02.理由は同じだった
オレはそいつを泉へつれて行った。未だに目は覚まさないが、冷えきった体はいくらか温かくなった。
そのまま神木に戻ることも考えたが、あいつらに何か言われるのは目に見えている。オレはココと過ごしたかつての家へと向かった。
かつての家とはいったが、主に神木で暮らしているだけで、オレとココの家であることに変わりはない。ココがいつ帰ってきてもいいようにはしているから、巣が落ちるなんて事はないだろう。
巣に降りると、重みにしたがって蔓がしなったが問題は無さそうだ。オレは胸に抱いていた人間を下ろし、その体に大きな葉を掛けた。随分と長い間抱えていたため、腕にはその人間の温もりが残った。
腰を下ろせば、疲れに近いものがどっと押し寄せた。こんなことは何時ぶりか。
ココを連れてきた時とは、状況が全く違う。ココの時は、仲間の理解も得られず反対を押しきって育てることにしたが、ココは元気だった。夜泣きでわめいてどうしようもなかったり、泣くばかりで何が気に食わないのか分からず大変だったこともあったが。
だかこの人間は、泣くことはないが、元気だけど元気じゃない。オレは理解しがたいこいつの行動を思い出していた。
今までにも、酷い怪我を負って、命の火が消えそうになるポケモンを見たことはあるが、誰ひとり諦めている奴は見たことがないし、決してその小さな火を自らで消そうとする奴もいなかった。
だが、この人間はオレの世界では考えられない事をした。見たところ怪我はしていなさそうだし、悪いところがあるようには見えない。
人間と関わり、人間の事を分かってきたつもりだったが、いくら考えても答えはでないし、理由も分からなかった。
何が起きてもいい様にと、オレは寝ることを諦めた。それに今夜は眠れそうにない。眠ろうと森を歩きに出ただけなのに、とんでもないなってしまっている。
木々の隙間から差し込む青白い光は、変わらずその人間の髪を輝かせた。ずっと見ていられるほど美しかった。
オレが朝になったと気付いたのは、その輝きが別の色を放ち始めたときだった。鋭さを感じるほどに青白く光っていたそれは、朝の光を浴びふわりと穏やかさを感じさせる明るい色へと変わった。
しかし、日が上るまでその人間は身動ぎひとつしなかった。ココはオレにぶつかったり、蹴ってきたというのに。ココ以外の人間はこれが普通なのだろうか。
木漏れ日がそいつの顔を照らすと、重く閉じられた目蓋が動き、良く晴れた空のように青い瞳がオレを映した。昨日よりは幾分かマシだが、正気を失っていることには変わりなかった。
他のザルードは放って置けと、人間の事は人間に任せて放っておけと言うだろう。確かにそうだ。人間が完全にオレたちを理解できないように、オレたちが人間を理解することは難しい。やつらの言うであろうことはあっている。
ーーただ、どうにも放っておけなくて。
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