---いのsaid
私には嫌いな子がいる。
それは転入生の橘花とかいう子。名字は知らない。
イルカ先生があの子を紹介した時も、あの子が自己紹介するときも言ってなかったから。
転入した日からあることが原因でずっとひとりだったけど、最近はほとんどあの嫌われ者のナルトとずっと一緒にいる。
でもそんなことが理由な訳じゃない。
あの子が転入してくるずっと前から、父さんは橘花橘花とうるさかった。
橘花がどうだこうだとか、取り合えず毎日うるさかった。
名前から女っていうのは分かる。
私と同い年と言っていたのも覚えてる。
別に父さんの事が特別好きというわけでもない。
でも自分の娘よりも父さんに気にかけられているあの子がなんなとなく気に入らなかった。
なんというか、女として負けた気がして。
あの子の事は良くわからない。父さんは詳しいことは言わなかったから。
でも何度も何度も仲良くしてやってくれと頼んできたから、話し掛けてみることにした。
私よりも父さんに気に掛けられているその子がどんな人物なのか、それも気になったから。
しかし話し掛けてみた結果がどうだ。
誰の質問にも答えず、教室から出ていってしまったのだ。
カチンときた。
なんであんな子が私より父さんに思われてるのか、なんで父さんがあんな子と仲良くしてやれと
言ってきたのか意味が分からなかった。
私はそれからあの子に関わろうとは思わなくなった。
しかし父さんは相変わらずあの子の話をする。
そしてそのイライラは日に日に溜まり、それをどうにかしようと私はある行動に出始めた。
* * *
あの子はどんなときでも表情を変えない。
ピッタリとくっついた唇はいつも真っ直ぐだ。
私はこんな思いをしているのに・・・・・!
だからそれが歪むところが見たくなった。
そう思ってから数日後、私は放課後みんなが下校して誰もいなくなった時、あの子のロッカーを開け、明日の授業で必要な物を校舎の中に隠した。
自分でも何をやっているか分かってる。いけないことだってことも。
次の日、ドキドキしながらアカデミーに行った。
あの子の席にはもう荷物が置いてあったが本人の姿はない。
きっと朝から校舎内をバタバタと走り回ってるんだろうなと思った。
ふん。いい気味だわ。
しかしその数秒後、いつもの無表情であの子は教室に入ってきた。
そしてその手には、昨日私が隠したものが握られていた。
うそ・・・・見つけられないように隠したはずのに・・・!
でも見つけれた以上に、隠されたことに関して全く気にしてないようなあの顔が気にくわない。
私のイライラがまた溜まった。
次の日も、その次の日も、私は同じことを繰り返した。
なのに絶対に見つけられないような場所に隠しても、持ち物は必ず授業前に見つけられ、もう何日も続いているのにあの子は相変わらず、眉ひとつ動かさず無表情だ。
イライラは爆発寸前だった。
今は放課後。教室には真っ赤な夕日の光が差し込んでいて、何時もとは違う雰囲気を漂わせていた。
しかしそれを綺麗だと感じる余裕すら私には無くなっていた。
もういっそのこと教科書を破いてしまおうか。ゴミ箱に捨ててしまおうか。
色んなことを考えながらあの子のロッカーに手をかけた。
カチャっという音のあと、違う音が教室に響いた。
「何してんだよ。お前。」
聞き覚えのある声に驚き慌てて後ろを振り向いた。
「・・・・・・シカマル」
黒い髪を高い位置で一つに束ね、いつも通り眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな顔をしていた。
いつも通りの顔なのに、今は違う・・・・・・。怒っているように見えた。
「何って・・・・・・分かってんでしょ?」
少し開き直ったように言うと、シカマルは舌打ちをしてもっと眉間に深くシワを寄せた。
なんでこいつがこんなに怒ってんのよ。
私は知ってる。
シカマルがあの子に“うぜぇんだよ”って言ったこと。
だからシカマルだって嫌いなハズ。なのになんでこんなに怒ってるのか分からない。
なにも言わないシカマルにもイライラした。
「あんただって嫌いなくせに!!」
叫ぶように言うと、今までずっと私を睨み付けるように細められていた目が大きく開いた。でも次にはまたあの表情に戻ったが、瞳に宿る色は怒りを感じず、悲しそうな色に変わっていた。
こんな顔をするシカマルを見るのは初めてで、わたしも驚いて目を大きく開きそうになったけど、それよりも早くどす黒い感情が心の中を支配した。
あの悲しい顔はなに?
嫌いという感情をいじめという形で表現する私が悲しいやつだってこと?
シカマルだって嫌いなくせに・・・・・!!
ずっと黙っていたシカマルはやっと口を開いた。
「次やったらオレも黙ってねぇから」
ぶちんと何かが切れる音がした。
「なんなのよっ・・・!!!」
そうシカマルに怒鳴り付け、走って家に帰った。
私のイライラは収まることはなかった。
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