クシナさんはやっぱり素敵な女性だった。
優しくて、なんでもできて、強い。
ミナトさんが惚れる理由がよく分かる。楽しそうに話す姿はキラキラしていて見とれてしまうこともしばしば。
私もこんな女性になれたらいいな。
ちなみにミナトさんとクシナさんはもう結婚しているようで、お揃いのマグカップがあったり、二人で幸せそうに笑って写っている写真が飾ってあったり…。
のんびりと結婚生活を送る暇もなくミナトさんは戦場へ任務に行かなくてはならないのかと思うとやっぱり早く戦争が終わってほしいなと思う。
今はパパと同様任務中らしく家にはいなくて会えてない。早く会いたいなー!!
クシナさんに面倒を見てもらっているが、付きっきりって訳じゃない。クシナさんにも家事とかやることはたくさんある。出来ることは全部お手伝いさせてもらう。
でも身長がないとどうしてもできないことはあって、その時は私はクシナさんの後ろ姿をぼーっと眺めるのだ。
ちなみに今は食器の片付けをしている。私はしてないけど・・・。
はぁ、早く大きくなりたいなぁ・・・。
「アキラちゃん?」
『は、はいっ!』
クシナさんは食器棚の戸に手をかけたまま私の方を向いていた。
「これが終わったら本でも読みましょ?
あそこの棚に本があるから好きなの選んでいてくれる?」
『はい!』
ぴっと指差した場所を見ると、本がぎっしりと並べてある棚があった。
たたたと駆け足でその前にたった。
いろんな本があるなー。絵本もあるし、小説も歴史書もあった。
何れにしようかなと、端から順に見ていく。この年ならば可愛らしく絵本を選ぶんだろうけど、流石にその気にはなれない。
そして、一番私の興味を引いたのは1冊の古びた忍術書。私はそれに釘付けになった。
「お待たせっ。決まったかしら?」
勝手に読んでいいものか分からず、どうしようか考えているとちょうど良いタイミングでクシナさんが来た。
微笑みながら私に話しかけたクシナさんだったが、私が手に持つそれを見ると顔を歪めた。
「そ、そんなのでいいの?
もっと、そうね・・・この絵本とか!」
『こ、これがいいんです・・・!』
クシナさんが嫌な顔をしたのは当たり前の反応。
だって私の選んだ本は封印術書なのだから。
この先、封印術を使うかどうかは分からないけれど、でもいつかは必要になる筈だ。あのとき教えてもらえば・・・。という後悔はしたくないんだ。
私が知る未来では、たくさんの人が死ぬ。今目の前にいるクシナさんもそのひとり。そしてパパも・・・。
助けたい。
パパが私のパパになったときにそう思うようになった。
パパは私がこの世界に来て初めて出来た繋がりなのだ。絶対に消えて欲しくない。
そして、出来るのならば全員救いたい。
クシナさんに会う前は、クシナさんもその“全員”の中に入っていた。
でもこうして深く関わってしまった今、“全員の中の一人”じゃなくて、“クシナさん”を救いたいと思っている。
もう私にとって他人ではない。
だから・・・・・・
死んで欲しくないんだ・・・・・・。
クシナが見たアキラの瞳からは“何かを守りたい”という強い意思がはっきりと伝わってきた。
それに自分が含まれているということにクシナが気付くはずはずはなかった。
その強い意思に負けたクシナはいくらか考えたあと、ついに折れた。
「わかったわ。ただし条件があるわ。」
クシナさんは腰に手を当て、反対の手は人差し指を立てた。
「チャクラがちゃんとコントロール出来るようになるまで絶対に使わないこと。
これが約束できるのなら教えるわ。」
『約束します!!!』
「うん!言い返事ね!」
声が少し力んでしまったが、気持ちは伝わったみたいだ。
ちょっと怖い顔をしていたクシナさんはもう微笑んでいて、私の頭を優しく撫でてくれた。
やっぱり私はこの人を守りたいと思った。
その日からクシナさんの封印術講習会が始まった。
そして、それと同時に修行も行われた。
