放課後でーと?

雲ひとつない青空をぼんやりと眺める深い青色の瞳。屋上に寝転ぶ彼はゆっくりとめを閉じた。

天気は晴天。今日は涼めの風が吹いており、とても気持ちが良い。まさにひなたぼっこ日和だ。私も隣にいる彼のように寝転びたいが、スカートがめくれたら困るから座ったまま。

そのまま会話もなくぼぅとしていると、斜め下から声がした。誰と言わず隣にいるあいつ。青峰だ。



「この後暇か」

「まぁ」

「んじゃ付き合え。」



そういうと青峰はダルそうに体を起こした。
『私の返事は聞かないのか!』とも思わず、これがいつものやりとりだ。拒否権がない訳じゃない。バイトとか予定があるときは普通に断る。
今日みたいに予定がない日は帰ってもやることはないし、暇な時間がそうじゃなくなることは私にとってありがたい。青峰と私はそんな感じだ。


ある時はゲーセン。またある時はショッピング。何かを食べに行ったり、たまにストバス。まぁ最後のに関しては見てるだけだけど。



「マジバの期間限定シェイク飲みたい」

「ん」


短く返事をした彼は、伸びをすると立ち上がった。私もすっかりかたまってしまった肩を軽く回し、同じように立ち上がり、その場を後にした。


昼のピークも過ぎ、夜手前のこの時間は空いていて、私たちは適当な席に着いた。
私は期間限定のシェイク、青峰はいつものポテトとコーラ。

その後はしゃべったり、スマホをいじったり。端から見たら仲が悪そうに見えるかもしれないがいつもこんなんだ。青峰も元からベラベラしゃべるタイプでもないし、私もそう。これが普通で、お互い気楽に感じていると思う。

まぁ、こんな感じが私たちだ。


それから、帰りはなんやかんやで送ってくれる。青峰は意外とこういうところがしっかりしている。いつも適当なのに。なんせ物騒な世の中だ。とてもありがたい。


こんなのが私たちの日常。ずっと変わらない。そう思っていた。



次の日、普段通り授業を受け、昼休み時間廊下を歩いていると突然手首を捕まれた。少しだけ驚いて振り返ると、髪を明るい色に染めたちょっと派手な女子生徒がいた。
用件はなにかと聞く前にその子は言った。



「昨日マジバで青峰君とあなたが一緒にいるの見たんだけど、あなたたちって付き合ってるの?」



その女子生徒の勢いの凄さに顔がひきつる。十中八九、彼女は青峰が好きなのだろう。「付き合っていない。ただの友達だ」そう言おうとしていた所に、高い声に遮られた。



「青峰君!!
ねぇ、この子と付き合ってるの?」

「ちが、」

「だったらなんだ。
おい。行くぞミョウジ」



状況が飲み込めていない私の事など一切きにせず、青峰は私の手を引き、屋上へと連れた。
昼休み時間のため、廊下には沢山の人がいたのにあの女子生徒にあんなことを言われ、青峰もあんな台詞を放ってその場から去った。何て目立つことをしたんだろう。付き合う以前にお互い好き合ってもないのに。あれじゃあ勘違いされてもおかしくない。



「青峰、さっきのあれじゃ誤解されかねないって」

「あ"?事実なんだから誤解もなにもねぇだろ」



思考が一瞬固まった。この意味が、分からないほど私は鈍感でもないし馬鹿でもない。



「ねぇ、私たちって付き合ってた、の……?」

「はぁ!?お前、マジか。」



青峰は『信じられねぇ』と言いながら、片手で頭をかかえた。なんだ。なんだ。青峰に呆れられるとは。なんだかむかつく。
青峰から告白された記憶はない。というか、そもそも青峰が私の事好きだなんて、少しも感じなかった。一体どういうこと?



「何度もデートしたじゃねぇか!」



半ばキレて青峰が言った。苛立った表情なのは気のせいではないだろう。
それにしても、デート……?何度も?
だめだ、心当たりが無さすぎる。返す言葉が見つからず、私は黙るしかなかった。



「昨日だって……!一緒にマジバ行っただろ!」

「あ、あ、あれデートだったの!?」



思わず驚きの声が出てしまう。落ち着くんだ私。仮にそうだったとしても、だ。私は青峰から告白されたことも、好きと言われたこともない。デートしたら、カレカノになるのか?いや、それはないだろう。



「でも私、青峰に告白されたことな……」

「付き合えよ、っていったらお前、いいよって言っただろうが!」

「そ、それ、は……!」



私と青峰の今の関係は、青峰が言ったそのやり取りがはじまりだ。その会話は、私の記憶にある。
でも。でもだ。それを初めて言われたときも、昨日のような『暇か?なら付き合え』なノリで言われた。それが告白だとは知らず、昨日のように『いいよ』と答えたのだ。もしそれが告白だって知ってたら……



「好きでもねぇ女をデートに誘うわけねぇだろ」



青峰の言葉は、私の思考を停止させるには十分だった。これで彼の気持ちがわからない私じゃない。
今までそういう対象として見ていなかっただけで、意識してしまえばそこからは早かった。
あっという間に、自分でも分かるくらい顔が熱くなっているのが分かる。顔は絶対に赤くなっている。

私、青峰の事好きだったんだ……。

いつの間にか外していた視線を青峰に戻すと、彼はニヤニヤと意地の悪い笑みをうかべていた。
あまり見ることの無い表情にドキリと心臓が跳ねた。



「んじゃ、そーゆーことだから今日も放課後空けとけよ」



そんな彼に、私は『はい』と返したのだった。

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