02.自来也様、早く帰ってきてください!(2/2)

こうして私たちは雨の国を後にした。
 兄ちゃんたちとは今までずっと一緒にいたから、足を進めれば進めるほど、雨の国から離れれば離れるほど、不安が大きくなった。自来也様はそんな私にたくさん声をかけてくれて、木の葉のことをたくさん話してくれた。
 それだけでも気を遣わせてしまい十分迷惑をかけたのに、歩くのは遅いし、この体では体力もあまりなくて、すぐに疲れてしまう。隠していても自来也様にバレては、おんぶやだっこをされて、時にはそのまま眠ってしまうこともあった。(自来也様には、「気にしなくていい」、「お前はもっと子供らしくしていいんだ」と言われたけれど、中身が子供ではないからそういうわけにもいかず、私のその態度が更に自来也様に気を遣わせてしまった。)
 そうして数日をかけて、私はついに木の葉隠れの里へと向かった。──のだけれど……。

「おっ、アキラ。起きたか」

 あぁ、私はまた自来也様に抱っこされたまま眠ってしまったのかと、自来也様に迷惑をかけてばかりの自分が嫌になる。いつもは自来也様の腕の中で眠り、腕の中で起きるのだけれど、今回は違い、布団の中にいた。
 宿を取ったのだろうか。
 しかし、生活感の溢れるこの空間は宿のそれとは違う。ここは……。

「ワシの家じゃ」

 布団の横に座っている自来也様は、私の頭を撫でながら言った。
 自来也様の家?……ってことは、もう木の葉に着いたってこと……?
 一気に目が覚めて、私は布団から跳ね起きた。咄嗟に謝ろうとしたけれど、その前に自来也様が、「長旅に耐えて偉のぉ」とか、「痛いところはないか」と聞かれてしまった。

「だいじょうぶです」
「そうかそうか」

 自来也様は、私の頭を撫でながら、ガハハと豪快に笑いうと、「お前さんは昔から無理をしすぎるからのぉ」と続けた。
 なんと言うか、自来也様には全てを見透かされている気がする……。(三年も一緒にいれば分かってしまうものなのかもしれないけれど)
 その後、ご飯を食べながら、今後の事を話された。

「お主もこれから木の葉で暮らすなら、ジジイに挨拶くらいはしておかんとのぉ」

 ジジイって……。恐らく三代目火影様のことだろう。
 因みに、木の葉には昨日ついており、自来也様は昨日のうちに挨拶は済ませているそうだ。私が眠ってしまっていたせいで、自来也様に二度手間をかけさせてしまったと、思ったが、自来也様は、今日は別件で火影様に用があると言っていた。その別件が何かも知らず知らず、私は三代目火影様の元へと向かった。
 こうして私は三代目火影・猿飛ヒルゼンと出会った。
 火影という存在は、里の長であり、皆を守る存在であることは原作からも十分に理解していた。しかし、実際に出会って思った。
 自来也様と一緒にいる時も感じるのだが、この人と一緒にいたら大丈夫という、絶対的な安心感。どっしりと構えたその貫禄のようなそれは、自来也様のそれとは比べ物にならない程である。
 私の事情を知っているのもあるだろうけど、火影様は他里から来た私を邪見にせず、温かく私を迎えてくれた。

「それでだ、アキラ。悪いんだが、少し外で待っていてくれるか?」
「はい」

 私が挨拶を済ませると、自来也様は私に火影室の外で待つように言った。どんな話をするのかと気にならない訳ではないけれど、私を外に出すくらいだから任務の話とか、そういう類いのものだろうと、勝手に想像していた。
 火影室の外に設置された椅子に腰かけ、暇だなぁと思って、足をぷらぷらしていられたのも束の間のことで、火影室からは火影様と自来也様が何やら言い合っている声が聞こえてきた。
 いけないとは思いつつ、暇で仕方がなく、私は聞き耳を立てた。

