TRUE(書き直す前)-52

 夕方から任務があり、その前に一緒に修行をしていたアキラちゃんと別れた。
 任務もないのにアキラちゃんの誘いを断れば、アキラちゃんに何か勘付かれてしまうかもしれない。しかし、それはただ自分に言い聞かせているだけ。本当は、これが最後かもしれないという思いからだった。彼女とこうして修行をしたり笑い合えるのはあと何回だろう。考えたくもなかった。
 今日はうちはで会合がある。今日の任務は、その会合の内容を把握すること。感情を隠す面を着け、オレは闇へととけ込んだ。
 会合では次々と一族が不満を叫んだ。オレだってうちはの人間だ。里の人々から向けられる視線や態度、管理体制について共感できる部分も無いわけではない。実際、暗部へ就任したが、歓迎されてなどいなかったし、一部の忍からはうちはというだけで拒絶されている。もしも、隊長がカカシ隊長では無かったら、自分はもっと酷い環境に置かれていたかもしれない。
 だから、彼らの声は十分に理解できる。それでも、そうだとしても、クーデターを起こす、これだけはどうしても目を瞑ることが出来なかった。もう、オレには止められない。うちはの決意は見えた。もうここから去ろうと、背を向けた時だった。

「アキラのやつ、はじめからオレたちを監視してたんじゃないか?」

オレの耳は鮮明にその名をとらえた。そいつは、今日カカシ隊長とガイさんがうちは地区に立ち入ったこと。アキラが地区内を案内していたと話した。

「あいつ、オレたちのことを最初から嗅ぎ回っていたんだ」
「そうだ!そうに違いない!!」

ーーみんな……どうして……。

「アキラはずっとオレたちを騙していたんだ!」

ーー違う。皆あの笑顔に救われていただろう……?あの真っ直ぐな瞳に。うちはとしてではなく、ひとりの木の葉の里の人間として、仲間としてオレたちを見てくれていただろう?

「あいつだけは許さない!!」
「殺してやる!」
「絶対に殺してやる!!」

 カッと目が熱くなるのを感じた。
 暗部に入隊し、感情の消し方は上手くなった筈なのに。激しく動揺し、追っていた刀が壁に当たった。
その瞬間、全ての音が消えた。

「誰かいるのか!」
「ここももう古い。鼠の一匹くらいはいるだろう。
それよりも、いいか。我々の計画について……」

それが合図かのようにオレは建物から抜け出した。心臓がバクバクと鳴り止まない。うちは地区を抜け森の中へと身を潜めた。荒くなった呼吸どうにかしようと目をつぶった。そうすれば先程の光景が脳裏に映し出された。
 父さんのあの目……。オレに気付いていた……?確かに目が合った。父さんは全て……。途端に頭が痛くなる。脈を打つようにガンガンと響くそれ。脈打つ度に少しずつ、「予想」が「確信」に変わっていった。
 積り積もった不満は憎しみへと変わり、一族の皆はおかしくなってしまった。怒りの矛先を間違えてしまう程に。父さんはずっと皆の舵取りをしていた。しかし、強すぎる波に抗えず舵は壊れ、荒波の中を漂う事しか出来なくなってしまったのだ。例えるならオレは風。つまり、その船を安全な陸へと運ぶのも沈めるもオレ次第ということだ。父さんは全てを風に託した。

ーーオレに残された道はひとつしかなかった。
 

* * *


「うちは一族、木の葉へ革命を起こす決意です。」

火影邸へ行き、任務の報告をした。
ダンゾウの口角が僅かに上へつり上がった気がした。





オレは、ダンゾウに頼まれた任務を引き受けることにした。提示された選択肢はもはや選択権を与えられていない。
 そして、木の葉とうちはに憎しみを持っており、うちは一族の復讐を目的とする仮面の男に接触し、うちは殲滅に手を貸して欲しいと持ちかけた。オレのこの写輪眼を仮面の男の「やること」に向けるかわりに、里とサスケには手を出すなと条件を付けて。

 じわりじわりと「その時」が近付いてくる。それは、オレがこの里の忍であり、この里で暮らし、弟と。そしてアキラちゃんと共に居られなく日が近付いているということ。
 オレの計画が誰にも悟られぬよう、見えない面を貼り付けて、いつものイタチを演じる。覚悟はとっくに出来た。最後に一度だけアキラちゃんに会いたいと思いつつ、アキラちゃんには全てを見抜かれてしまう気がして、オレは彼女を避けた。そうして会わぬまま、ついに「その時」がやってきた。

* * *

 暗部服を見に纏い、木の葉隠れの里のマークが刻まれた額宛を縛り直した。今宵は満月。皆が寝静まり明かりが消えても、夜に馴染んだこの目では十分なほどよく見える。
 決行の前にもう一度仮面の男に会う約束をしている。そろそろ時間だ。森の中へと降りたときだった。

