03.妹扱いにはもう慣れました(1/1)

 はたけ家でお世話になって数日。カカシとは仲良くやっている……訳もなく……。

「おい、チビ」
「……なに」

 相変わらずこんな調子である。
 しょっちゅう私を睨んでくるものの、悪態を突いたところで私がこの家からいなくなることはないと理解しているのだろう。嫌がらせをしてきたり、暴言を吐かれたり、暴力を振るってくるなんてことも無かった。

「カカシ。チビじゃなくてアキラだよ」
「ふん」

 私にこんな態度を取るのも、大好きなサクモさんを私に取られるのではないかと、不安に思っているからなのだろう。
 そんな気はないのだけれど、私がまだ自分のことを自分でできない年齢のためか、サクモさんは幼児の私に構いすぎる節がある。(サクモさんから見たら、私は預かっている子だから、何かあってはいけないと、色々と過保護なのだと思う)
 だから、カカシは私のことが気に入らないのだろう。
 サクモさんも、彼の気持ちには気付いていて、彼を疎かにすることなく、しっかりと愛情を伝えている。しかし、それよりも私のことが気になるようで……。

「もう、カカシ〜!」

 サクモさんを悩ませる日々である。
 こればかりは私にはどうすることもできず、なるべくふたりの邪魔にならないよう、ほどほどの距離感を保ちながら毎日を過ごしていた。



* * *



 私はカカシに好かれていない。でも、嫌われてもいない……のだと思う。

「なんでオレが……」

 こんなことを言いながらも、私と手を繋いでくれて、おまけに公園にまで連れていってくれるのだから。(サクモさんに頼まれて、仕方なく言うことを聞いてそうしてくれているだけだろうけど)
 それでも私の歩く速さも私に合わせてくれたり、転びそうになったら腕を引っ張ってくれたりと色々気を遣ってくれている。
 まぁ、これも、サクモさんに言われたからだろうけど。

 私の見た目は幼児だけど、中身は違う。当然、公園できゃあきゃあと喜んで遊ぶような子ではないのだが、それでも公園に行くにはちゃんとした理由がある。
 これから起きるかもしれない未来の事を考えると、公園になんて行って遊んでいる場合ではない。しかし、どうあがいても私の体はやはり幼児な訳で。以前よりは大分マシになったが、まだうまくバランスが取れなくてよく転ぶし、思った通りに体が動かせない。だから、一生懸命運動をして、一日でも早くちゃんと動けるようになるために、努力している。だからこうして、公園にいって鍛えているのだ。
 しかし、困った。
 いつもは、公園にいる子供と一緒に遊んだり、サクモさんと遊んだりするのだけれど、今日は来た時間が普段より遅いからか、公園には誰もいない。
 つまり、私とカカシだけだった。
 ちらりと彼を見れば、上からギロリと睨まれた。
 この状況で「あそんで!」なんて言える訳もなく、ひとりで砂場やブランコで遊ぶことにした。
 カカシはその間ずっと腕を組み、不機嫌そうにこちらを睨むばかりで居心地が悪くて堪らない。まだ、ここに来て数十分しか経っていないけれど、これ以上彼の機嫌を損ねて嫌われても困る。
 今日はもう帰ろうか。
 服に着いた砂を払い、彼と向き合う。
 「もうかえる」と言うために、軽く息を吸ったが、それが声となる事は無かった。

「あれ、カカシ?」
「あ、本当だ!カカシー!!」

 声のした方を振り返ると、見覚えのある姿が私の瞳に映った。
 目を大きく見開く私とは反対に、カカシは更に目を細めた。
 カカシを見つけるなり、笑顔で駆けてきたそのふたりに、私の心臓はバクバクと音を立てた。

「なんか久しぶりだな!」
「こんな所でどうしたの?あれ、……その子は?」

 カカシと同じくらいの身長の男の子と女の子は、私の存在に気が付くと、興味津々にその視線を向けた。
 痛い程の視線を注がれ、反射的にカカシの背に隠れた。

「……。怖がってるだろ」
「!?」

 それが彼が発した言葉だと理解するのに時間がかかった。
 私の行動に対して、突き飛ばすでもなく、嫌がるでもなく、寧ろ守ってくれたことに激しく動揺して固まっていると、その人は言った。

「カカシが、優しい……だと?雪でも降るんじゃないか!?」
「うるさいバカオビト」
「なんだと!」
「そうだよ、オビト。そんなこと言ったらだめだよ」
「リンまで……!」

