00.はじまりの雨と雷(2/2)

 けたたましい破壊音と激痛により、私の意識は再び浮上した。
 この痛みの原因は何なのか。記憶を辿り、赤ん坊を助けようとして雷に打たれた……というより打たれにいった事を思い出した。
 激痛ばかりに気をとられていたが、少しずつ他の感覚もはっきりと感じるようになってきた。
 目の前は相変わらず暗い。目を開けようとしても何故だか上手くいかない。体は熱くもあり冷たいという不思議な感覚。空から落ちて弾ける雨が私の体に当たる度に刺すような痛みが走り、激しい雨音と赤ん坊の泣き声が私の鼓膜を震わせた。
 私、生きてるの……?
 てっきり死んだと思っていたから、生きていることに困惑した。勿論死にたかった訳ではない。ただ、死を悟り、覚悟したが故に生きている事への喜びよりも困惑が先に来てしまった。
 それに赤ん坊の泣き声も聞こえる。助けることが出来たのだと安堵したが、赤ん坊に耳元で叫ばれ、その声は私の体の中にまで響いている。正直言うと少々うるさい。しかし、赤ん坊がそうしていれば誰か助けに来てくれるのではないかと思ってしまった。
 そんな赤ん坊任せの考えが一瞬頭を過ったが、あの赤ん坊がひとり道端で豪雨に晒されており、周りが住宅だったにも関わらずその赤ん坊を助けようと外に出てくる人はいなかった。状況からして、どこかの家の赤ん坊が泣いているだけだと思って気にしていたのかもしれない。赤ん坊が雨の中放置されてるなんて普通は考えないから、当たり前の反応だ。しかし、それなら今もその状況は変わらないだろう。
 取り敢えず救急車を呼ぼうにも、激痛が走るばかりで体は動かせそうにない。ここは誰かに助けを求めるしか方法は無さそうだ。
 そう思い、「助けてー!」と叫んだが、私の声はより激しくなった赤ん坊の泣き声によりかき消された。
 いいや、正確には違う。
 赤ん坊の声の方が大きかったとしても、私の声も音となって聞こえるはずなのに全く聞こえなかった。雷に打たれた衝撃で、私は声がでなくなってしまったのか。
 いいや、それも違う。これはまるで……。
 そんな疑問を抱いた時、ぱしゃぱしゃと水の上を駆けるような音が聞こえ、その音はこちらへ向かってきている様だった。徐々に大きくなるその音はついに私の近くで止まった。
 誰かが来てくれた。これで助かるかもしれない。
 人の気配ははっきり感じる。すぐそこに人はいるはずなのに、どういうわけかその人物は何もする気配がない。
 見殺しにする気か!何でもいいから助けてくれと、半ば苛立った私はもう一度「助けて!」と叫んだが、私の口からは出たものは別の音となって発せられた。
 私の声はこんな声じゃない。声は出るのに話せない。
 どうにか話そうと試みたが、「あー」とか「うー」しか言えない。これは一体どういうことか。
 困惑していると、はっと息を飲む音が聞こえ、次には浮遊感と共に全身が温かいもので包まれた。
 抱き抱えられていると理解するのにそう時間はかからなかったが、それと同時に自分が置かれた状況が確信へと変わりはじめた。
 私は決して小さくない。平均身長くらいはある。それなのに、今の私は全身すっぽりとその人腕に収まっている。こんなことあり得ない。相手が自分の何倍も大きい数メートルもある巨人か、あるいは……。
 私は開けづらいからと諦めていた目蓋を無理やり持ち上げた。
 嘘でしょ?こんなことって……。
 私の目に映ったのは、ぷにぷにの小さな手。見慣れた自分のものではなくて、赤ん坊のそれ。上手くは動かせないけれど、それは確かに自分の意思に応じて動く。
 私赤ちゃんになってる!?
 雷に打たれて赤ちゃんと体が入れ替わったのかと、非現実的な事を考えた。だって、そうでもなければこんな事はありえない。
 どうにか状況を理解しようと、少しでも冷静になろうとした所へ追い討ちがかかった。

「自来也先生!!!」
「弥彦!小南!長門!」

 聞き覚えのある名前と声に体が跳ねた。思いきって顔を持ち上げ、私を抱えている人物の顔を自分の目に映せば、これまた見覚えのある顔がそこにはあった。
 いやいや、こんなことがあるだろうか。
 とても信じられなくて何だか頭が痛くなってきた。

「先生、その子……」
「血まみれじゃねーか!」
「早く手当てしないと……!」
「あぁ、まずは帰るぞ!」

 私はついに考えることを放棄した。
 「もう少しの辛抱だからな」と言って、私に雨が当たらないようにしながら、私を抱えたその人は駆け出した。
 でも状況の整理だけはしよう。
 私は赤ん坊を助けようとして雷に打たれた。私とその赤ん坊が死んだのかは分からない。
 雷に打たれたからなのか、私は赤ん坊になっていて、おまけに血まみれらしい。
 そしてどうやら、私はNARUTO世界に来てしまったようだった──





<後書き>
ついに書き直しはじめましたー!
まだ構想練っている部分もあるのでぼちぼち書いていければなと思っております!
書き直し版も楽しんでいただけましたら幸いです。(2022.04.08)
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