---シカマルsaid
夕陽で真っ赤に染まる教室にオレはひとり、半開きになたったあいつのロッカーの前に立ち尽くしている。
ある日から朝、アカデミーに行って橘花の鞄は机の上にあるのに本人が居なくて、本人が来たかと思うとその手には授業で使うものを単体で持っていた。
初めは忘れ物をして家に取りに帰ってたのかと思っていたが、それは一日だけじゃなくてその次の日も、その次の日もずっとだった。
さすがにおかしいと思った。
静かにオレの隣に座る橘花をよく見てみると、服に葉っぱがついていたり、泥がついていたり、ほこりがついていたり。
それでやっと分かった。
橘花がいじめられていると。
しかしあいつは相変わらず無表情だ。
いじめてる本人からしたら橘花は強がっている様にしか見えないかも知れないが、橘花はきっと、いや絶対に分かっていない。
“いじめ”の存在事態知らないのだろう。
でもそれが分かっているのは橘花の過去を知るオレだけだ。
オレは橘花と仲が良い訳じゃない。
まだ橘花に謝っていない今、むしろその仲は悪いと言ったほうが良いだろう。
でもこのまま知らないふりをしてていいのか?
オレのだした答えは“NO”だった。
そして今日、やっと見つけた犯人、山中いのにアクションをかけ冒頭に戻るというわけだ。
正直正義感の強いあいつがそんなことするわけないと驚いたが、別にいのを責め立てるつもりはない。
だってあいつは橘花のことをなにも知らないのだから。
“あんただって嫌いなくせに”と放たれたその言葉は鋭くオレの胸に刺さった。
きっと今のあいつは前のオレと同じだ。
だからオレみたいに本当の橘花を知ったとき、あの苦い思いを、どうにもできない思いを、いのもすることになるのだろう。
そう思うとまたあの罪悪感で一杯になって顔を歪めてしまった。
橘花の過去を伝えるべきか、そうでないか迷った。
勝手に言って良いものか分からなくて。
それに
オレにはそんな資格無いんじゃないかって。
そう思ったから言うのを辞めた。
気づけば日は沈み始め、朱色だった教室は少しずつ薄暗くなり始めていた。
・・・・・・帰るか。
半開きになった橘花ロッカーを閉め、ポケットに手を突っ込んでから教室を出た。
オレはこんな風にしか橘花を守ることはできないかもしれない。
それでもいい。
オレがお前にしてやれることはこのくらいしか無いから。
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