ーーー「ちゅーしたい」
大我の家でテレビを見ていると、人気俳優が可愛いおねだりをしている姿が映された。
可愛いと格好いいの割合が6対4くらいの彼だからこそかもしれないのだが、格好よさの要素はなく、ただひたすら可愛い。キスを求めているわけだが、あえて"ちゅー"と言っているからかもしれない。
ちゅー。か。良いかもしれない。
我が彼氏火神大我は"ちゅー"派ではなく"キス"派である。要は、「ちゅーしたい」ではなく、「キスしたい」と言う派ということだ。
アメリカ育ちだからか、本人が元からそうなのかは定かではないが、よく言われるこのフレーズ。声のトーンといい、表情といい、正直格好良すぎアンド色っぽすぎて心臓に悪いのでやめていただきたい。
そこで良いことを思いついた。
大我に"ちゅー"と、可愛いことを言わせれば、可愛さで元の格好良さが打ち消されて普通になるのではないだろうか。
『大我。これからは"キスしたい"じゃなくて"ちゅーしたい"って言ってね』
急になんだよとか、意味わかんねぇとか、他にも色々言われたけど、無理矢理分かったと、承諾された。
これで私の心臓は少し活動量を減らすことができるだろう。誤解して頂きたくないので一応言っておこう。
ドキドキしたくないのではないのだ。ただ心臓によくないというお話だ。
折角良いと言ってくれたのだ。ここはまず、早速言わせてみようじゃないか。
『しなくていいから言ってみて!!』
可愛い大我の姿が頭の中に浮かび、顔が緩みそうになる。よし。頭を撫でる準備をしておこう。
正直嫌がってやらないと思っていたが、案外すんなり良いと言ってくれた。
るんるん気分で大我が言うのを待っていると、大我は突然、私の座るソファーに近付いてきた。それから私の体の両側に手をついた。
それから覗き込む様にし、ぐいっと顔を近づけ、鋭い目で私を見つめ、それから言った。
「なぁ、ちゅーしたい」
見つめられた熱い瞳から目が離せない。そして、予想外の事が起き頭がついてきていない。
だって、だって今の私…いつもよりドキドキしてるんだもん!!!
『ちょっとたんま』
予定では可愛くなるはずだったのだ。なのになんで!?というかなぜ可愛くならない!逆に色気が増した気がする…!!
良いと思ったのにこれじゃあもっと心臓に良くない。
『やっぱりいつも通りでお願いします…』
顔が近いのでさりげなーく大我の胸を押してそっぽを向いて呟くと、案の定大我に文句を言われた。
いやぁ、確かに言い出したのは、言ってと頼んだのは私なんですが、これじゃあまた心臓を酷使してしまうんです。許してください。
どうやら私が大我にドキドキしないことは無理なようです。
言ってみて