青峰君の出席事情
窓から2列目、一番後ろの席。
人はその席を喜ぶかも知れない。
しかし私はそうは思わない。
その理由はたぶん。……いや、絶対こいつのせいだ。
「ちょっと今日も教科書持ってこなかったの!?」
「たりめーだろ。いちいち聞くなっつーの」
窓側一列目、一番後ろの席。
つまり私の隣の席の人。
名前を青峰大輝という。
嫌いではない。
ただ……
こいつムカつく!!
青峰と隣の席になり何週間か経過したが、こいつが教科書を持ってきたことなんて一度もない。
『持ってこい!』と言ったことがあるけれど『お前が持ってくるから良いだろ』と、速答された。
全然良くない!何も良くない!!
私はあんたのために重い教科書を何冊も持ってきている訳じゃない。
まぁ、教科書を持ってこないのは良しとしよう。良くないけど。
教科書をみせろという割にこの男。全く真面目に授業を受けないのだ。
授業中に寝る。話かけくる。無視すると教科書に落書きしてくる。
全く何てやつなんだろう。
次の定期試験の結果が悪かったら絶対こいつのせいだ。
そして、やつは今日も私に教科書を貸せと言ってきた。
『誰が貸すかあほ!!』と言ってやりたいところだが、それをやって以前大変なことになったので、ぐっと言葉を飲み込んだ。
諦めた私は、はぁとひとつため息を着き、青峰のいる側に教科書を寄せた。
それがいつものOKの合図で、青峰は私の机に自席の机をくっ付ける。
基本何をするにも雑な青峰だけど、この時だけは何故か丁寧で。
ガンッと大きな音は無く、コツンと小さな音を立てて私たちの机はピタリと綺麗に並んだ。
それにしても不思議だ。彼はなぜ学校に来るのだろう。
彼の授業態度を見る限り、学びに来ている筈はない。アホすぎるし。
かといってバスケをしに学校に来ているわけでもないみたいだし。
そういえば最近学校によく来る気がする。
隣の席になったからそう思うだけかもしれないけど。
なんか気になったから授業中だけど聞いてみた。
「ねぇ、青峰ってなんで学校に来るの?」
屋上で昼寝するため?
ただ単位取得に必要な出席日数を稼ぐため?
どんな答えが返ってくるかと予想を立てていると、青峰は頬杖をつきながら少しあきれ気味に言った。
「はぁ?
んなもんお前が好きだからに決まってだろ」
チッと短く舌打ちする音が聞こえた。
なんで私は青峰に舌打ちされたの。
というか今こいつなんて言った!??
取りあえず一旦考える為に離れようと、机を離そうとした時だった。
机に置いていた私の手の甲に、自分のよりもずっと大きな手が重ねられ、それからきゅっと強く手を握られた。
「なんで離れよーとしてんだよ」
「え、いや。それはあの…」
自分でも分かんないよ!
それよりもこの状況何!!青峰、手っ!!何してくれちゃってんの…!!
意味の分からないことを言われ、意味の分からないことをされ。私の頭はショート寸前だ。
学校に来る理由が私が好きだからって何!!
だってさそれってさ!?
「あ、ああ青峰って私の事…」
「だから好きって言ってんだろうが。何回も言わせんなボケ」
何度も言わせてすみません。それよりも何度も言わないでください。
なんか心臓おかしい。
「わ、分かったから!!手離してっ…!」
「はぁ?なんでだよ」
「ノートとるから…!!」
青峰は離そうとしないので無理やり引き剥がし、その手でノートを押さえた。
あー!青峰のせいでノートとりきれないじゃん…!
あーもう!こんなになると思ってあんなこと聞いたわけないのにー!!
青峰のバカ!!!
未だにドキドキが収まらないだなんて絶対に教えてやるものか。
未だ耳に残る彼の言葉を頭から消し去るために、私は必死にペンを滑らせた。
青峰が学校に来る理由。
それは、好きな人に会うために。──
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