されたくてされたくなくて


最近頻繁にテレビで『壁ドン特集』なんていうのがやってる。
女子がされたいシチュエーションとして紹介されており、『壁ドン』と言ってもその種類は様々であり、両手ドン、ひじドン、股ドンはよく聞くが、かつあげドン、あたまがいたいドン、せみドンなんていうのがあるそうだ。


そんな今話題の壁ドンは女子の会話の話題として少々取り上げられたりする。




「壁ドンされたいとは思うけどさ、やっぱ好きな人限定だよねー」

「それな。
じなきゃせめてイケメンに限る。」




『壁ドン』は女子の憧れではあるが、その前提は『好きな人にされる』なのだ。

共感の意思を示すため、私は首を縦に振った。



「ねぇミョウジ」



友達のひとりが私の名前を呼んだ。
一体なんだろう。
『何?』と返すと、その子はいじめっ子のような表情で言った。




「火神に壁ドンされた?」




突然の質問に私の顔は真っ赤になった。
普通ならこんなになった顔で『されてない!』なんて否定されても誰も信じないだろう。
それよりもまず、この反応でされたかされてないかなど簡単に予想がつく。

しかしこの友人ふたりは私に返答を求めた。

なぜならこの私、赤面症なのだ。

なんでもすぐ顔が赤くなるため、私の反応イコールその質問の答えとなるわけではない。

ふたりの目が何かを期待したような色をしているが、残念ながらされたことはない。
そう告げるとふたりは『なんだ〜』と肩を落としたが、また別の質問を投げ掛けた。



「何、されたいとは思ってるの?」

「……うーん。。
されたいけど、されたくない……?」



なんと訳の分からない返答だろうと自分でも思ったが、本当にされたいけどされたくないのだ。
案の定、理由を聞かれた。




「だって……隣にいるだけでどきどきするのに、壁ドンなんてされたら……」




想像しただけでも顔が赤くなるのに本当にされたらどうなるのか分からない。
ぎゅっと瞑った目を開ければ、ものすごい顔をする二人がいた。

『でたよ、リア充。』と軽く舌打ちをされたが、いつもこんな調子なのでさらりと流した。


今更だが私は火神君と付き合っている。
友達が言った通り、お互い恋人という関係に未だ慣れず手もろくに繋げず、ましてやキスなんて……という状況である。



「でもさ、壁ドンって普通に生活してたらされなくない?」




私は言った。
相手がしようと思わなければ壁ドンなんて一生体験できない。
あるとしても電車が大きく揺れてバランスがとれず、つり革もつかめず、咄嗟に壁に手を思い切り着けるくらい。

私は家から学校が近いため、基本的に歩いて来る。
だから電車に乗る機会が無い。


説明すれば『確かに…』と納得された。
するとふたりは、はっとして顔を見合わせ、それからふたりとも同じ意地悪そうな顔をして、こちらを見た。




「な、何…?」

「まぁ、あたしたちに任せておきなさいって!!」




何か良からぬことを企んでいるのは分かったが、聞いても教えてくれず、『そんなことより』といって話題を変えられてしまった。


何か起きると思ったが、その日は何も起きず数日が経過した。



* * *


バスケ部は忙しいといっても週に一度だけオフがある。

普段は昼休みに部活のミーティングがあったりするのだが、なにもない日は晴れた日は屋上で一緒にお弁当を食べたりする。


今日はまさにその日。
今まであったことを話したり聞いたり。決して会話が弾んでいたわけではないが、とても楽しくて時間はあっという間に過ぎていった。

昼の授業が始まる時刻が近付いたため、私たちふたりは屋上を後にした。


火神君は優しい。
クラスは別々なのだが、律儀に教室まで送ってくれる。

『ありがとう』と言うと、火神君は『ん、じゃあな』と返しながら、私の頭が撫でやすい位置にあるのか、頭を軽く撫でて自分のクラスへと戻っていく。

今日もそうなるはずだった。



「ありがとう」




いつの日か『あたしたちに任せておきなさい!』と言ったあのふたりが火神君の背後に居たことに、火神君しか見ていない私には分からなかった。

火神君の手が私の頭に触れそうに為ったその時だった。

乾いた音が自分の顔の近くから聞こえた。
背中には壁。
いつもより近い火神君との距離。

それからいつもよりずっと近い火神君の顔。──

状況を理解するなり私の顔は一気に赤くなった。




「っ!誰だ今押したやつ!!」



火神君はぱっと離れ、私に背を向けた。
『お前らかよ!!』と彼がいう声も聞けず、私はすっかり熱くなってしまった顔に手を当てていた。


い、今何があったの……!??
壁ドン……?今のが壁ドンなの!??
想像以上に距離が近い……!!!



「大胆ですなぁ」
「お前らが押しただけだろうが!!」
「え、今なんて??」



こんな会話がぎゃーぎゃーと目の前で繰り広げられているにも関わらず、私は火神君の睫毛って意外と長いんだなとか、やっぱり身長凄く高いんだなとか、鼻筋通って綺麗だなとか、やっぱり火神君の目が好きだなとか、そんなことで頭が一杯だった。

どうしようさっきから心臓の音がおさまらない……!!

くるりと火神君がこちらを向いた。



「あの、さっきは悪かっ、、た」



語尾に向かって火神の声はどんどんと小さくなっていき、それから湯気が出るのではないかと思うほど顔を赤くした。

それもその筈。
させられたとはいえ、自分が大胆なことをしてしまったことにかわりはないと自覚し、かつ大好きな彼女が顔を真っ赤にしているのだから。



「だ、大丈夫!
全然大丈夫だか、、ら」




明らかに大丈夫ではないが、大丈夫と自分に言い聞かせる姿は可愛らしく、只でさえ可愛いというのにそれが好きな人ならば尚更だ。




「お、おう。ならいいんだけど……」

「大丈夫!大丈夫なんだから!」




しっかりした会話をしているように聞こえるか、お互いがお互いに顔を合わせられずにいる。

火神はそっぽを向き、ミョウジは俯き。


初なふたりにそれを目撃していた生徒はみなバカップルめと思った。
そして誰もが収拾がつかないこの状況に『誰かなんとかしてくれ!!』と心の中で叫んでいた。





「お前らおアツいのはいいが授業はサボらせねぇぞ」




その場は最近彼女にフラれた若い男教師によっておさめられたとかなんとか。



火神と一旦わかれ、授業のため席についたあともミョウジの頬は赤いままであった。

頭の中にあるのは当然さっきあったことだ。



いつもより近かったな……。
すっごいドキドキした……!!
またされたい、とはおもうけど、でもでも……!!

何回もされたら心臓が持たない……!!!




──Q.壁ドンされたいですか?




「されたいけどされたくないです!!!」


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