二番目

私には好きな人がいる。

でもその好きな人に好きな人はいる。


指輪を通したチェーンのネックレスを彼は毎日忘れずに着けてくる。
時々その指輪を遊ぶように触ったり、大事そうに見つめる。

ヘタレな私が一度だけ勇気を出して聞いたことがある。そのネックレスは?と。
その問いに答えた彼に、私は目を背けてしまった。だって今まで見たことがないほど優しい顔をしていたから。それからそっと指輪を手にとって囁くように言った。


「ちょっと…、な」


それ以上私は何も問わなかった。火神もそれ以上なにも言わなかった。
火神にとって、その指輪はとても大切なもので。火神はそれと同じ指輪を持つ女の子の事を想ってるんだって分かったから。

相手は日本人だろうか、それともアメリカにいるのだろうか。気になって仕方ない。でも聞く勇気は起きなかった。
ましてや玉砕するのに告白なんてとてもする気にはなれなかった。

今の関係が崩れてしまうのなら私はこの想いは伝えない方がいい。伝える勇気もないのだから。





「なぁ、ちょっと話あんだけど」


ある日火神に呼び出された。席は隣なのに。言いたいことがあるならここで言えば良いのに。
俯きながら私は火神の背中を追った。

一体なんと言われるのだろう。
俺に好きな人がいるんだけど、なんて顔を赤らめて、私の知らない名前を呟くんだろうか。
嫌に早い心臓が私を余計に不安にさせた。嫌な予感しかしないんだ。

連れてこられたのは屋上。陽が傾いて、全てをオレンジ色に変わったその場所は、昼間の姿とは随分違っていて別の場所のように感じた。

私に背を向けていた火神がこちらを向いた。

いつになく真剣な瞳は私の鼓動を速くした。そんな真っ直ぐに私を見て、どんな言葉で君は私を傷つけるのだろう。頭の中に出てくる映像は悪いものばかりだった。

すっと息を吸う火神を見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。
耳を塞ぎたくなる衝動を必死に堪えた。そして火神の言葉に私は息を飲んだ。



「お前のことが好きだ。」



嬉しい。嬉しいはずなのに。私は火神にぶちギレていた。


『……火神には……火神には好きな人がいるのに告白なんかしないでよ!!』


叫んだ反動でか、私はぎゅっと目をつぶっていた。


*****
確かに火神の事は好きだ。両想いになれたらと、何度夢見たことだろう。
でもそれは“彼の一番”であっての話。
遠距離だか何かは分からないけれど、ずっと一人の人を想い続けている、そんな一途な火神に惹かれた部分もあったから、私は失望に近いものを感じたんだ。
“2番目”なんて真っ平だ。



「お前なに言ってんだよ!俺が好きなのは…!!」
『嫌!!聞きたくない!!』
「大体俺が他に誰が好きだってんだよ!!」


火神はナマエの発言に困惑し、冷静さを欠き、言い合いのような状態になっていた。


『だってそのリング!!』
「これはそんなじゃねぇ!これは!!」


ーーー“兄弟の証”だ


どうしよう。ものすごく泣きたい。だって絶対に火神に嫌われた。涙を堪えきれなくなって、逃げようと自分の背後にある屋上扉へと駆けた。
でものドアノブを掴むことはできず、すっぽりと誰かの温もりに包まれてしまった。


「なんで帰ろうとすんの」


その腕の中から逃げ出そうとしても、男の力に叶うはずもなく、無駄な抵抗に終わった。


『だっ、て…』


私のこと嫌いになったでしょ?と聞く前に火神は言葉を挟んだ。


「で、お前は?」


火神は私の頭の上に顎を置いて、少し呆れ気味な口調でそう言った。


『…私も…、火神が好き…』


体の向きを変えて、私は火神の背中に腕を回した。ぎゅっと力を込めればそれに応えるかのように、火神は抱き締め返してくれた。



ーーーねぇ火神。
ーーー私はあなたの一番ですか?




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