素直じゃないね
『テツヤ!雪だよ!雪!!』
雪が降った。雪が降るのはそう珍しいことなのかどうか、いまいち分からないが東京で積もるほど降るのは珍しいのではないだろうか。
教室の窓は随分と曇り、誰かが触った跡がところどころに残っている。
どうやら私以外にも、この雪でテンションが上がっている人がいるようだ。
寒いのはどちらかといったら苦手で、夏と冬どちらが好きと聞かれれば迷わず夏と答える。
しかし、雪が降ったとなれば話は別だ。確かにいつもより寒くはなるけれど、歩く度にきゅっきゅと音が鳴るところとか、見なれた場所が全く違って見えるところとか。そういうところが好きだ。
あと、雪がないとできないことがあるからだ。
『テツヤ!雪合戦しよう!』
私の言葉を聞くなり、テツヤは顔を少しだけしかめた。しかし、嫌だと拒否されるのではなく、本当にやるのかと確認するかの様に聞かれた。
答えはもちろん
『当たり前でしょ!』
やっぱり少し嫌そうな顔をされたけど、そんなことはお構いなしにテツヤの手を引っ張って、未だ静かに雪が降る外へと移動した。
やはり雪合戦は楽しい。
精神年齢が低いと馬鹿にされる私じゃなくても、きっと皆さん楽しいと思うはず。
私意外やってる人いないけど。
っていうか……
『テツヤ雪合戦やる気ないでしょ!!』
雪合戦とは何か。
最低二人必要。
自身で作った雪玉をお互い投げ合う。避ける。当てる。
まぁつまり私が言いたいのは、ひとりではできなくて、お互い当てる気で投げなきゃ何も始まらない。
なのに
『せめて雪玉位作ろうよ!!』
テツヤは投げて当たらないどころか、当てるブツをそもそも手にしていない。
現在の状況を報告すると、私がテツヤに一方的に雪玉を投げている。
影の薄さを利用してテツヤは雪景色に溶け込み、私に狙いを定めさせない。
狙いが定まらないからといって投げないわたしじゃない。
雪玉を作っては適当な場所を狙って投げを繰り返した。
手袋は雪でぐしょぐしょになり、本来の役割を果たしていない。
あ、テツヤ見えた。
これは当てるチャンスと、大きく振りかぶった時だった。
「ふぇーーくしょーーーん!!!」
おじさんくさい?
そんなの知ってる。
うわ、さっむ!!!
突然背筋がゾクゾクと震え、ツキリという短い痛みが頭に走った。
謎の症状が私を襲い、混乱していると目の前にはテツヤが居た。
テツヤは何も言わず、ずぶ濡れになった私の手袋を外し、自身のものを替わりにはめた。
手袋に残ったテツヤの体温が、冷えきった私の手にじわじわと伝わってくる。
「だから嫌だったんです。
もう帰りますよ。」
そう言ってテツヤは私の手を掴んだ。
声色は呆れを呈しており、私に背を向けるとずんずんと歩き出し、私は手を引かれるがままに足を進めた。
私だってそこまで鈍くない。嬉しくてつい言葉に出た。
「テツヤって結構私の事好きだよね」
雪合戦を嫌がっていたことや、始めたはいいが逃げるばかりで私に雪玉を当てようとしなかったこと。それにさっきの台詞。
全部私のためだったってことでしょう?
テツヤはため息をついた。なんのため息だろうと考える間もなく彼は言った。
「今更ですか。」
横目で私を見る水色の瞳はいつも真っ直ぐだ。
「アホですか」とか否定してくると思っていたのに。予想外の言葉が返ってくるとなると調子が狂う。彼の頬が少しが赤くなっているのは私の気のせいではないと思い込もう。私の頬が赤くなっているのと同じように。
「テツヤのそういうところ好き」
そう言うと、テツヤは「そうですか」と興味がなさそうに返事をし、私から目線を切った。
流されたと思ったけど、さっきよりも手をきゅっと握られてちゃんと伝わってるのが分かった。
本当に君は素直じゃない。でもそんな君が好き。
▼あとがき
超久しぶりに書いた。。まずは更新再開を目標にっ…!リハビリ頑張ります!!!
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