきは、膝に私を乗せ、頭を撫でながらしゃべり始めた。




「青峰君がごめんね」




さつきは、こっそり私を誠凛に返そうと思っていると、告白した。でも青峰の目を盗むことは難しく、中々実行できないと。


そう、だったんだ・・・。



もっと早くに聞いていたら、その話に飛びついた。でも今は……




「火神君のこと、気になるよね」




私は別、に。火神の事なんか。




「火神君、怪我が治るまで一度も部活こなかったみたい、」

ーーー私も、火神君なら…とか思ってたんだけど。




火神が…、練習に出てない…?



「昨日やっと練習に来たみたいなんだけど、なんか・・・・」

ーーー今の青峰君みたい




「ソラちゃん!??」







私はさつきの膝から飛び降り、微妙にあいていた部室の扉をすり抜け、雨の中に飛び込んだ。



さっき脱いだばかりの誠凛の着ぐるみを咥えて。









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あとがき

シリアス続きです\(^o^)/
初めの方は割とギャグっぽかったのに、すいませんっ!!
次で終わるはず…!
あともう一章だけシリアスにお付き合いお願いいたします・・・・・
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