TRUE(書き直す前)-51

「隊長の写輪眼は友から託されたと言ってましたね」

イタチが任務中に珍しく任務と全く関係ない事で話し掛けてきた。隊長とその部下としてオレたちの関係は決して悪くなかったが、特別良いわけでもない。至極普通の部下と上司の関係であり、何の脈絡もなく唐突にこの話題を振られ、正直なところ少し驚いている。何となく"例の件"が関係しているのだと察した。

「その思いと共にな」
「その思いには応えねばなりませんか」
「あぁ。オレはそのつもりでいる」

イタチはあまり抑揚のない落ち着いた声色で言った。ちらりと横目でイタチを見れば、どこか遠くを見つめオレの答えに何かを導き出そうとしている気がした。
 やはりあの件だろう。正直に答えないとは分かっていたが、思い切って聞いてみた。

「うちはシスイの件はオレも知っている。それの何かか」

イタチは少し長めの瞬きをした。闇に溶ける黒い瞳は最早この景色ではない何かを映している。

「いえ、大丈夫です」

半ば答えになっていない。これ以上詮索したところでイタチは何も喋らない。ここら辺で話を切るのが妥当だろう。

「そっか……。まっ、大したことは出来ないが何かあったら言ってくれ」

イタチは、「はい」と短く返事をした。この時オレはイタチの抱える闇に気付けなかった。



* * *

 ある日、三代目火影様にオレひとりが呼び出された。何者かが木の葉の里の結界すり抜け、繰り返し侵入しており、しかもそれはうちは地区の周辺で頻発しているとの事だった。里の安全のため放置するわけにはいかない。そうしてオレは極秘で調査する任を請け負ったのである。
 ガイを誘い、観光を装ってうちは一族の地区へ足を踏み入れた。一歩進む度に鋭い視線がオレたちを刺した。ガイは、いつの間に買った煎餅をうまいうまいと頬張り、全く気付いていなさそうだったが。

「あっ!カカシお兄ちゃん!それにガイさん!」
「おぉ!アキラじゃないか!」

聞きなれた高い声。しかし、その姿はオレが見慣れたものとは少し違う、変化したアキラであった。アカデミーの授業日程は独特であり、忍の任の様に、休日のあるは毎週異なっている。まだ日の高いこの時間にここにいるということはアキラは休日なのだろう。

「オレとカカシはここの観光してるんだ!アキラもどうだ!」

オレに誘われガイが何故アキラを誘うんだ。普通オレの許可がいるでしょーが。と思ったが、ガイはこういう奴だ。気にしたら負けである。
 アキラはというとオレの顔をちらりと見て顔色を窺っている。断る理由もなく、にこりと微笑むとアキラは「観光の案内は任せてください!」と小さな拳でその胸を叩いた。
 そういえばアキラはどうしてここに居たのだろう。もとからこの場所の出入りは自由で、うちは一族の意外の人間もこの場所で交流をしていて賑わっていた。九尾事件以降、うちは一族は根も葉もない噂により里の皆から遠ざけられた。今となっては、最早ここは彼らの領域である。つまり、何か理由がなければここには来ない。

「イタチ君と修行の約束をしてるの」

少し早く来てしまったとアキラは付け足した。胸がチクリと痛むのを無視して、彼女の返答にそうなのかと無理矢理納得した。
 それにしてもアキラはこの場所をよく知っていた。イタチだけではなくサスケとも交流があり、色々な場所を教えてくれたのだという。木の葉の里にありながら、独自の文化を築きあげているような、ここはまるでひとつの別の国のようだ。
 アキラに連れられ、石畳の階段を上がると大きな鳥居が見えてきた。

