03.分からないの(1/1)

橘花は昨日の夜からソワソワしてる。きっと緊張してるんだろう。


今日からアカデミーに通う橘花の世界は、今、大きく広がろうとしている。

新しい人の繋がりが出来るんだ。

親の愛情というのはもう受けとることが出来ない。
辛い思いをしてきた分。それ以上橘花には幸せな思いをしてほしいと思う。


あって一番最初に感じた“自分と似ている”という感覚。目の奥に潜む闇。それは大切な人の死を経験しているからだろう。

自分に似ている。似ているからこそ助けたいと思ってしまう。

オレみたいになって欲しくないんだ。




「心配しなくて大丈夫だーよ」




小さな頭を撫でてやる。
後ろからだったから少し驚いたようで、ぴくんと肩を跳ねさせた。

でもオレの方に顔を向けたとき、その表情はさっきよりも柔らかく見えて、安心した。




「いってらっしゃい」

『いってきますっ・・・・・・!』




小さな背中を見送った。


帰ってきたら一杯話聞けるかな?


君がはしゃぎながら話す姿を思い浮かべた。



* * *

「今日から皆と一緒に勉強する事になった橘花だ!
みんな仲良くしてやってくれ!」




鼻に大きな傷のあるイルカ先生は言った。

教室の前は何とも目立つもの。それにこの年頃は色んな事に興味を持つということもあり、橘花はみんなの視線を集めていた。
馴れないその視線に橘花は顔を斜め下に傾けた。




「席は・・・・・・そうだな。
一番後ろの空いてる席に座ってくれ。
シカマル!分からないところは教えてやってくれ!」




シカマルはいつもどおり“めんどくせぇ”と溢した。しかしそれはとても小さなもので橘花に届くことは無かった。


イルカに背中をとんっと軽く押され、微笑みながら席はあそこだよと橘花言った。

橘花は小さく頷いて返事をしたあと、速くもない遅くもない速さで歩き、自席へと着いた。

このとき橘花の足音が全くしないのに気付いたのは、この教室の中には二人しかいなかった。


イルカはそれを確認すると、“それじゃあ授業を始めるぞ!”と少し強い声で言い、ふわふわと緩んだ空気を変えた。


転入生である橘花に興味があり、そちらを見ていた人も授業が始まってしまったので仕方なく黒板の方へと向き合った。

橘花の隣にいるシカマルの眉間のシワが何時もより深く刻まれていることなど、誰も気づかずに。



* * *

アカデミーで学ぶ内容は意外と盛りだくさん。机に向かって知識を身に付ける事もあれば、外に出て身体を動かしながら体術などを学んだり。

気付けば陽は傾き、空はオレンジ色に染まっていた。明日は晴れだと言い切れるほど綺麗な夕陽を見ることなく橘花は家路につき、トボトボと歩みを進めていた。




今日の事を兄さんになんと報告したらいいのかまったくわからない。さっきからその事ばかり考えてる。

はぁ。と少し長めのため息が出た。


頭にこだまするのは兄さんの声。




---「友達いっぱい作っておいで」




目をつぶればその瞼の裏に兄さんの優しく笑った顔が映し出された。


はぁ。本当にどうしよう。



そう、私は友達を作ることか出来なかったのだ。

クラスの子はいっぱい話しかけてくれた。それなのに友達が出来なかったのは私のせいなんだと思う。だって聞かれた質問に私は何一つ答えることができなかったのだから。




---「ねぇどこから来たの?」

---「何が好きなの?」




---「お父さんとお母さんも忍なの?」






---「どうして木ノ葉に来たの?」






そんな子供たちの素朴な疑問は全て橘花の心に突き刺ささり、辛い過去を思い出させる事になってしまったのだ。

彼らにはなんの悪気もない。しかし無意識の間に橘花を傷付けていた。


そしてそれを橘花自身もわかっていた。




悪意は無いって分かってた。でも・・・・・・。

あの一面真っ赤な風景が、脳裏に焼き付いて離れないんだ。


なぜ木ノ葉に来たのか、と聞かれたとき、その真っ赤な物が頭の中に映し出され、震えが止まらなくなって、私は教室を飛び出してしまった。


その後、私は誰にも声を掛けられることはなくなった。

友達を一杯作るどころか、友達を作ること自体が困難になってしまった。



私は今まで友達というものを持ったことがない。母に何度か聞かされたことはあったけれど、いまいちそれがどういうものか分からない。



友達って、なんなんだろう・・・・・・?



どうやら私はそこから理解していく必要があるみたいだ。



兄さんに聞いてみようかな・・・・・・。



そして橘花は進める足を速めたのだった。



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