TRUE(書き直す前)-56

 僕は忍術が使えない。幻術も使えない。運動だって出来ない。僕は落ちこぼれだ。だからみんな僕をいじめる。
 僕にじりじりと迫るクラスメイトのひとりが石を拾い、その手が振りかぶった。僕は知っている。もうすぐ痛いのがやってくる。だから少しでも痛くないように、必死に体を丸めた。

「ちょっと!何してるの!!」
「っ!なんだよお前!」

目の前がぱっと暗くなる。固く閉ざした目を開けば、日に照らされてキラキラと輝く白髪が見えた。僕の前に立つその人は僕に背を向けていて顔は見えない。でも、僕のよく知る人だった。

「さっさとどけよ!じゃないとお前も……!」

声を荒げるクラスメイトに怯みもせず、相手を睨み付け、壁のように動かない。

「こんのっ……!!!」

しびれを切らしたクラスメイトは、石を持ったままその腕を再び高く振り上げた。
僕の前に立つその人は、避けることもその石を掴むことも出来たと思う。でもその人はピクリとも動かず、勢いよく投げられた石はその人の頭に当たった。その人の真っ白な髪じわりと赤く染まる。

「石を投げられたら痛いの!血が出るの!分かったらリー君に二度とこんなことしないで!!!」

ビリっと空気が震えた。自分に向けられたものではないのに、その迫力に体が強張った。
 すると僕をいじめていた人たちは、半泣きになりながらバタバタと逃げるようにアカデミーの校舎へと駆けていった。
 ぼーっとその様子を見ていると、その人は僕に手を差しのべた。

「リー君!どこも怪我してない!?」

その変わりように混乱したが、心配そうに僕を見つめるその瞳は本物で、ようやく詰まっていた息を吐いた。
 先ほど彼らに突き飛ばされた時に擦りむいた膝の傷を見つけると、彼女は「じっとしててね」と優しい声で言った。彼女の手がうす緑色に光り、その手を僕の膝にかざし、暫くするとその傷は嘘のように治っていた。

「これでよし!」

彼女の顔を見ると、額から頬へと赤いものが垂れた。僕をかばった時のものだ。

ーー君だって怪我をしているのに。どうして。

投げられた石を避けたら僕に当たると思ったのかもしれない。なら石を受け止めれば良かったのに。それに、やり返そうと思えば、君ならいくらだってできるのに。彼女の行動が理解できず、尋ねれば、彼女は言った。

「やり返したら、あの子達がまたリー君にまた同じことをするかも知れないでしょう?話し合いで解決できればそれが一番!!」

自信満々に答えたが、次には眉を下げて笑いながら「……最後の方はちょっとだけ手荒だったかも知れないけど……」と頬をかきながら言った。
 僕はぎゅっと拳を握りしめていた。
 僕を守ってくれたこの人・アキラは伝説の三忍と呼ばれる自来也様の娘らしい。彼女が自分でそう言っていた訳ではないが、自来也様はとっても強い忍と誰かから聞いた。彼女はとても強い。何をやっても駄目な僕とは反対に彼女はなんでも出来る。羨ましくて仕方なかった。強い忍の子供だから彼女も強いんだって、自分が弱いのを何かのせいにしたくてそう思っていた。でも今分かった。僕が弱いのは、心が弱いせいなんだって。
 今まで彼女が助けてくれることは何回かあった。その度に、僕が可哀想だからだと思っていた。でも、彼女の額の傷を見て、間違いだったと気付いた。それなのに僕は……、僕は……。
 俯いたままでいると、誰かが彼女の名前を呼んでこちらへ近づいてきた。

