01.拾われましてこんにちは(1/1)

 細かい事はどうでも良い。正確に言えば、細かい所は分からない。
 分かる範囲で今の状況を説明すると、私はNARUTOの世界に赤ん坊となって転生した(のだと思う。)
 これが夢であることも考えたが、この感覚は夢なんかではない。夢ならばそれでいいと半ば割り切り、これが現実だと思って生きることにした。
 そして、時系列的には自来也様が弥彦、小南、長門に忍術を教えると雨の国に残った時の様で、自来也様は三十代手前位の見た目で、弥彦たちは小学生くらいの身長である。私が見慣れたものよりその姿はずっと若い。

「なぁお前。何であんな場所にいたんだ?」

 私の頬をツンツンと人差し指でつつきながら弥彦は言った。「分からない。こっちが聞きたい」と言ってみるが、「あうあう」言うだけで終わってしまう。

「それによ。あんなに血まみれだったのにどこも怪我してねーし」

 雷に打たれたからなのかは不明だが、私はどうやら血まみれだったらしい。弥彦たちの家に帰るなり手当てをしようとしたが、私の体には傷ひとつなかったとか。(因みに私の身体検査は、小南にしてもらった。そうも言っていられない状況なのは分かっていたけれど、見た目は赤ん坊とはいえ、中身は羞恥を知る年齢であったため、男性陣に体を見られるのはどうしても無理だった。必死に抵抗しまくり、「手当てすんだから暴れんな!」と弥彦には怒られたが、同性である小南はなにかを察してくれたようで、男性陣を全員家から出してくれた。小南は原作を読んでいた時から好きだったけど更に好きになった瞬間であった。)
 そういえば、目覚めた時は体が痛くて痛くてたまらなかったけれど、彼らの家に着く頃には、その痛みは嘘のように消えていた。私がいた場所からこの家に着くまでの間に治ったとは考えにくいから。赤ちゃんの肌はぷにぷにで柔らかいから、ただ雨が体に当たって痛かったのだろうと、そう結論付けた。

「誰かの血を浴びただけだったのかな……」
「もし仮にそうならこいつ、ヤバいもんと関係があるんじゃないか?」

 弥彦の言う通りだ。
 私が怪我をしていなかったのなら、私の体に着いていた血は別の誰かのもの考えるのが普通である。しかし、他人の血を浴びる状況は普通じゃない。
 この世界での私の産みの親が誰かに刺されてその血を浴びたのか、それとも私が拉致されて、その犯人の見に何かがあってその血を浴びたのか。色んなパターンを考えてみるけれど、やはりどれも物騒である。
 今更だが、私はこの世界に私として生まれ落ちたのだろうか。それとも、この体は誰かのもので、私はこの体に憑依してしまっただけなのだろうか。
 考えれば考えるだけ、あれは?これは?と疑問が増えるばかりでなにも解決しないこの状況に、私は疲弊し始めた。

「先生がこいつを見つけた時にはもうあの状態だったんだろ?」
「あ、……あぁ、そうだ。」

 自来也様はどこか歯切れの悪い返事をした。それからこの出来事を整理するかのようにゆっくり話し出した。
 まとめると話しはこうだった。
 あの時、この四人は雨の中修行をしていて、突然雷が落ちたと思ったら、次には赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。尋常ではない泣き方と、こんな場所で赤ん坊の泣き声が聞こえるなんてありえないと、四人でその声を辿った。そしてそこに赤ん坊の私がいた。赤ん坊の泣き声が聞こえてから見つけるまでにそう時間は経っていないのに、その周辺には人影もその気配もなかった。ハイハイもできない生まれたばかりの赤ん坊がひとりであんな場所にこれる訳がないから、あの場所に誰かが赤ん坊を連れて来たはず。しかし、そこに人がいたであろう痕跡すらなかった。まるで、ポンッとそこに赤ん坊だけが現れたかのような、そんな状況だったらしい。
 ここでも雷が。私が雷に打たれたことと何か関係があるのだろうか。しかし、悩んだところでやはり結論はでない。

「だが、この赤子のせいでワシらが何かに巻き込まれることは無いだろうのぉ」

 腕を組み直し、自来也様は続けた。
 この赤子をわざと普段ろくに人も来ないようなあの場所に放置したのなら、この赤子を置いた人物はワシらに赤子を見つけさせようとした。その後、子供を拉致された、許してやるかわりに金目のものを寄越せと、ここへ押し掛けてくる可能性が考えられる。しかし、何も望めないワシらを狙うとは考えにくい。つまり、わざと放置してワシらに見つけさせた可能性は低い。
 この赤子が何か危険な組織と関係があったとして、この赤子が処分の対象であるならさっさとそうしていた筈だから、どちらかといえばこの赤子は保護の対象。何かがあって、組織が赤子とはぐれ、その赤子を偶然ワシらが見つけて保護した。組織が赤子の居場所がここだと分かり、訪ねてきても悪いようにはされないはず。それに、もしこの赤子がそれ程の重要人物であるなら、疾うにこの場所を割り出してこの赤子を連れ帰っているだろう。つまり、この赤子が何か危険な組織と関係している可能性も低い。
 あの少ない情報量で、よくここまで考えられるものなのだなと、自来也様のその推理力に驚きながら、私のせいで彼らが危険な目に合うことはないのだとほっとした時だった。