 見覚えのある姿。聞きなれた名前。やはりそうかと、また、体が固まり、彼の服を握り締めていた。
 それに気付いたのか、カカシは私の肩にそっと触れ、私の体を引き寄せた。服越しからでも感じる柔かな体温に安堵しながらも、やはり彼の行動が信じられなくて、その顔を覗き込めば、私がひとりで遊んでいた時よりもずっと不機嫌そうに苛立った表情でオビトとリンを睨んでいた。
 私はカカシに好かれていない。それなのに私を庇ってくれたり、私よりもオビトやリンに敵意を向けていることが理解できない。
 私よりもオビトやリンの方が嫌いなのだろうか。──いや、そんなはずはない。
 自問自答を繰り返していると、黒髪の彼は私の顔の高さ位にしゃがみこみ、顎に手を当て、不思議そうに私を見つめると言った。

「カカシが優しいってことは……。もしかしてこの子、カカシの妹?」
「は?」

 私は勢いよく首を横に振った。

「それじゃあ……」
「お前には関係ないだろ」

 いつになく低い声でカカシは言い放った。
 カカシはサクモさんから私の事は聞いているだろうし、「身寄りのない子供を一時的に家で面倒を見ているだけ」──と、そう言えばいいのに。でも、それを言ったら、私が傷付くと思ってオビトとの会話を拒否したのだろか。
 いいや、私の考えすぎか。
 カカシの態度に、オビトは一瞬だけムッと顔をしかめたが、問い詰めた所でカカシは何も言わないと察したのか、諦めたようだった。
 オビトの視線が私へと変わる。彼は頬を掻くと、バツの悪そうな笑みを私に向けた。

「さっきは怖がらせてごめんな」

 リンもオビトと同じようにしゃがむと眉を下げた。

「私も。びっくりさせちゃってごめんね」

 私はふたりの視線に驚いただけで、怖いと思ってカカシの背に隠れたのではないけれど、私は何も言わず、首を横に振った。

「オレ、うちはオビトってんだ!」
「私は野原リン!」
「カカシとは、……あー……、えっと……」
「友達なの!」

 リンは笑顔で言った。カカシとオビトは、嫌そうに顔を歪めたが、「違う!」と言いかけた言葉を飲み込んだ。この状況に私が怯えていると勘違いしているためか、ここで大きな声でぎゃーぎゃー言い争ったら、さらに私を怖がらせると思って止めたのだろう
 なんだ、ちゃんと大人な対応もできるじゃないかと、妙な感心をした。

「なぁなぁ。君の名前は?」

 どうしよう。普通に自己紹介する予定だったのに、あることを思い付いてしまった。後の事は考えず、これを言ったらどうなるのだろうという好奇心に負けた。

「ちび」
「ち、……チビ?」
「……チビ、ちゃんって言うの……?め、珍しい名前ね!」

 カカシを見上げ、顔を覗き込む。カカシは眉間にシワを寄せていた。
 実際、カカシから見れば私はチビだし、それを否定する気も怒る気もない。しかし、嫌味っぽくチビと呼ばれて苛立たない程、私は聖人ではないのだ。
 簡単に言えば、これは仕返しだ。
 私のこういうところが、カカシの気に食わないのかもしれないと思ったが今更である。
 私はただひたすらじっとカカシを見つめ、私の視線につられて、オビトとリンもカカシを見る。私の視線に耐えきれなくなったのか、カカシは顔を背けた後、呟くように言った。

「チビじゃない……。アキラだ」

 あ。そういえば今はじめて、カカシに名前を呼ばれた気がする。何だか嬉しくて、口元が緩みそうになった。
 オビトとリンは、私の名前が「チビ」ではないと分かり、安心したのか、引きつった顔からほっとしたような表情へと変わった。
 すると、オビトは私とカカシを交互に見た後、「ははーん、なるほど」と得意げに笑った。

「オレ分かっちまった。……なぁ、アキラ。お前、今でずっとカカシにチビって呼ばれてたんだろ」

 カカシに意地悪されてたんだな。かわいそうに……──と、オビトは泣き真似をした。
 私たちのあのやり取りでここまで推理できるオビトに正直驚きを隠せない。原作を読んでいて、オビトはナルトに近いものを感じていたから、尚更である。
 オビトは私に手招きをした。

「いいこと教えてやる」

 彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべてそう言った。私はその笑みにつられ、カカシの横をすり抜けた。

「おい!」

 カカシの止める声も聞かず、差し出されたオビトの手を掴んだ。
 オビトは私の手を優しく包むように握ると、その手を引いた。カカシから数メートル離れた所までくると足を止め、再びしゃがむと口に手を添える。私はそこに耳を寄せた。

