ハイヒール

"きゃー!!"と、黄色いものとは違う、恐怖を表現する悲鳴がどこかから聞こえる。一方、キラキラしたメルヘンな装飾を施した乗り物からは、楽しそうな音楽と共に木馬が上下に動いている。

休日なこともあり、周りには人ばかり。連れとはぐれようとしたらいくらでもできるだろう。



「お待たせしました」
『あ、テツヤ。ありがとう。』



今はテツヤとデート中だ。場所はわかったと思うが、遊園地だ。
少し休憩しようということで、テツヤは私をベンチに座らせ、飲み物を買ってきてくれた。手渡されたペットボトルを再度お礼を言いながら受け取り、テツヤが私の隣に座るのを見てからペットボトルの蓋を開けた。

いくら楽しいからと言ってもやはり疲れは溜まるもので、履き慣れたスニーカーを履いてきたというのにも関わらず、休日は引きこもる帰宅部の私の足は悲鳴をあげ始めている。

それにしても遊園地という場所なだけあって、カップルが多い。(私たちもそうだけど)
足が疲れている今、目がいくのは人の足元。きちんとした数は数えていないが、カップルのうち7割くらい、彼女さんたちはヒールを履いている。ローファー程度のヒールならまだ良いかもしれない。だか5センチを超えるものがほとんどで、馬の蹄みたいに分厚い靴底プラス高いヒール、みたいな人も少なくない。

さっきからこんな人たちをずっと目で追っている訳だが、尊敬の一言しかない。

私の足は少し変な型をしていて、合う靴が中々無い。普通の靴を探すのに大変なのに、ヒールなんてすぐに見つからないし、履いても結局すぐに靴擦れする。普通の女子なら我慢して履くんだろうけど、生憎私はそんな女子じゃない。自分に合うものでどうにかしている。

うわっ、何あれ。高過ぎ。よく歩けるなー。
おぉ、こっちもすごい。あんなの履いたら普通にテツヤより身長高くなるわ。



「 ……さ… ナマエさん」
『うぉ!なに?』



ヒールの靴を追うのに必死でしっかり集中してテツヤの存在を忘れていた。
慌ててテツヤに目をやると、何か言いたげだが言いにくそうに少し顔を歪めて私を見ていた。
何、私なんかしたかな。



「ナマエさんもヒールのある靴履きたいですよね」



…………………………ん??



「僕の背が低いせいで…すみません。」



………………………んんんんん???
テツヤが「僕のことは気にせず好きなものを履いてください」とか言ってるんですが。
ちょっとまって、可愛い。



『少し落ち着こうテツヤ氏』
「…はい。」
『もしかして私がヒール靴履きたい〜!って思ってると思ってる?』



テツヤは何も言わず縦に首を振った。



『私が"ヒール履いたらテツヤの身長越しちゃう〜"と思って履かないと思ってる?』



今度は苦い顔をして、頷きたくないのだろう。今度はじっと見ていないと分からないくらい少しだけ頷いた。
どうしよう、テツヤが可愛い。



『あぁもうテツヤ可愛いい!!』



嫌な顔をされたが気にしないでおこう。どうしてそう思ったのか聞いてみると、私が真剣な顔でハイヒールを履く女の子たちを見ていたから、だそうだ。
"履きたい"からではなく、違うと、私がヒール靴をはかない理由をきちんと伝えた。
するとどうだ。勘違いだと分かったテツヤは赤面して私から顔をそらした。何度もごめんなさい。テツヤが可愛いです。

それにしても、テツヤが身長の事きにしてただなんて。私は全然気にしてないのに。それは私が平均身長だけでなく、160センチをゆうに超えているからだろうか。



「…恥ずかしいです。身長の事気にしていただなんて知られたくありませんでした。」



自爆しちゃったんですね。テツヤ。
あぁマジ天使。



『私は小さいテツヤ好きだから。』



さりげなくフォローと共に惚気てみた。
しかしそれが彼には気に入らなかったようで。



「ナマエさんより僕の方が大きいですから。」
『はいはい』



"小さい"というフレーズが気に入らなかったようだ。あんまりからかうとテツヤが拗ねちゃうからこの辺で辞めておいてあげよう。



『そろそろ次の場所行こうか』
「そうですね」



軽く持ち物の整理をし、ベンチから立ち上がろうとした時には、もうすでにテツヤが私に向かって手を伸ばしていた。
私はその手をきゅっと握ってから立ち上がった。


その手は私よりもずっと大きくて、男の子の手だった。



「離さないでくださいね」



"はぐれてしまいますから"と、微笑みながら言うテツヤがやっぱり格好良くて、胸の奥がキュッとする。



ハイヒールを履かない理由。
足に合う靴を探すのが大変だから。靴擦れが嫌だから。


−−−もう一つ。

大好きなテツヤの顔を、少し下から見上げてみるのが好きだから。−−−





ハイヒール







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▼あとがき
ナマエ様。読んでくださってありがとうございます。
身長ネタを使わせていただきました。よくあるネタ!!想像力が乏しくて王道っぽいのしか書けない!ぷりーずソウゾウリョク(←)
テツ君はやっぱり天使ですよね、でも格好良いんですよね。天使ですよね。エンドレス。
間違って削除してしまったテツ君の小説を、復元しつつ新しいお話を放出していければいいなと思っています。
完成に至るまで遅くなると思いますが、リクも受け付けていますので、何かありましたらいつでもお受けいたします!!
あとがきまで読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます。

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