時代が時代だからだと思う。
「自分の身は自分で守らなきゃね」
クシナさんにじっと目を見られながら言われた。
なにか深い意味があるのか無いのか、そこまでは私には分からなかった。
クシナさんの修行は容赦なかった。擦り傷なんて当たり前。打撲だって当たり前。気付かれないように隠してるけど・・・。
でも厳しいだけあって、着実に力はついてきた。でもまだ、力は全然足りない。
『うっ・・・・っ・・、!!』
修行のせいで全身が痛い。
でも弱音なんかは絶対に吐かない。
みんなは私よりも、もっともっと辛い思いをしているから。私の辛さなど雀の涙ほどもなく、砂粒以下だ。
弱音を吐く資格はない。
組手相手であるクシナさんの影分身に脇腹を蹴られ、ガードはするが力が足りずそのまま吹っ飛んだ。
背中を木の幹に強打し、頭も打ったのか少しだけくらくらした。
だめだ。こんなんじゃダメだ。こんなじゃ誰も守れない。
ぐぐっと身体にちからを込め、骨を軋ませながらもクシナさんの影分身にむかって構えた。
自分の出来る一番速いスピードで、クシナさんととの間を一気につめた
『かはっ!、!』
クシナはあえてアキラの攻撃を受け、素早くその攻撃してきた方の足を掴み遠くへと投げ飛ばした。
アキラはもうそれなりに力がつき始めていた。センスもあるし、これにチャクラが加わったらどうなるのだろうと、クシナは内心ワクワクしていた。
教えたことは全てもらすことなく吸収し、どんどん強くなっていくアキラ。修行のしがいがある。
でも足りないのは経験。こればっかりは教えて出来るようになるものではない。それはもう身体で覚えるしかないのだ。
確実に強くなっているアキラの底の見えない強さに、やはりワクワクしてしまう。
アキラは攻撃を受けても何度も何度も立ち向かってくる。そしてあの日約束したときに見た青い瞳に映った“なにかを守る”という意志は相変わらず強いままだった。
アキラは痛みを隠すのが上手い。そのためクシナはアキラの肉体ダメージをきちんと把握しきれず、アキラの限界が分かったときにはもうその身体はボロボロになっていた。
アキラは地面に叩きつけられた身体を起こそうとしたが、それはもう限界で少し持ち上がった身体は再び地面へと落ちた。
アキラはそれを何度も繰り返した。
状況を理解したクシナは影分身を消し、慌ててアキラの小さな身体を抱き上げた。
半開きになった青い瞳にはまだ戦おうとする意志が残っており、“なんでやめたの?”と目だけで訴えてきた。
こんな身体になっても今なお修行を続けようとしているのだ。
その瞳がクシナの胸を締め付けた。
こんなになるまで気付けなかったのは彼女がきっと、上手く怪我を隠していたから。でも、それでもなぜ気付いてあげられなかったのだろう。という激しい後悔がクシナを襲った。
でもこの状況になって気付いたことが一つだけあった。
なにかを守ろうとしているのは分かる。
しかし自分が傷付くことをなんとも思っていない。
この子は優しすぎると。
『くしなさ、・・・つづき、やりま、しょう』
自分は大丈夫だとわざと笑ったその姿が逆に痛々しかった。
「・・・・・・、ごめん、ね」
数日の付き合いだがアキラの性格が分かり始めたクシナは、アキラに手刀を下ろして気を失わせた。
“今日はもう終わり”といえば無理矢理身体を起こすことは目に見えていたから。
頭を優しく撫で、きゅっと抱き締めてから病院へかけ込んだ。
クシナはアキラが目覚めるまで、自分の半分もない小さな手を握り続けた。
“ごめんね”と小さく呟くクシナの頬からは一筋の涙が流れた。
優しすぎるアキラ。自分の犠牲をなんとも思わないアキラ。
彼女が自らそれを止めることはないだろう。
だから、誰か。
この子を止められる人が現れることを祈った。
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