「いいか。もしもまたカカシに意地悪されたらこう言うんだぞ」

 そう前置きしてオビトは言った。私は小さく頷くと彼は続けた。
 耳元で囁かれた「いいこと」に、私はにやけそうになり、慌てて口元を押さえた。オビトの話に時々相槌を打ちながら話を聞く。全てを話終えるとオビトはにやりと笑って言った。

「アキラ。打ち合わせどおりに、な?」

 私が頷くと、オビトは立ち上がり私の肩にそっと手を置く。

「おーい!カカシ!アキラがお前に言いたいことがあるってさ!」
「……なんだよ」

 私の数メートル先に立つ彼は、眉間に皺を寄せながら私を見る。その隣にいるリンは、やや落ち着かない様子である。
 私は小さく息を吸ってから言った。

「ばかかし」

 カカシの表情が一瞬、ピシリと固まる。
 数秒の間の後、カカシの眉が吊り上がった。

「オビト!お前……!何変なこと教えてんだよ!」
「ちっちゃい子をいじめるなんて、お前はバカカシで十分だ!」
「そうだそうだ!」
「そら!アキラ!もういっぺん言ってやれ!」
「ばかかし!」
「こん、のっ……!!!」
「ちょっと、みんな!落ち着いて!」

 火花が散り始めた私たちの間にリンは割って入るが、オビトは私に目配せをする。

「よし、アキラ。……逃げるぞ!」

 そして私とオビトは駆け出した。

「待てオビト!!」
「やなこった!!ほら!リンも逃げろー!」
「えぇ!?私も!?」

 こうして不思議な流れで私たち四人での鬼ごっこが始まった。
 因みに、私が「ばかかし」と言ったのも、「そうだそうだ!」と煽ったのも、カカシから逃げるのも全てオビトとの打ち合わせ通りである。あのカカシがオビトの手の上で転がされていると思うと、何だかおかしくて笑ってしまう。
 カカシと出会ってまだ日は浅いけれど、あの年で中忍になるだけあって、彼の頭の良さや身体能力の凄さは十分すぎるほど感じていた。任務などで大人と関わることも多いからか、カカシは年齢よりもずっと大人びた思考を持っている。
 しかし、オビトにからかわれ、ついカッとなっている姿は年相応の姿だった。
 本来そうあるべきなのに、そうあることができない。カカシはまだまだ子供なのに大人にならざるを得ない。そんな彼を思うと、胸がツキリと傷んだ。
 そんな彼が唯一子供らしく。……いいや、彼らしくいられるのは、オビトやリンの前だけなんじゃないかと。今のカカシを見ているとそう思う。

──あぁ、でもこの微笑ましい風景もいつか消えてしまうのか。だって、オビトとリンは……

 ふと現実に引き戻される。

「あ、っ!」
「っ──!!チビっ!!!」

 逃げ場にアスレチックを選んだのが間違いだった。
 よじ登っている途中に考え事をしていたものだから、足を踏み外してバランスを崩した。咄嗟に目の前にある物を掴むが、幼児の握力なんかたかが知れていて、無駄な抵抗で終わってしまった。幸い、子供の遊具はそこまで高さはないし、落ちても打ち身程度ですむだろう。
 浮遊感の中、衝撃を少しでも和らげるために体を小さく丸めた。段々と地面が近くなるのを感じ、固く目をつぶる。しかし、襲ってくる筈の痛みはなく、温かいものに包まれるのと同時に大きな声がした。

「この、バカ!危ないだろ!!!」

 そっと目を開ければ、カカシの顔が映った。
 目を吊り上げて怒った顔をしているのに、その声はどこか焦りを帯びている。

「ご、ごめんなさい……」

 謝りながらも私は困惑していた。
 全身を包むこの温もりは彼のもので。彼は、遊具から落下する私を助けてくれて。私を胸に抱えるように受け止めたため、地面に尻を着き、その状態で地面を滑ったのか、服は砂だらけになっている。
 私を好いていないカカシが、私を助けたことに驚いているのではない。
 スマートな彼が、砂まみれになっても誰かを助けた。あのカカシが他人のためにここまでしたのだ。にわかには信じがたいが、事実である。
 カカシはそのまま私を抱き上げると、地面の上に立たせた。
 私は彼に、怪我はないかと尋ねたが、それはオレの台詞だと、叱られた。遠くにいたオビトとリンも駆け寄ってきて、私たちを心配したが、お互いどこにも怪我はないと分かるとほっとしたような表情を浮かべた。

