常夏のおめでとう

夏休み。なんて素晴らしい響きなんだろう。夏休みの宿題?それは今は置いておこう。
 学校や勉強が嫌いなわけではない。ただ休みが、自分のやりたい事が出来る時間があるのは最高なだけ。さて、今年の夏は何をしようと、心を躍らせた。程よく宿題をこなし、バイトをしながらやりたい事をやる。その予定だった。


 しかし、現実はそう甘くなかった。


 そう、1学期の期末テストを盛大にやらかしたのだ。何を隠そう。解答欄がズレていた。馬鹿だと思った?自分で言うのもなんだが、学力は今のところ問題ない。
 大学受験の方式になれようという名目の、採点が面倒くさいという理由でマークシートの科目があった。ご察しの通り、マークがずれており赤点。夏休みの補習講座に強制受講となった訳だ。


 今日は補習講座初日。指定された教室の扉を開ければひやりとした冷房の風を感じた。
 席はもうすでに幾つか埋まっていた。席は自由の様で、どこにしようかと教室を見渡した。ある人物とぱっと目が合い、私はその人物の隣に足を進めた。



「おはよう、火神」
「はよ」



 目があった人物とは、クラスメイトの火神火神。2、3回席が近くなったことがあり、よく話すクラスメイトのひとりである。



「お前が赤点採るとは思わなかったわ」
「あ〜……。」


 訳を話すと、「まぁ、そんなことだろうとは思った」と言われた。火神には何度か勉強を教えたこともあり、火神は私が勉強がまぁそれなりに出来ることを知っている。



「火神は予想通りだね」
「ほっとけ!」



 見た目はガタイが良くて、目付きも鋭いから怖いと思われがちだが、実際はそうでもない。だから、ちょっといじっても怒ったりしないし、怖いどころかむしろ優しい人物だ。

 話している間に、講義開始時間になり私たちは机に向かった。火神は、つまらなそうに……というより訳が解らなさそうに、時々眠そうに講義を受けていた。
 私はというと、大変退屈だったため、なんとなく講義を聞きながら、この後やるであろう配布された演習問題を解いた。

 その後は、火神に分からないと聞かれたところを教えたり、答え合わせをしたりとしているうちに補習終了時刻となった。
 私は特に部活には所属してはおらず、このまま帰宅だが、火神は午後から部活があるらしい。この暑い中頑張るなぁと感心してしまう。『頑張って』と一言声をかけようと思ったのだが、その前に火神が口を開いた。



「なぁ、『おめでとう』って言ってくれねぇか?」



 火神は割と真剣な顔をしているが、求められた言葉に首を傾げてしまう。



「頑張れじゃなくて?」



 これから部活なのだから、普通はそうだ。ありがとうって、何で?
 聞き返したが、『おめでとう』と言って欲しいらしい。まぁいい。別に減るものではないし。ただ理由は気になるが。



「お、おめでとう?」



 なんとなく疑問系になってしまう。 何についておめでとうと言ったらいいのか分からなくて。言う前にどうしてって聞けば良かったな。今でも遅くないか。聞いてみようと思ったが一足遅かった。



「ありがとな!
じゃ、オレ部活行くから」



 嬉しそうに、そして爽やかに笑った火神はあっという間に私を残し教室から居なくなってしまった。他の生徒も既に教室を出ており、ぽつりと教室には私ひとり。途端に静かになった教室には冷房の音が響いた。
 正直、どうしておめでとうを要求されたのかとても気になる。走って教室を出た火神を追うにも、帰宅部の私では追いつかないし、体育館まで行って呼び出して聞く内容でもない。
 不幸な事に、夏休みの赤点補習はまだある。複数回ある補修日に不満はあったが、お陰で火神に聞けるチャンスがある。不幸中の幸い……といっては大袈裟だけど。

 さて、今日は諦めて帰ろう。冷房を切ってから教室を出た。


 あの日、火神の誕生日だったのを知るのは数日後のことだった。




ーーーーーー
●後書き
大遅刻の誕生日お祝い!そして久しぶりの更新……!
好きな子に誕生日をお祝いしてもらいたいかった火神君です。可愛いね!←
高校1年生らしい彼を表現できたらなーと!
ここまてま読んでくださりありがとうございます!
そして火神君誕生日おめでとう!これからもずっと推してくぜ!!!

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