「待って!イタチ君!」

聞き間違える筈のない声。数日聞いていなかっただけなのに、その声を最後に聞いたのは遠い昔のように思えた。
 黒い髪は月明かりに濡れ、青い瞳は揺れている。姿を見ただけで心臓に熱が集まる。苦しそうな表情を浮かべる彼女がすっと息を吸い、何かを言おうとした。オレは咄嗟に彼女の口を左手で押さえ、右手でその白く細い手刀を落とした。左手の掌に彼女の唇が触れる。反対に、右手には眉間にシワを寄せたくなる鈍い感覚が残った。
 意識を失い、オレの方に倒れ込む彼女を抱き止め、彼女を木に凭れるようにして寝かせオレはその場を離れた。彼女に触れた胸が熱くなる。しかし、これからやろうとしていることを思うとその熱はすぐに消えてしまった。
 密会場所に辿り着くと、仮面の男は腕を組んでそこに居た。

「十秒遅刻だ。」

僅かに乱れた呼吸を整えながら、男を睨み付ける。発した声は自分のもとのは思えぬ程低く響いた。

「いいか。計画通りだ。約束は守れ。」
「お前もな」
「……行くぞ」

そうしてオレたちは散った。
オレはもう一度見えない面を被った。仲間を切ろうとも躊躇わない。涙は流さない。
オレは忍なのだから。


* * *

「ぐぁっ!!」

背後から一突きで仕留める。短い叫び声を聞き終える前に次のターゲットの元へと向かう。大声を出そうとすれば喉をかき切り、その刃で今度は胸を貫く。刀を引き抜き、刃に付いた赤い液体を振り払えば、むせ返るような生臭い匂いが漂う。それを繰り返した。

「もういい。後はオレが殺る。」

仮面の男は、ふんと鼻をならすと後で落ち合おうと言って、その姿をどこかへ消した。
 残るはあと"ふたり"。オレはその場へと向かった。








オレは最後の"ふたり"の背後をとった。いや違う。正面に立つなど出来なかった。
 握る刀が鉛のように重くなるのを感じた。この刀を手離せばどれくらい楽になるのだろう。でもそれは出来ない。これがオレの選んだ道だから。

「そうか…お前は向こうへ付いたか…」

 ふたりは全てを悟っていた。否、こうなることを望んでいた。オレがこのクーデターを止めることを。

「父さん…母さん…。オレは…」
「分かってるわ…イタチ…」

オレの名を呼ぶ母さんの声は、今までで一番優しいものだった。しかし、この声はもう聞くことはできないのだ。この先ずっと。

「…最後に約束しろ…。サスケのことはたのんだぞ」
「分かってる…」

オレは忍だ。心は殺した。それなのに、いつの間にか涙がオレの頬を濡らしていた。体が震え、握った刀がカタカタと音が鳴る。心と体がオレがしようとしていることを拒絶していた。

「恐れるな…それがお前の決めた道だろ…。お前にくらべてみれば我らの痛みは一瞬で終わる…。」

刀を振り上げられずにいるオレに父さんは言った。

「考え方は違っていてもお前を誇りに思う…。」

いいや違う。父さんは、アキラちゃんを通してオレと同じ未来を描いていた。うちは一族ではない彼女が、里の一員としてオレたちを受け入れてくれていたことに希望を見出だしていた。彼女だけでなく、他の里の皆からも受け入れてもらえるのではないかと。クーデター以外でこの状況から抜け出す方法を探し続けていた。だから、あの会合でへまをしたオレを見逃した。そうだろう。父さん。
 もっと早くに気付いていたら。「里の長」と「木の葉のスパイ」としてではなく、もっと早く同じ夢を持った「父」と「息子」として話し合えていたら。こうならなかったのかもしれない。しかし、ここまで来てしまった。引き返すにはもう遅すぎた。
 だから父さんは語らない。オレと同じ未来を描いていたことを。オレの覚悟が揺るがないように。 

「お前は本当に優しい子だ…」

どんなに歯を食いしばっても、涙は次から次へと溢れ出す。涙の止め方など忘れてしまった。

「すまない、イタチ」

声とならない叫びと共にオレは刀を降る下ろした。刀から嫌に伝わる鈍い感触と、鼻をつく血の匂い。涙で滲んだ視界でもはや何も見えなかった。しかし、床に伏す重たい音はいつまで立っても聞こえてこず、かわりに金属が転がる軽い音と扉の開く音がオレの耳に届いた。