 そしてこの話が一段落すると、謎の間が流れた。
 そういえば鬼ごっこをしていたけど、私が遊具から落ちて中断されていたんだった。
 私は鬼役のカカシに抱き止められて、それ以降は誰にも触られていないし触れてもいない。この場合は私が鬼なのか。そもそも、今この空気でまた鬼ごっこが始まるのだろうか。
 気まずい空気の中、考えていると、オビトが私に手を差し出した。
 何だろう。──私は特に考えもせずその手に触れた。オビトは私の手に振れた後、スタスタと歩き、カカシの目の前で立ち止まる。にやりと歯を見せて笑うと、カカシの肩を叩いた。

「はい。カカシが鬼な。」

 近くでブチッと、何かが切れる音が聞こえた。
 ゆっくりとカカシの顔を見上げる。最高潮に苛立った彼の顔が映った。

──今のはオビトが悪い

 と、そう言わざるを得ない。
 オビトの事を、一度は意外と策士なのではないかと思ったが、今はただの馬鹿のように思える。

「オビト!!!」

 こうして鬼ごっこ(?)を再開され、私たちはまた駆け出した。



* * *



 散々遊び、私たち四人はベンチに腰かけていた。
 カカシは忍で、オビトとリンはアカデミー生。年齢差もあり、彼らとの鬼ごっこは、普段私と同じくらいの年齢の子供たちとする鬼ごっことは訳が違った。しかし、三人とも身体能力の差を理解してくれていたのか、ほどほどに私を追いかけたり、ほどほどに鬼を回してたりと、気を遣ってくれた。
 こうしてベンチで休憩しながらお喋りしている今も、私に話を振ってくれたり、私には分からないような内容は避けてくれているように感じる。
 みんな賢くて優しい。(オビトに関しては賢いのかただの馬鹿なのかまだ分からないけれど。)カカシも含めみんなの優しさに触れ、自然と笑みが溢れた。

「へぇ、アキラは、他里から来たんだな」

 自然な流れで、私の話をすることになり、後で色々誤解されるのも面倒なので、オビトとリンには、簡単に私の事を話した。
 最近木の葉の里に来たこと。ここへくる前は雨隠れの里にいて、血の繋がらない兄と姉と自来也様と暮らしていたこと。今は一時的に自来也様の厄介になっているが、その自来也様が現在長期任務で里にいないため、今ははたけ家で世話にお世話になっていると話した。
 全てを話し終えた後、カカシを向くと目が合う。不機嫌そうに私を見た後、ふいっと顔を背けた。
 やはりあの時、オビトの言及を拒否したのは、カカシなりの配慮だったようだ。カカシには悪いことをしてしまった。
 彼なりに私の事を考えてくれた事は嬉しい。でも、私は別にこの人生を不幸とは思っておらず、幸せであると分かって欲しいと、そんな気もした。

「それじゃあ、アキラは兄ちゃんと姉ちゃんと離れて寂しいんじゃないか?」

 オビトは私の顔を覗き込み、首を傾げながら言った。
 正直を言うと、オビトの言う通りである。
 兄ちゃんたちとは、生まれた瞬間から三年間。少しも離れず、ずっと一緒にいたのだ。別れも突然だったし、ここに来てまだ日も浅く、親しい友人もいない。頼りにしていた自来也様は木の葉に着くなりすぐ任務に行ってしまったし、なんと言うか心細くて、寂しさのようなものは日々感じていた。
 するとオビトは得意げに胸を叩いた。

「アキラ!今からオレの事を兄ちゃんだと思ってもいいぜ!」

 ベンチから飛び降り、私の前に立つ。「オビト兄ちゃんって呼んでみろよ!」彼は続けた。
 何だろうこの既視感……。
 私はまだ何も言っていないが、オビトはその気満々で、期待の眼差しを向けられ、私は折れた。

「……おびとにちゃん」
「んー!良い響きだせ!」
「あー!オビトずるーい!ねぇねぇ、アキラ!私の事も、リン姉ちゃんって呼んでね!」
「……りんねえちゃん」

 リン姉ちゃんは頬を少しだけ染めて笑うと私を抱き締めた。
 ふたりとも兄弟がいないのか、名前を呼んだだけですごい喜びようである。(その後オビト兄ちゃんとリン姉ちゃんからの「もう一回呼んで!」攻撃を何度かくらった。)
 そろそろ飽きてくれと思った頃、オビト兄ちゃんが何かに気が付いた。

