episode01-01

あなたに出会ったのは偶然か、運命か。


どちらかなんてわからない。


ただ……



私はあなたに会えて良かった。と、そう思ってしまいました。



この出会いが、偶然でも運命でもなく、必然であったことを私は願ったのです。






* * *



 ルミナスメイズの森。幻想的な雰囲気を持つその森は、同時に不気味さを持つ。木々は空を隠しており、まだ夜ではないというのに辺りは暗い。この森の闇は、普通の森とは異なる異質な何かを放っている。ライトをつけても、その光は辺りを照らすことなく闇に飲み込まれてしまう。そんな錯覚を覚える。
 隙あらばと、自分を狙うポケモンを気にしながらオレは森の奥へと足を進めた。

 オレがこんな場所に居るのにも理由がある。この森で行方不明者が出たのだ。ラテラルタウンやアラベスクタウンの住人は、あの森に入ることはそうない。決して安全でないことを知っているからだ。
 しかし、幼い子供や、己は強いと慢心したトレーナーなど様々であるが、毎年何人か行方不明者を出す。それがこのルミナスメイズの森である。

 ポケモンリーグ期間でないのが不幸中の幸いと言うべきか。この森に入って返ってこないと捜索願があり、全ジムリーダーと、ジムリーダーが認めるジムトレーナー数人が駆り出され、捜索を行っている。
 ジムリーダーになってから何度かこういったことがあるが、未だに慣れることは出来ないし、これからもきっとそうだろう。人の命が掛かっているんだ。正直、冷静ではいられない。それに加え、森の闇に引きずり込もうとするポケモンがオレ達を狙っている。一瞬も気が抜けない状況に、額からじわじわと汗がにじんでいた。

 強いと認められたトレーナーであっても、危険なのがこの森。そのため、二人一組で捜索していた。


「ルリナ、大丈夫か。」
「えぇ。あなたは。」
「オレもなんとか。」


 隣を歩く、ルリナは口調こそいつも通りであったが、表情はいつもよりどこか強張っており、オレと同様疲弊している様子だった。この状態が長く続けば、自分たちも危ない。

 早く見つけなければ。行方不明者の名前を呼ぼうと息を吸った時だった。
オレの視界の端で何かが光った。暗闇で光るキノコとは別の何か。それを視界の中心でとらえれば、確かに金色に輝いていた。


「おい!ルリナ!」


それは人の形をしており、遠くからでも女性であることが分かった。走ってその女性の元へ行き、うつ伏せに倒れ込んでいた体を仰向けにし、上半身を軽く起こした。
光の無い場所で髪が光った時から、感じていたが、近くに寄れば、彼女はやはりどこか異様な雰囲気を纏っていた。
 触れた体は冷たく、一瞬血の気を失ったが、息をしているのに気付き、頬をぺしぺしと軽くたたきながら声を掛けるが何も返ってこない。固く閉じられた瞼は開く気配を見せない。

 年は自分と同じくらいだろうか。おとぎ話に出てくる姫の様に眠ったその女性は、薄暗い場所でも分かるほど、整った顔をしていた。それと同時に、心臓が嫌な音を立てた。


「ねぇ、キバナ。その子、行方不明者リストにいないわ。」


ルリナも気付いていた。見せられた行方不明者リストには、金髪の女性はいなかった。気付けば俺は舌打ちをしていた。

 ここは迷いの森。下手をすれば、一生帰ってこれない。どういうわけか、この森には亡骸すら残らないという。つまり、自分の身を投げたり、身内を捨てたりするにはもってこい、というわけだ。

 彼女が身綺麗なあたりから推測すれば、きっと後者だ。
 流石に、心穏やかでいることは出来なかった。見ず知らず身他人であれど、これが人のすることだろうか。かっと、頭が熱くなる。
 しかし、この怒りはどこにもぶつけることは出来ないし、そんなことをしている場合でもない。目の前の彼女を助ける事が、何よりもすべき事だ。

 冷たいままの彼女に、自分のパーカーを被せ抱き上げようとした時だった。長いまつげが震え、ずっと閉じられいて見えなかった瞳が、その隙間から覗いた。オレは息を呑んだ。
 その眼は確かに光っていた。どこまでも広がる深い海の青が、オレを映した。薄く開けられた虚ろな瞳に、目が離せなかった。右頬に何か冷たいものに包まれやっと、彼女の手がオレの頬に伸びている事に気づいた。

 今度は、唇が震えた。何か言おうとして……


「ア、レッ……クス……さ、ま……?」


次の瞬間には、彼女の手はだらりと落ち、やっと見えた青は、再び瞼に覆われた。

 
「ルリナ!」
「分かってるわ!」


 俺は、彼女を抱き上げ走り出した。森から出させまいと、襲い掛かるポケモンをルリナに任せながら、オレ達は必死に出口へと向かった。


「……死ぬんじゃねぇぞ!」


 叫ぶように言った。


 何とか病院へたどりついた。意識のない彼女は、入院。意識が戻ったのは、1週間後だった。




――この出会いは偶然か運命か




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