TRUE(書き直す前)-57

 先日、アカデミーの卒業試験日が正式決定された。まだ一ヶ月以上あるというのに、周りはソワソワとしていて落ち着かない。
 これからは、職員室に忍び込み卒業試験内容のカンニングや、その試験内容を踏まえ自身を鍛える期間だ。オレの実力があれば、カンニングなんかせずとも卒業に合格点を貰えるだろう。しかし慢心は己を殺す。準備は抜かりなくする予定だ。
 だが、皆がみな同じ考えではない。実力も無いくせに、大口を叩くやつ。反対に、試験に合格なかったらどうしようと自信を無くしている者もいる。どいつもこいつも鬱陶しい。授業中だが思わずため息が出た。
 そんな中、イルカ先生が言った。

「隣の席の人とお互いの良いところを言い合ってみよう」

教室がざわめく。他人の良い所をを認め合うのも大事だと先生は続けた。先生の目的は、互いに褒め合い自信をつけてもらおうといったところだろうか。
 正直自分には必要ないし、きっとオレの隣の席であるこいつにも必要ないだろう。
 教室にはクラスメイトが言葉を交わし合う声で賑わってきたが、オレたちは無言だった。というより、オレが隣にいるそいつの方を見ていないのだから、相手も話し始めないのだろうが。
 しかし、いつまでもこうしていると先生に目をつけられる。オレはまたひとつため息をつきながら、隣にいるそいつを見た。
 オレの隣の席はアキラ。まっすぐな瞳でオレをじっと見ている。以前はこいつが嫌いだった。理由は言わなくても分かるだろう。
 しかし、あの一件から忍組手で手を抜かれる事はなくなった。お陰で一瞬で決着をつけられる上に一度も勝てない。オレは一番ではなくなったが、手加減されていたあの時よりはずっと気分が良い。最近では、昼食を共にすることが増えた。半ば強制と言って良いだろう。はじめは断っていたが、断る方が体力を使うことに気付き、断るのを諦めた。その関係で、テンテンや落ちこぼれのリーとも言葉を交わす機会が増えた。
 話は逸れたが、アキラの事は嫌いではなくなった。かといって好いているかと言われても、それは違うと首を振ってしまう。ただ認めてはいる。先生のいう『良い所』と言われると何を言ったら良いのか分からない。
 オレが黙ったままでいると、アキラは言った。

「ネジ君の目って……」

その瞬間、嫌悪に近い感情がオレの中を支配した。
 日向一族は産まれながらにして瞳の色が特殊である。特別な瞳術を発現するこの瞳は、恐れられたり好奇の目にさらされることは少なくなかった。アカデミー生でもオレの目に恐怖を抱き、目を合わせないやつは大勢いる。
 しかし、アキラは違った。初めて会った時から、恐れも好奇も含まない純粋で真っ直ぐな瞳にオレを映している。そう思っていたのに。だからオレはお前を認めていたのに。何故だかひどく裏切られた気分になった。しかし、次には曇りきった心の中は、雲ひとつない青空のように晴れていった。

「とっても綺麗だよね!」

屈託のない笑顔と共に放たれた言葉に驚きを隠せない。そんなことは初めて言われたのだから。

「ネジ君の目は、青空を見ると青くなるし、夕方には夕日の色になって、夜は紺色になって星と一緒にキラキラ輝いてる!」

様々な色に染まるオレの瞳が美しいと、彼女は言った。そうして思った。彼女の中のオレは、オレを日向一族の分家に生まれた日向ネジではなく、同じアカデミーに通うただの日向ネジであると。日向の運命のしがらみから少しだけ解放された不思議な感覚に驚きを感じた。

「……容姿を褒める目的ではないと思うが」

オレらしくもなく冷静を欠いて、返した言葉はとても拙い。『ありがとう』と一言そう言えば良かったのだろうか。しかし、生憎オレたちはそんな仲ではない。
アキラは『確かに!』と納得した表情をすると、次から次へと言葉を並べた。

「それからネジ君は……」

彼女は授業終了を告げる鐘と共に話すのを止めた。授業終了10分前にイルカ先生が突然言い出した取り組みで、設けられた時間はそもそも少なかったのだが、その間オレが口を挟む間もなくアキラは話し続けていたのだ。

* * *

 昔は褒められるのが嬉しかった。その度に父に頭を撫でて貰えた。しかし、父がこの世を去り、『恵まれた人間』から褒められても嫌みにしか聞こえなくなった。どんなに『天才』であれ、オレは、輝く機会を与えられないのだから。恵まれた人間からの言葉は、恵まれていない人間に対しては皮肉や嫌味にしかならない。
 そうして時が経つにつれ、人の言葉を素直に受け取れなくなった。ひねくれている?何とでも言えばいい。
 それなのに。そうだったはずなのに。

