眠り姫と

テスト期間。

それはテストでしっかりと点を取れと、部活がぱたりと1週間なくなる苦痛の期間である。


赤点を取れば勿論補講というペナルティーが待っている。
それだけはなんとしても避けたいものだが、バスケ漬けの毎日を送っているから、じっとなどしていられず、当然身体はそれを求めて仕方ない。


早川はひとりバスケ部の部室へと足を進めていた。


いくら勉強をしろと言われても限界がある。息抜き程度にならいいだろうという考えだ。


部活が無いということは勿論苦痛だが、それと同時に違う苦痛がある。


それはマネージャーに会えないということ。


ご察しの通り、早川はひとつ下のナマエに恋心を抱いている。

学年が一緒なら、偶然廊下ですれ違うこともあるだろうが、生憎学年は異なり、対して仲がいいという訳でもない。

そもそも付き合ってもいないのに、特に用もなく会いに行くのはどうなのかと、恋愛経験がほぼないと言っていい早川には分からないかった。


部室に向かう途中も、偶然彼女に会えないかと少し周りを気にしながら歩く早川だったが、結局会えることなく部室に着いた。



部室の前まできて、鍵を持ってくるのを忘れたことに気が付いたが、誰かが閉め忘れたのかその扉は少し開いていた。


誰かいるのだろう。
それがもしナマエだったら…と。ほんの少し期待しながらその扉を押した。




「マジ、か……」




思わず声が出てしまったのは仕方がない。
そこにいたのは紛れもなく会いたいと思っていた彼女だったのだから。

しかし部室中央に置かれた長椅子の上に座りながら上半身だけを横たえたナマエはどういう訳だかピクリとも動かない。

何となく音を立てないようにしながら彼女の正面まできてやっとその理由が分かった。


(寝てる……)


寝ている理由は不明であるが、彼女がここにいる理由は分かった。
そして改めて自分たちは彼女に支えられているのだと感じると共に、彼女への愛おしさが溢れ出す。

彼女が腕に抱きしめていたのはスコアブック。
ベンチの上に積んである紙の束は、ついこの間練習試合のもの、試験後に予定している練習試合対戦校の過去のデータ。


それから部員全員の分析と、今後の練習メニュー。


マネージャーがここまでする必要はないのかもしれない。
しかし彼女はそこまでこなす。
いつも一生懸命で、手を抜かない。

そんな彼女に自分は惚れたのだ。

目の下にうっすらと隈があるのは、部活の事をやりつつ試験勉強をして寝る時間を削っているからであろう。



「ったく…。むい(無理)ばっかしやがって……。」



漏れるような笑いを溢しながら、そっと彼女の頭を撫でた。

バスケをしようと部室に来たというのに、なんだかどうでもよくなってきてしまったと言うと語弊があるが、早川は勉強すべく部室から立ち去ることにした。

早川はレギュラー。だから勿論赤点などとって補講で部活に出れないなどあってはならない。

それに、彼女がこうして無理をして自らの役割を果たしているというのに、補講で練習試合に行けない何て事になったら折角の彼女の努力を無駄にしてしまうことになる。

それだけはしてはいけないし、したくもない。



(じゃあ……帰るか……)



久しぶりといっても数日ぶりだが、ナマエに会えて(?)幾分かやる気がわいてきた。
起こさないようにしてさっさとこの場から去ろうとしたが、少し寒そうに身体を縮こまらせたナマエを見て、慌てて自分のブレザーを脱ぎ、そっと彼女にそれをかけ、早川は部室を後にした。



「がんばう(る)ぞー!!」




早川は廊下でひとつ吠えると、普段と違う重さの鞄を肩にかけ、全速力で自宅へと向かった。

道中、彼女にかけたブレザーをどう回収しようかと悩んだが、部室に行けば、彼女の事だ。きっと綺麗に畳んでどこか分かりやすいどころにでも置いておいてくれるだろう。

そう思った早川は家へと進める足をまた速くした。

しかしその次の日、彼女が早川の教室を訪ね、わざわざ自分のところまで返しに来てくれた。

そのせいで同級生にからかわれたのはまた別のお話……



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