好きなもの
好きな人の好きなものって気になるし、知りたい。
それが自分と同じであれば嬉しいし、そうでなかったとしても、相手の好きなものを知っているのと知らないのでは違うのではないだろうか。
だから知っていて損はないと思うんだ。
『ねぇ木吉』
席が前後な私たちは、いつの頃からか一緒にお弁当を食べるようになった。
いつからっていうのはハッキリ言えないだけで、言ってしまえば私の気持ちが彼に向いた時からだ。
まぁそれはさて置き本題に入るとしよう。
『木吉の好きなものって何?』
もう分かったと思うが、私の好きな人はこの木吉鉄平である。
宇宙人レベルの天然にまわりくどいことをしても無駄なのは知っているから、こうして地道に彼の情報を得て、自分を好きになってもらう努力をするしかない。
木吉は少し上を向き、考えながら答えた。
「好きなものか―。
まずはバスケにどら焼きだろ?
それからー 」
予想通りの返答で、"やっぱそうなんだ"くらいの感想しか出てこない。
分かりにくいかも知れないけど、木吉は相当なバスケバカだ。
逆にバスケと言わなかったら「バスケは?」と聞き返していただろう。
歯切れの悪い返答だったから次の言葉を待ったが、次々と好きなものをいい連ねる木吉に私は少々ため息をついた。
ネコに犬にスズメにウサギに…(エトセトラ)と言われたときは流石に突っ込みたくなった。
もうそれまとめての動物で良くない!?
あと大根の味噌汁とアサリの味噌汁と茄子の味噌汁と…(エトセトラ)…。
もうこれもまとめて味噌汁が好きで良くない!?
突っ込んだ方が良いのかと迷ったが、木吉はツッコミを求めるようなタイプではないから辞めておいた。
体力の無駄遣いだもんね。
それにしても好きなものが多すぎる。
これは逆に嫌いなものは何かと聞いた方が良かったと後悔した時、木吉が言った。
「あとはものじゃねーけど、じいちゃんとばーちゃんと、チームメイト。
それからミョウジのことが好きだ」
『へぇーそうなん、、、だ……?』
んんん?今なんて言った??!
適当な相槌を返している途中、木吉が妙なことを言っていることに気付き、何ともおかしなイントネーションになってしまった。
私!?嘘!!もしかして木吉も私のこと……!!!
……ってそんなわけ。
自分の名前を呼ばれ、確かに一瞬ドキッとしたが、この好きは友達としてだとすぐに理解したから、一瞬跳ね上がった脈拍は今はもう大分落ち着いた。
勘違いするような事をするなと言いたくならない訳じゃない。ただ、直せといっても天然は直せるものじゃないから、こちら側が気を付ければいいだけの事だ。
まぁ頭で理解していてもそうできないのが本当のところなんだけど。
本来自分の名前が挙がったことにまず喜ぶべきだけど、素直に喜べないわけで。
だって、私は好きなのに、ねぇ??
ヤバいなんか泣きそう。
こんなになるなら聞かなきゃよかった。
思わず俯くと上から声が降ってきた。
「返事くれると嬉しいんだけど」
……なんの?
訳の分からない事を言われ、私の顔は自然と木吉に向いていた。
頬を人差し指でかきながら苦笑いを浮かべる木吉の顔が、いつもと違って見えるのは気のせいなのだろうか。
色々なことを疑問にも思っている間に謎は全て解けた。
「さっきのは告白のつもりだったんだが……」
突然の意味不明発言に対応しきれない私じゃない。
でも流石にこれは無理だ。
「わ、分かりにくいわバカ木吉!!!」
木吉に思いを告げられ。それも予想もしなった突然の告白。
嬉しいのと同時になんだかくずぐったくて甘酸っぱい感情が襲い掛かってきて、その場所に居てもたってもいられなくなった私は、木吉にそう言い捨て教室から飛び出した。
──それからミョウジのことが好きだ
廊下を駆けている間、その言葉だけがずっと頭の中をぐるぐると回り続けた。
好きなもの。
──それは好きな人。
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