それでも君が
※黄瀬くん、夢主ちゃん2年生設定です。
皆のアイドル、そして私の彼氏でもある黄瀬涼太は今日も黄色い声援を浴びている。
前は何も思わなかったけど、最近は妙に不安になる。
『黄瀬君格好いい!!』『黄瀬君好き!!』なんて言葉は良く聞いていた言葉。もう慣れたはず。
なのに何故今更と、考えずとも分かっている。
以前の黄瀬、夏手前ごろの黄瀬は『何でもかんでも思い通りになるこの人生はなんてつまらないのだろう』と人生を舐め腐った態度だった。
それにチャラい。来るもの拒ます去るもの追わず。何にも執着せず、ただ思うがままの生活を送る黄瀬が、私は嫌いだった。
彼に言い寄る女の子達も、彼と本気で恋愛する事は出来ないと悟っていたのか、彼女達が彼に送る『好き』という言葉は何処か軽く感じた。
そんな何処か冷めた黄瀬が変わった。
何がきっかけとかは知らないけど、放課後ひとり遅くまで残って練習していたり、走っていたり。
暗がりでもわかるほどの鋭い眼差しに魅せられて、私は彼を好きになった。
それから何ヵ月か後に玉砕覚悟で告白して、奇跡的に付き合うことになった。
彼が辛い思いをしていた時も知っているし、弱音をはかずに頑張る彼を非力ながらも私なりに支えていたつもりだ。
黄瀬は弱い部分を私にしか見せないし、私もそうだ。
信頼されているのは分かっているし、彼を別に疑うような事はしていない。
ただ、不安なのだ。
彼を本気で好きな人が現れることが。
冬を越し、春になって私たちは2年生になった。
チャラかった黄瀬はもうおらず、部活だけでなく、なんでも真剣に取り組むようになった。彼の変化に少しずつ気づきはじめて、『黄瀬君が好き』という女の子達から発せられる言葉には本気さを感じられるようになった。
黄瀬が皆から好かれるのは嬉しい。
でもライバルが増えるという面では、思わず顔をしかめてしまう。
いつかバトルをするんだろうか、とか。
私よりいい人が現れたら私はどうなるんだろうか、とか。
「ナマエっち今余計なこと考えてない?」
帰り道、隣を歩く黄瀬が唐突にそんな事を言うもんだから、驚きで肩が跳ねた。
考えていた内容もスパりと言い当てられ、私はなにも言えず黙り込んでしまった。
「なんで俺のこと信用してくれないんスか。
……って怒りたいっスけど俺もたまににたようなこと考えるから何も言えねぇっスわ」
似たようなことを思われるほど、私はモテてない。というより今まで生きてきて告白されたことなんか無いと疑問に思いつつ、その言葉にはまだ続きがある気がして私は言葉を飲んだ。
「例えどんなに美人でスタイル良くて性格も良くて完璧な人が現れたとしても
みんながその人を一番だと言ったとしても」
黄瀬がいる右側の手が大きな温もりに包まれた。
「それでも俺の一番は……」
黄瀬はそこで言葉を止めた。
『誰なの?』と聞くのは野暮だ。
彼の気持ちなど、この右手から伝わってくる温もりだけで十分だ。
「うん。
じゃあマジバ行こっか」
「そっスね。
あぁ〜腹へったー!!」
甘い言葉はこれから何度も言われるし言うだろう。
伝わっているのなら何度も言う必要は無いだろう。
きっと今、お互いにたようなことを考えている。
例えこの先どんなに素敵な人が現れようが
他人がなんと言おうが
それでも君が一番だと。──
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▼あとがき
書こうと思っていたものと違うものが出来上がりました\(^o^)/
本当はもっと明るい御話になるはずだった!!暗い!
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