「お主の言いたいことも、あの子の事情も知っておるが、これ以上は無理じゃ!」
「こんの、クソジジイ!何週間、何ヵ月とは言っとらんだろ!せめてあと数日は……」

 これだけで、私の話をしているのだと察した。
 更に聞き耳を立て、話を要約をすると、自来也様が木の葉にいなかった三年間。自来也様の穴埋めは誰かがしていて、特に自来也様と同じ隊である綱手様や大蛇丸にはかなり負担がかかっているそうだ。そのふたりは今、長期の任務に着いているのが、任務の状況報告と共に「自来也はまだか」と、綱手様がかなり苛立ってきているとか。
 自来也様は、任務状況はそう緊迫した状態でもないし、私のためにこの土地に慣れるまでもう数日は木の葉にいて、私の預け先を探し、その後任務に行くと考えているようだ。
 正直な話、新しい場所に来て不安な気持ちが大きく、自来也様にはそばにいて欲しい。でも、私の体は子供だけれど、中身は我が儘など言っていられない年齢である。
 これ以上迷惑はかけられないし、この話は私が一言、大丈夫と言えば済む話である。
 ふぅ、とひとつ息を吐き、椅子からおりようとした時だった。

「おや?可愛いお嬢さん。こんな所にひとりでどうしたんだい?」

 落ち着いた男性の声。
 声の持ち主はいつの間にか私の目の前で膝を着き、優しく微笑みながら私の顔を覗き込んでいた。

「えっと、あの……そ、の……」

 見覚えのある顔で、思わず言葉が詰まってしまった。

「あぁ、急に話しかけてしまってごめんね。驚かせてしまったかな。」

 彼はばつが悪そうに笑うと言った。

「お嬢さんの名前はなんていうんだい?私は……」

 そこまで言って彼は口を止めた。いいや、正確には遮られたと言ってもいいだろう。
 火影様と自来也様の言い合う声が大きすぎて、聞き耳を立てなくても会話内容が十分に聞こえた。
 彼はその会話で状況を理解したようで、私を見るなり言った。

「あぁ、そうか。君が……。うんうん!やっぱりどことなく自来也に似てると思ったんだ!」
「それってどういう……」

 何かとてつもない勘違いをされている気が……。

「自来也がひとりで子供を連れて帰ってきたって聞いたときはすごく驚いたけど、自来也がちゃんとお父さんやってて安心したよ。」
「えっ、ちが……」
「あぁ、私は自来也の先輩……、いや、君のお父さんとは友達でね!やぁ!めでたいなぁ!!」「ちょ、ちょっとまってくださ……」
「あ、あぁ、ごめんね。つい、嬉しくてね」

 私の勘違いは、勘違いではなかった。その勘違いの勢いは止まらず、彼は火影室の戸を叩いた。
 そして、この人物。私の間違いでなければ恐らく……。

「火影様。はたけサクモです。自来也と色々話されているのは承知ですが、入ってもいいでしょうか?……いえ、入れてください!」

 あぁ、これは話がややこしくなる。
 火影様の了解を得て、サクモさんは火影室に姿を消し、数秒後に聞こえてきた会話に頭が痛くなった。

──「サクモ!お主からも何か言ってくれ!」
──「自来也、お前……父親になったんだな!おめでとう!お前の女好きは少し心配していたんだが……、しっかり子供を育てていて安心したよ。それで……、君の奥さんはどうしたんだい?まさか雨の国に置いてきた訳じゃないだろうな」
──「サクモさん?ワシに子供……?……っ!?ちょ、違っ……!!!」