「ここはなんだ?」
「うちはの氏神様を祀る南賀ノ神社だね」

オレは無宗教だとつまらなさそうにして、煎餅を口に運ぶガイをなだめて、おみくじでも引いていかないかと促した。

「行きましょう!ガイさん!」

パタパタと走るアキラに釣られて走るガイ。ふたりの背を追おうと一歩踏み出したときだった。

「カカシ隊長!どうしてここに……」

振り向くと、黒髪を靡かせるイタチがいた。年の割りに落ち着いた雰囲気がさらに大人びたと感じた。

「ちょっと昔を思い出してね、お前は?」

理由など分かっていなが聞いてしまう。

「オレはここの人間ですよ。よく来ます。それに今日はアキラちゃんと修行の約束をしていたので」

ここが集合場所だったという。自分で聞いておきながら、心の中がモヤモヤと淀んだ。オレは話題を変えた。

「隊長になってからどうだ」
「別に変わりません。同じ様な任務をこなしています」
「そうか」

淡々としたやり取り。暗部は任務の内容を話せないからこれが仕方ないと思いつつ、言葉に冷たさを帯びていたのは気のせいだろうか。

「おいカカシ!大吉だ!大吉が出たぞ!」

いつの間にかおみくじを引いたガイが戻ってきた。ガイは見せびらかすようにオレの前に大吉の文字を突き付けてくる。鬱陶しいが、こいつを止める方法はないから諦めた。
 遅れてアキラが戻ってきた。そうして安堵にも近い笑みを浮かべて笑っていった。

「イタチ君!」

オレに向けられたものではない。例えそれがオレの知る笑顔と同じものであっても。オレを救った笑顔だとしても、その対象が自分でないだけで心がぐちゃぐちゃにかき乱されている気分になった。このどす黒い感情を彼女に向けるのは間違っている。しかし一度溢れた感情を止めることは難しく、オレにはどうにも出来なかった。

「観光も一通り終わったことだし、帰るかガイ。じゃあなアキラ、イタチ」

返事も聞かずに踵を返す。「またねー!」と言うアキラに返事を返す代わりに軽く片腕を上げ、振り返ることなくその場を去った。どす黒い感情を含んだまま、彼女にどんな顔をしていいのか分からなかった。
 三代目火影様に報告をし、この件はもういいとオレはこの任を解かれ、夕焼けに染まる里へと足を踏み出す。今日の任務はもうない。帰路へと着いて暫くした時だった。

「カカシお兄ちゃーん!」

何にも興味を持たず、目に映る物全て否定するかのようにぼんやりとしていた視界が途端にクリアになる。髪を靡かせ、手を振りながらオレへと駆けてきたのはアキラだった。
 昼間に見たそれと同じようで同じではないその笑顔に、ふわりと穏やかな感情が漂う。自分の中で渦巻いていた黒い何かは何処かへ消えていた。
 オレの隣を歩くアキラ。彼女の履く高下駄はカランカランと可愛らしい音を奏でている。その音に耳を傾けながらオレたちは里の中を歩いた。
 普通なら、イタチとの修行はどうしたのかとか、どんな修行をしたのかとか、最近のアカデミーではどんなことをしているのかとか、それとなく最近のうちは一族の事について聞くべきなのかもしれない。
 それでもオレたちは特別何を話すこともなく、何を目的に歩くわけでもなく、お互いが隣に居ることを感じながらただぼんやりと里の中を歩くだけ。
 今日に限ったことではない。こうして偶然会った時には決まってこうだった。
 歩きながら、時々存在を確認するかの様に横目でちらりとアキラを見る。暫くするとアキラの視線が返ってくる。彼女がふわりと微笑みオレもそれに応える。その繰り返し。それだけでもオレの心を満たすには十分だった。
 そうして日も暮れた頃、いつの間にかアキラを家の前にいて、またねと言葉を交わして自身も家へと帰る。
 アキラといると何故だかとても心が落ち着く。安心する。荒んだ心をもとに戻してくれる。
 オレにとってアキラは何なのだろう。と。オレが知るどんな言葉にも当てはまらない。

ーー君ならこの答えを知っているだろうか。

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▼あとがき▼
暗いねー!でも仕方ない!
主人公パートは暫くありません。あと、2、3話はこんな感じです。
次はまたまたイタチ君パートです。

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