「じゃあ、こいつはひとりなんだな」

 弥彦は私をじっと見つめながら言った。揺れることのない真っ直ぐな瞳に映され、自分の置かれている状況を理解した。
 自分の意思でまともに動けない赤ん坊の私はこれからどう生きていけばいいのだろう。その不安は恐怖となって私へと襲いかかった。

「そうだ。……そこでなんだがな」

 私の少し離れたところにいた自来也様はそう言うと、私の側へやって来て大きなその手で私の頭を二、三度撫でた。それからニコリと私に笑いかけた後、ひょいと私を抱き上げた。

「ワシはこの子を育てようと思っとる。」

 時が止まった様な感覚だった。
 先の見えない恐怖の闇の中にいた私にとって、それは希望のような一言だった。

「お主らと出会ったように、この子と出会ったのも何かの縁な気がするんでのぉ……。お主らはどう思う?」

 自来也様の問いに弥彦は少しの間も開けず答えた。

「文句はないぜ。寧ろ先生が孤児院に預けるなんて言ったら殴りかかってた」
「私も。院に連れていっても、今のこの国じゃ誰も面倒を見てくれないわ。」
「ボクも……。分かってて見捨てるなんて出来ないよ……」
「じゃあ、決まりじゃの」

 涙が出そうになった。
 もしも、原作と同じ通りならば、今は戦争中のはずだ。自来也様がいるからといっても、決して今の状況に余裕がある訳ではないのに。それなのに、見ず知らずの赤ん坊を見捨てるという選択を取る人は誰もいなかった。
 アニメや漫画の世界に行ってみたいと妄想をしたときもあった。しかし、それは決して無理だと分かっていたから言えたことであり、実際に異世界へ来た今、感じるものはただの孤独。家族も友達も何一つ無く、異世界から来た自分という存在がこの世界の異物の様に思えてならなかった。
 そんな自分を見透かされたのか、彼らは当たり前のように私へ手を差し伸べた。振り払うなんて出来ない。自分の存在が彼らに迷惑をかけると分かっていても、それにすがるしかなかった。
 この世界に来てはじめて出来た繋がり。その温かさに触れ、冷たくなった心が別のもので満たされていく。
 しかし、この繋がりはいつか消えてしまう。そう、私が知る未来では自来也様も弥彦も小南も長門も皆死ぬのだ。そうなれば私はまたひとりになる。恐ろしくて背筋が震えた。
 皆より私の方が先に死ぬかもしれない。ここはそういう世界だ。
 それでもせめて私が生きている間は誰も死なないで欲しい。ひとりにしないで欲しい。
 この世界にはもう既に描かれた未来がある。本来そうあるべき出来事を変えてしまえば、この世界は壊れてしまうかもしれない。
 でも、そうだとしても、私は自分勝手だから、ひとりになるのが怖いから、その未来を変えたいと思ってしまった。
 私にそんな力があるのかは分からない。私が頑張っても何も変わらないかもしれない。
 けれど、私を救ってくれたこの人たちを、何もせずただ傍観して彼らが死ぬのを待つなんて出来ない。
 私は決心した。
 何としてでも彼らを救おうと。そして、この世界で生きていこうと──





(おまけ)
「なぁなぁ、こいつにも名前が必要だよな?」
「そうじゃのぉ。何だ?もう何か考えておるのか?」
「あぁ!チビ助ってのはどうだ?」
「や、弥彦。この子は女の子だよ……?」
「センス以前の問題だのぉ……」
「じゃあ、自来也先生はどうなんだよ!」
「ん?そうだのぉ……。」

 私にどんな名前を着けてくれるのかと、はじめこそワクワクしたが、弥彦をはじめ、自来也様も長門、小南までも名付けのセンスは皆無だった。
 聞いていて頭が痛くなる。もっと普通の名前でいい。そんな変な名前をつけられるくらいならと、私は必死に前世の自分の名前を叫んだ。
 当然生まれたばかりの私はちゃんとした発音は出来ないし、そもそも私が何を訴えているのかも分からず皆は首をかしげていたが、ある瞬間に誰かが言った。

「アキラ……?」

 やっと伝わった!!嬉しくてきゃあきゃあとわざとらしく喜んで見せた。

「……アキラ?」
「あぅ!」
「アキラ……?」
「あぃ!」
「……アキラ」
「だぁ!」
「アキラ」
「きゃあう!」

 皆は順番に私の名前を呼び、私はあざとく反応を示した。(羞恥は捨てた)
 どうか伝わって……!
 そしてその思いは伝わった。

「アキラ」

 四人の声が重なった。皆の笑顔に、私は精一杯の笑みを返しながら返事をした。
 こうしてこの世界でもアキラとして私は生きることになった──。





(後書き)
ふぃー!なんだか思い展開になってすみません!
弥彦達との関係性ももっと書きたいですが、書き直す前に「幼少期長すぎ!カカシ出てこない!」とのお声があったので、省きます。
書くとしても後々、もしくは番外編として載せる予定です。
展開早いですが、次章、カカシ登場します。
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