 サクモさんが加わったことにより、火影室は更に騒がしくなった。
 普段この部屋で大声をあげることなんて滅多にないから必要ないのかもしれないが、火影室の防音は強化した方が良いのではないかと、ひとり呑気なことを考えた。
 はたけサクモさん。彼の事は知っているけれど、原作で余り詳しくは描かれていなかったから詳細までは分からない。ただ、この短い時間で感じたのは、サクモさんは少し天然で何となく抜けているけれど、真面目で優しい人だということ。
 自来也様の女好きについては、私も原作知識で知っていたし、実際そうだと思うし、女好きの自来也様が幼い子供を連れて帰ってきたことに、「ついにやらかしたな」ではなく、自来也様を疑わず「愛する人ができたんだね!それに子供も授かって、何てめでたいんだ!おめでとう!」と、素直に言えるサクモさん。すごく素敵な人だと思う。

「え……。えぇ!?あの子、君の子供じゃないのかい!?自来也にあんなに似ているのに!」
「サクモ!これ以上話をややこしくするな!」

 自来也様の名誉のために言っておくけれど、私は本当に自来也様の子供ではない。私の外見は、自来也様のどこにも似ていないのだから。私の肌は、自来也様の少し焼けた肌よりもずっと白いし、髪は黒く、目は青色。顔も全然違うし、似ている要素は何処にもない。サクモさんは私の何処を見て、自来也様と私を似ていると思ったのかは分からない。自来也様が子供を連れて帰ってきたという話だけなら、私の存在を自来也様の実子かと勘違いされてもおかしくはないが、実際に私を見てもなお、親子と勘違いするのはサクモさんくらいな気がする。
 それはさて置き、何だか眠くなってきてしまった。ここで私が火影室に入ったところで、彼らの話し合いは終わらないだろうし、私は眠ることにした。抗いきれぬ眠気に襲われ、私は目を瞑った。
 私が眠っている間、話し合いがどう進んだのかは分からない。ただ、予想もしない方向に話が着いたようで、次の日の昼過ぎ、私は、木の葉の里の出入り口である、あんの門の前に立っていた。

「お主の傍にいてやれなくてすまん」
「わたしならだいじょうぶです」

 自来也様は綱手様たちのいる任務地へと向かうことになり、私は自来也様の見送りをしている。サクモさんと一緒に。

「気をつけて。この子のためにもね」
「はい。……サクモさん。アキラをよろしくお願いします」

 自来也様は深々と頭を下げた。

「あぁ。だから安心して行ってきなさい」

 自来也様が任務に行っている間、私はサクモさんの所に預けられることとなったのだ。
 自来也様は私の頭を撫で、申し訳なさそうに微笑んだ。
 私に我が儘を言う権利はないのだけれど、自来也様が行ってしまうのだと実感して、このまま何処かに行って帰ってこないのではないかと、急に怖くなって、私は無意識に自来也様の脚にしがみついていた。
 自来也様を困らせてしまっている。しかし、知っているけれど知らない土地で、知っているけれど知らない人たちしかいないこの場所にひとりでいることが怖くて不安で仕方ない。
 原作の通りなら、こんなところで自来也様は死んだりしないから不安になる必要はないのかもしれない。しかし、この世界で生きて数年、この世界はいつ何が起きてもおかしくない世界であると実感したから、どうしても不安になってしまう。

「自来也。抱きしめてあげなさい」
「……はい」

 自来也様は膝を着くと、その腕に私を収めた。その腕の中は大きくて力強くて温かくて、不安な気持ちは溶かされ、安心感へと変わっていった。

「はやく……かえってきてくださいね」
「あぁ。約束じゃ」

 抱きしめ合うその姿に、サクモさんが私たちを「本当の親子のようだ」と思っていることも知らず、私は自来也様のその言葉を信じ、自来也様を送り出した。
 姿が見えなくなるまで見送った。サクモさんはその間、何も言わず、私の手を握っていてくれた。
 自来也様を見送った後、私はサクモさんと手を繋ぎ、彼の自宅へと向かった。サクモさんは歩いている間、色々な話をしてくれて、たくさんの笑顔を私に向けてくれた。そして、そろそろ着くかなと思った頃、サクモさんは頬を掻きながら言った。