「アキラ!一緒にお弁当食べる約束してたのにどこに行ったかと思えば……」

彼女と仲の良いテンテンが、呆れたように言ったが、次には血相を変えて彼女の肩を掴んだ。

「ちょっと、アキラ!血が出てるじゃない!」
「これくらいすぐ治るから大丈……」
「だとしても、怪我していいって訳じゃないでしょ!」

鮮やかだったその赤は、いつの間にか赤黒く変わっていた。血は止まったようだが、白い髪は一部色が変わったままだった。

「いい?この傷は忍術で治しちゃ駄目よ!ちゃんと反省しなさい!」

テンテンはどこからか出した医療キットで、アキラの傷の手当てをしていた。
 助けてもらった僕が言えることではないのかもしれないが、テンテンの意見と同じだった。
 話し合いで解決できればそれが一番いいと言ったけれど、実際彼女はこうして怪我をしている。その矛盾に唯一彼女だけが気付いていない。まるで、彼女自身は怪我をしても関係ないとでもいう態度だった。それが『強い』ってことなのか、自分には分からない。

「そうだ!リー君も一緒にお昼食べよ!」
「あんた!また話そらして!」

テンテンにあれやこれやと説教されていたアキラが僕の方を向いて言った。

「ぼ、僕は……」
「いいでしょ?テンちゃん!」
「……こうなったら聞かないんだから。アタシはいいわよ」

彼女は嬉しそうに笑った。すると、今度は何やら閃いた様な顔をすると、彼女は僕たちの手を掴んだ。

「今日はあそこで食べよう!」
「どこ行くのよアキラ!?」

テンテンの問いかけに答えず、僕たちの手を引いて彼女は駆けた。僕は運動が出来ないから、途中何回か転びそうになったけれど、その度に彼女はぐっと手を引いて僕が転ばないようにしてくれた。
 たどり着いたのはアカデミーの近くにある森の中。ここは、手裏剣やクナイの的が設置してあったり、授業での『鬼ごっこ』や『かくれんぼ』で使う演習場だ。そんな森の中にひとつ、見慣れた影があった。

「何の用だ」

その声は何時もより低く不機嫌そうで、思わずアキラの背中に隠れた。それでもアキラは気にすることもなくその人物の元へと進んでいき、ついにはその隣に座った。

「今日はここで食べよう!」
「え、えぇ!?アキラ、あんた本気?」

テンテンがそう言ってしまうのも無理はない。何故なら彼女が腰を下ろしたその隣にいるのは、天才と呼ばれる日向ネジなのだから。おまけにこれでもかという程、眉間には深くシワが刻まれアキラを鋭く睨み付けている。

「勝手にしろ。オレは別の場所で……」

広げたお弁当箱を片付け、場所を変えようと立ち上がるネジをアキラは強引に座らせた。アキラは早く早くと僕たちに手招きをした。アキラが呼んでいるけれど、ネジは物凄い剣幕でこちらを睨んでいる。どうしたらいいのか分からず、おどおどしていると隣の影が一歩前に出た。

「ネジ、諦めなさい。こうなったアキラは何も聞かないわ」

やれやれといった表情で歩みを進めるテンテンにつられるように僕も一歩を踏み出した。近くまで行くとアキラは地面をぽんぽんと叩き、座るように促した。
 ちらりとネジの様子を見ると、テンテンの言う通り諦めたようで、再びお弁当箱を広げていた。そしてその時に気が付いた。

「ぼ、僕お弁当が……」

アカデミーに置いてきてしまった。最も、アキラに手を引かれて取りに行く暇など無かったのだが。視線を落とす僕とは反対に、アキラは僕の背後に視線をやった。

「それなら大丈夫!もうすぐ……。」
「お待たせー!」

前からも後ろからも同じ声が聞こえて困惑した。後ろを振り向けばやはり同じ顔。もうひとりのアキラが僕に鞄を手渡すと煙をあげて消えてしまった。影分身だった。
 ひとの鞄を勝手に漁ってはいけないと、アキラは鞄ごとここに持ってきてくれたようだ。しかし、どんなに探してもお弁当箱は見つからない。絶対鞄にいれて持ってきた筈なのに。さーっと血の気が引いていく。