「やっべ!もうこんな時間!」
「えっ!嘘!?ごめんなさい、もう帰らないと……!」

 高かった日はいつの間にか傾き、空は青から朱に変わり始めていた。公園に設置してある背の高い時計を見ると大分いい時間になっていた。
 公園に来てすぐ帰ろうとしていた頃が懐かしい。あれから数時間も経っていただなんて。自分が思っていた以上に、私は彼らと遊んで楽しかったようだ。
 帰る時間になったオビト兄ちゃんとリン姉ちゃんは、私の頭を撫で、「また遊ぼうね」と指切りをすると公園の出口の方へと走り出した。

「じゃーな!アキラ!カカシにいじわるされたらオレに言うんだぞ!」
「またね!カカシも任務頑張って!」

 ふたりはそう言い残し、あっという間に公園から姿を消した。賑やかだった公園は、一気に静になり、取り残されたカカシと私の間に沈黙が流れた。
 さてと。オビト兄ちゃんとリン姉ちゃんのおかげで、私も十分すぎるほど遊べて満足したし、私たちもそろそろ帰ろう。

「かかし、わたしたちもかえろ」
「……」
「かかし?」
「……お前、本当に生意気」

 思わず顔が歪みそうになった。
 私、今何かした……?名前を呼んで、帰ろうと言っただけなのに。流石に理不尽すぎるのではないか。
 一瞬苛立ちを覚えたが、ある考えが頭を過った。
──いや、まさか、そんな筈は……
 しかし、一度そう思ったらそんな気がしてきてならない。
 私の予想が間違っていたら恥ずかしい。でも、カカシが不機嫌な理由が、今はこれしか思い付かない。
 腹を括り、少しだけドキドキしながら私は言った。

「……かかしにいちゃん」

 カカシの眉がピクリと動く。
 やっぱりそうだよね。カカシが私にお兄ちゃんなんて呼んで欲しいわけ……

「…………ふん」

 彼はそう言うと私に向かって、手を差し出した。
 え……?嘘でしょ?
 理解が追い付かず、ただその手を見つめることしかできない。

「何だよ。帰るんだろ」
「う、……うん」
「ほら、……帰るぞ」

 私がカカシの手を握ると彼はゆっくりと歩き出した。足は自然と動くのに、思考は今だ止まったままである。
 彼が何を考えているのか分からない。でも、私が思っているより、私は彼に嫌われていないどころか、むしろ好意的なのではないだろうか。そうすれは、今日あった全ての事に納得できる。
 私が遊具から落ちた時、あそこまでしてくれたもの、それが理由なのだろか。
 あぁ、そういえばあの時は驚くばかりで、彼にお礼を言っていなかった。
 首を持ち上げ、彼を見上げる。美しい銀髪が風に揺れ、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。

「かかしにいちゃん」
「何だよ」
「わたしがおちたとき、たすけてくれてありがとう」
「……別に」
「にいちゃんがたすけてくれなかったら、わたししんでたかも」
「大袈裟だろ」
「けがはしてたかもしれないでしょ?」
「それは、まぁ……」
「わたし、にいちゃんがわたしのことたすけてくれてうれしかったよ。……だからね、ありがとう」
「……ふん」

 帰路を見つめる彼は今、何を考えているのだろう。
 私は彼のこの先の未来を知っている。
 正直、雨隠れの里から、木の葉隠れの葉の里に行くと決まった時、木の葉で何かしようという気は無かった。弥彦兄ちゃんたちと自来也様を救う方法を考えるのでいっぱいいっぱいで、他のことを考える余裕なんて無かったから。
 でも、彼と深く関わってしまった今、何もせず無視することなんてできない。
 弥彦兄ちゃんたちや自来也様のように、サクモさんもカカシ兄ちゃんも私の大切な人で、……だから絶対に失いたくない。
 この世界では何が起きるか分からないから、絶対とは言えない。ただ、原作通りならカカシ兄ちゃんは死なないけれど、残された者として長い間苦しむことになる。そんな思いしてほしくない。
 だって私……

「わたし、かかしにいちゃんのこと、けっこうすきだよ」
「……やっぱ、お前生意気」

 このやり取りにも慣れて、腹が立つより寧ろ楽しいとすら思うから。ずっとこのままでいたいと思うから。

──私が頑張らないと

 彼の手を少しだけ強く握ると、応えるように彼も私の手を強く握った。その温もりに心が穏やかになっていくのを感じながら、私たちは夕焼け色に染まる帰路を辿った。




(反省文)
ご閲覧ありがとうございます!
仔カカシのツンデレを炸裂させました←
夢主との関係性についてはこれの2話あとに書く予定です。
嗚呼、仔カカシの頭を撫で回したい←
あと、今の段階ではお互い恋愛感情はありません。大人になってから芽生えます(?)
拍手、コメント、アンケートありがとうございます!とても励みになっております!!
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