「私には息子がいてね。カカシっていうんだけど……」

 少し照れくさそうに息子の自慢話をはじめた。
 はたけカカシ。彼がサクモさんの息子だというのは原作を読んで知っていたし、彼の人生についても知っている。
 そうだ。この人も、そう遠くない未来、この世からいなくなってしまう。今、私の手を握ってくれている優しい手の温もりも、いつか消えてしまうのか。
 それに気付き、急に心臓が冷たくなった。
 胸が苦しくなるのと同時に、現実に引き戻される。

「でも最近なんだか反抗期でね……。根は優しい子なんだが……」

 サクモさんは困ったように笑った。
 サクモさんの家で面倒を見てもらうということは、つまり、カカシとも一緒に暮らすことになるのだ。
 うまくやっていけるだろうか。
 だって、少年期のカカシは、サクモさんのいう通り「反抗期」なのだから。いや、あれは反抗期というより……。

「ここが私の家だよ」

 住宅街を抜け、町外れの田んぼ道を歩いた先にその家はあった。
 和な風景にとけ込んだ、落ち着いた雰囲気の平屋。今日からここでお世話になるのかと、ぼうっとしていると、サクモさんが玄関の引戸に手をかけた。

「カカシー!ただいまー!」

 軽い足音と共にその人物は現れた。
 
「父さんおかえり。……って、……そいつ誰」
「ほら、昨日話しただろう?今日からうちで暫くの間預かることになったんだ。アキラだよ」
「アキラです……。しばらく、おせわになります。……よろしくおねがいします」
「ほら、カカシも挨拶なさい」

 サクモさんにカカシと呼ばれたその少年は、サクモさんの帰宅を嬉しそうに向かえたが、私の存在に気付くなり、顔を曇らせ私を睨み付けた。

「……」
「はぁ……。この子が、さっき話した私の息子のカカシだよ。仲良くしてやってくれ」
「はぁ?オレがこいつと?……嫌なんだけど」
「こ、こら……!カカシ……!!」
「なんでオレがこんなチビと仲良くしなきゃいけないわけ」
「カカシ……!ちょっとこっちに来なさい!……アキラ。悪いんだが、居間で待っていてくれるかい?」
「えっと……。は、……はい」

 えぇ、知っていましたとも。少年期のカカシが「反抗期」だってことは。
 それに、彼もまだ子供だし、父親にいきなり、一時的によその子供を家で預かることになったと言われて、簡単に受け入れられるものでもないのだろう。だって、知らない人間と急に一緒に暮らすことになるなんて、嫌に決まっている。その気持ちは私にも理解できるし、彼の反応は仕方のないことだと思う。
 彼がどんな反応をするか、覚悟はしていたが、こうも拒絶されると、流石に精神的に来るものがある。
 私が出ていけば済む話であっても、他に頼れる先も生きる術もなく、ここでお世話になるしか方法はなかった。
 体を小さくして家に上がり、チクチクと背中を刺すカカシの視線を感じながら、通された居間へと足を進めた。居間にたどり着き、部屋の隅に膝を抱えて座り、サクモさんが諭すような口調でカカシと話している声を聞きながら、私は目を瞑って祈った。
 自来也様……。どうか早く帰ってきてください。私……うまくやっていける気がしません!!!!




(あとがき)
ご閲覧ありがとうございます!
すっとばした弥彦たちと三年間の話は、本編とも関係する部分があるのでいつかは書きます。
自来也様が推しなので、やっぱり贔屓して書いてしまいますねー\(^o^)/自来也様愛してるー!
サクモさんのキャラってこんな感じであってるだろうかと、不安になりながら書いています……。解釈一致だと嬉しいです。
この状態から主人公とカカシがどうやってくっついていくのか、見守っていただければ幸いです。
拍手、アンケートぽちぽちしていただけると嬉しいです!(2022.05.15)
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