「はい!どーぞ!」

じわりじわりと視界が滲み出したが、僕の前に何かが差し出された。白くて三角の形をしている。それから膝の上に四角くて平らなものが置かれた。目を擦ると、そこには弁当箱の蓋を皿代わりにして、とうもろこしと唐揚げが乗っていた。

「しょーがないわねー。はいっ。アタシのもあげる!」

テンテンがそこにシュウマイを乗せた。

「ちょっと、ネジ。あんたは」
「何故オレまで……」

テンテンがじっとネジを見つめると、ネジはまた眉間にシワを寄せながら、綺麗な色をした卵焼きを置いた。

「それじゃあ食べましょ!」
「早く食べないとお昼休み終わっちゃう!ほら、リー君も食べて!」
「……ふん」

アキラにおにぎりを持たされて、僕はそれを口へと運ぶのだった。


* * *


 誰かと一緒にお弁当を食べるのも、アカデミーのクラスメイトとこうして話をするのも、僕にははじめてのことですごくすごく楽しかった。でも楽しい時間ほどあっという間に過ぎ去ってしまう。
 昼休みの終了を告げる鐘が鳴り、僕たちは腰を持ち上げた。「オレは先気行く」と歩き出したネジとは反対に、僕はじっと地面を見つめていた。
 自分の中をずっとぐるぐるしていたものが、気付けば言葉になっていた。

「僕は……アキラ。あなたのように強くなれるでしょうか……?」

ぱっと顔をあげれば、太陽の光に晒された白い髪が、やわらかく輝いている。彼女はにっこりと笑うその笑顔は、自信に満ち溢れていた。

「勿論!リー君は将来すごく強い忍になれるよ!」

目から熱いものが込み上げてきた。それは、次から次へとオレの頬を滑り落ちていく。

「リーが将来どうなるかアタシには分かんないけど、まずはその泣き虫をどうにかしないとね!」

テンテンは僕のおでこをつつきながら言った。

「リー君は私より、テンちゃんより、それにネジ君も追い抜いちゃうくらい強くなるんだから!」
「なに言ってるのよアキラ」
「それは聞き捨てならんな」


テンテンだけではなく、少し遠くにいるネジもアキラの言った言葉に反応した。

「ぼ……僕だって負けない……!!僕は絶対に強くなってそして立派な忍になるんだ……!!」

言い返してからはっとした。僕なんかが、落ちこぼれの僕なんかが……。でもみんな怒った顔はしてなかった。

「やれるものならやってみろ。今のお前では話にならないがな。」
「そもそもリーは、アカデミーを卒業するのも難しいんじゃないのー?」

 半ば相手にされてないだけかもしれない。でも、目の前にいるアキラだけはどこか嬉しそうだった。

「リー君!絶対一緒に卒業しようね!」
「……っ!はい!!!」
「じゃあまずはアカデミーまで競争!!」

 僕は三人の背中を追った。
 今は追うばかりでも、いつかは並んで、そしてアキラの言った通り、彼らを追い越せることを信じて、僕は強く地面を蹴った。
 
 僕の運命を変える恩師に出会うのはもう少し先の話である。ーー



<おまけ>
「そういえば、お弁当忘れるなんてリーはドジねー」
「あ、あれは……」
「リー君、……もしかして隠されたの?」
「たぶん……」
「同じ忍を目指す者として気に食わんな」
アキラは話し合いでの解決も大切だけど、時には拳で語り合うのも大切だといって、僕のお弁当を隠したいじめっ子たちを、アキラとネジとテンテンでボコボコにしたのはまた別の話である。


───────────
▼あとがき▼
同期で絡ませるのほんと楽しい……。というかリー君こんな感じでいいのだろうか(震え)
はじめは千文字程度に収める予定だったのですが、気付いたらこんなに書いてた……。同期組とも友情を育んで欲しいですな……。ちなみに、ガイ班のみんなと主人公は皆ライバル関係です!
ガイ班いいですよね……。主人公は何班に配属されるんでしょうねー←



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