 アキラから言われたそれは、不思議な程、曲がらず真っ直ぐ自分の中に入ってきた。数年ぶりに誰かに褒めれられた感覚と、喜びにも近い感情に驚きながらも、どこか心地よい。

「今日の授業はこれで終わり!帰ったら修行に励めよ!」

イルカ先生がパンッと手を叩き、気が付けば既に数名の生徒が教室を後にしていた。
 隣いるアキラも帰り支度を整え席を立とうとしていた。教室の出入り口にいるテンテンがアキラを「早くー」と急かす声が聞こえる。
 授業は終わっているから、彼女に何か言う必要はもう無いのだが、何か言わなくてはという衝動に駆られていた。しかしうまく言葉が出てこない。
 アキラは立ち上がると、ぱっとオレの方を向いた。アキラは「また明日」と微笑みオレに背を向ける。しかし、次には再び黒い瞳にオレの姿が映っていた。自分の目には、アキラの手首を掴むオレの腕が見えた。オレの体は勝手に彼女を引き留めていた。だが、オレの口はそれ以上に勝手だった。


「オレもお前の目が綺麗だと思っている」

ーーその瞳は確かに黒いのに、青空のように輝いて見えるその瞳が。


言ってからはっとした。こんな事を言うつもりはなかったし、おまけにオレの目が綺麗だと言ったアキラに、「容姿を褒める目的ではない」と否定したのはオレなのだから。
 アキラは驚いたように黒い瞳を真ん丸にしてオレを見ている。しかし、次には歯を見せて彼女は笑っていた。

「ありがとう!」

オレが言えなかった言葉をこいつは簡単に言ってくる。その素直さに羨ましささえ感じてしまう。

「アキラー、リーも一緒に修行したいってさー」

教室の外でアキラ待っていたテンテンが再び教室の中へやってきて、オレは慌ててアキラの手首を掴んでいた手を離した。テンテンの後ろには、リーが立っている。
 今までは、何一つできない落ちこぼれで、いつも眉を下げてうじうじと俯いているリーが嫌いだった。しかし、いつの頃からか丸まっていた背中はすっと伸び、顔つきもいくらはましになった。未だに何もできないのは変わっておらず、卒業して忍としてやっていけないレベルだ。そもそも卒業すら厳しい。リーに関しては、修行というより、卒業試験対策といった所だろうか。
 アキラは「勿論!」とリーを歓迎した。卒業に向けて頑張ろうと意気込む彼らに、オレは妙な感情を抱いていることに困惑していた。
 オレたちは最近よく昼休みを共にしている。先ほども言ったが、半分アキラによる強制のようなもの。昼を食べるついでに、残った休み時間は四人で修行をすることも増えた。
 今までは、ひとりで修行する事が多かった。はじめこそ仲良しごっこのようで嫌だったが、人に教えることで得るものもあった。特に、森という地を利用したアキラとの鬼ごっこは、とても有意義だった。(未だアキラには捕まえれてばかりだし、捕まえられもしないが。)その度に思うのだ。誰かと共に己を鍛えるのも悪くないと。初めは苛立って仕方なかった、アキラやリーのドジも笑えるようになった。そうやって皆で笑う温かさを感じるようになった。父が死んでから忘れてしまった感情を取り戻したような気がした。
 だからだろうか。オレを除いて三人でわいわいと話しているのが気に入らない。一言では言い表せないモヤモヤとした感情。愉快でないのは確かだ。
 
「勿論ネジ君も来るでしょ?」
「あんたもリーが卒業できるように協力しなさいよね」
「お、おおお願いします!!」

三人がこちらを向いて言った。それと同時に、胸にあったモヤモヤは嘘のように消えている。なんだかくすぐったいようなそんな気分。オレはこの感情を知っている。
 でもオレは素直じゃない。こいつらと違ってひねくれている。

「仕方ない。付き合ってやろう。」

ふんっと鼻をならし、オレはそう返すのだった。ーー



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▼あとがき▼
ネジ君解釈違いだったらすみません。
ネジ君も心の闇深いと思うんですよね。第三班の皆で楽しく友情を育んでほしい。そして皆幸せになって欲しい(切実)
ネジ君は誰かとつるまないイメージありますが、修行くらいには、付き合ってくれるといいなと
いう。お買い物とかは断られそうなイメージ!w
というかもそもそ、夢主が「ありがとう!」って言うところまでしか書く予定だったのに、ネジ君への愛情が爆発してこんなに書いていたよね。ネジ君すごい。

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