「父さん!!母さん!!」

そう叫んだのはサスケだった。サスケにバレないよう涙を振り払い、ゆっくりと目を開けた。

「父さんと母さんはどこにいるんだよ!!」

サスケは声を荒げた。
 オレとサスケの間には床に伏せる冷たくなった父さんと母さんがいる筈なのに、その姿はどこにもない。赤い二つの血溜まりと、母さんへの誕生日の贈り物としてオレとサスケ、そしてアキラちゃんのチャクラを合わせて作った首飾りがあるだけだった。
 聞きたいのはオレの方だった。未だ手には嫌な感覚が残っている。オレが切ったのは事実としてこの手に刻まれている。それなのにどうして……。しかし、動揺しているのを悟られる訳にはいかなかった。

「オレが消した。この瞳術で跡形もなくな。」

血に濡れたその首飾りを拾い上げ、サスケに向かって投げた手裏剣がその腕をかすめた。

「愚かなる弟よ……」

オレは万華鏡写輪眼でサスケに幻術をかけた。幻術から目覚めたサスケに口を挟む間すら与えず、オレを憎むように言葉を並べ、サスケを絶望の中へ叩き落とす。
 握りしめた首飾りの飾りがぶつかり、カチッと短い音を鳴らす。三人で贈った時の母さんの喜ぶ姿がちらついた。母さんが肌身離さずかけていたこの首飾りは、オレたち三人の繋がり。そして、今では母さんの形見となった。

「この首飾りはオレが持つ。そして、オレがお前とアキラを殺した時、完全にオレの物になる。」

サスケが目を見開いた。そして、思ってもいない嘘を吐いた。

「サスケもアキラもオレをうとましく思い憎んでいた。このオレを超えることを望み続けていた。だからこそ生かしてやる。……オレの為に。」

いくつかのヒントを散りばめながら、オレは虚辞を連ね続けた。サスケの瞳が徐々に影を落として行く。

「そしていつかオレと同じ"眼"を持って、オレの前に来い。」

遠くから複数のチャクラの気配を感じた。事態を嗅ぎ付けた暗部だろう。オレはもう行かなくてはならない。
 もう一度幻術をかけたが、倒れる直前サスケは写輪眼を開眼し、拾ったクナイをオレに向かって投げた。予想もせず、そのクナイはオレの額宛をかすめ、クナイにひっかかったそれは、虚しい音を立てて地面へと落ちた。それを拾い上げながら思った。
 弟の成長を心の中で喜びを感じながらも、心を抉られた。オレを映すサスケの瞳は、憎しみのこもったそれに変わっていた。覚悟はしていた。しかし、もう二度と笑い合うことは出来ないのだと実感し、気付かぬ間にオレの瞳から一筋の雫が滑り落ちていた。
 サスケ。次会うときはその瞳にどれだけの憎悪で満たされているのだろう。
 サスケがドサリと倒れ、オレは踵を返した。が、オレの体は固まった。
 それは、ふらふらとおぼつかない足取りでこちらに近付いてくる。

「ごめんね……、イタチ君」

オレが落とした手刀の痛みが残っているのか、頭を片手で押さえており、眉間にはシワが刻まれている。
 彼女の言葉に、やはり彼女は全てを察していたのだと分かった。彼女もまた、オレや父さんと同じ未来を思い描いていたのだ。
 アキラちゃんはずっとオレが話すのを待ってくれていたのに。話してしまえば、彼女を巻き込んでしまう。そう思って話せずにいた。しかし、今なら分かる。彼女ははじめからこの輪の一部で、巻き込まないことははじめから出来なかったのだと。
 青く真っ直ぐな瞳がオレをとらえる。今度会う時は、その瞳は何色に変わっているのだろう。殺意と憎悪がどろどろにまざりあい、オレの心臓を突き刺すのだろうか。
 いつの間に血が滲むほど拳を握りしめていた。彼女の温かい手がそっと拳に振れ、何も言わず爪の食い込んだオレの掌を治した。彼女の熱が、チャクラが指先へから全身へと伝わる。それが胸の奥まで届いた時、指先のそれが離れた。
 いつの間にか重なる掌を見つめていたが、ぱっと顔をあげて彼女の存在を確かめた。

「私、イタチ君のことずっと信じているから。」

彼女は笑って見せた。優しい君のことだ、きっとオレのこの先を思って、心の中で泣いている。それでもオレの為にこの瞬間、苦しくても君は笑ってくれているのだ。

「……ありがとう」

最後に見る君の表情が笑顔でよかった。そう思いながらオレは彼女に幻術をかけた。気を失う彼女が地面に崩れ落ちる前に抱き止める。手刀を落とした時よりも、ぎゅっと力を込めて。しかし、彼女はそれに応えることはない。
 もう時間だ。さようならアキラちゃん。

ーー君の見ている幻術の中のオレは笑っているだろうか。


───────────
▼あとがき▼
ひえー!!!イタチさーん!
イタチさんって推さない理由がないですよね?(つまり推す理由しかない)
うちは事件編はアニメのカカシ暗部編も参考にしています。
とりあえず、うちは事件編は終了です。
次からは主人公落ち込みパートです……。




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