『火影になればいいのに』
呟かれた言葉に動揺し、俺の投げた手裏剣は的から大きく外れ、虚しい音を立てて木に刺さった。
そんな俺を気にも止めず、サスケとアキラちゃんはきゃっきゃと話を膨らませていた。
楽しそうに話す二人とは正反対に、俺は黒い感情がじわじわと滲み始めた。
だって、うちはは…。
俺はスパイだ。暗部に属し、今ではうちはと木の葉の情報、どちらも持つ者になった。
そして俺はどちらに着くのかという選択を迫られている。
普通なら何がどうであろうとうちはを取るべきなのだろう。
でも俺は揺れている。どちらにするべきなのか。
俺は幼い頃に戦場を見た。人が呻く声。鼻を刺すような嫌なにおい。誰のものなのかも分からない赤い液体。
思い出すだけで吐き気が俺を襲う。
もうあんなものはみたくない。
そしてこの二人だけには絶対に見せたくない。
クーデターが起きれば必ず死者が出る。
里の中の内乱だ。知らない人だけでなく、友人や大切な人も命を失うだろう。
そんなことが起きて良いのだろうか。
いつまでもなにも言わない俺にふたりは不思議そうな視線を向けた。
「それは父さんの夢だ」
何かを悟られないように、俺は呆れるような笑みを作りながら言った。
はっきり俺が火影になる気はないと告げると、ふたりとも残念そうな顔をし、俺の心に淀みを作った。
それに気付いてしまえば更に心の中は濁り、表情を作れるような状態ではなくなっていった。
「この話は終わりだ。
日も暮れてきたし、そろそろ解散にしよう」
歪みそうになる口元を無理やり上に持ち上げ、俺はアキラちゃんと別れた。
まだ小さいサスケと手を繋ぎ、朱に染まる帰路を辿る。サスケの話を聞きながら俺は違うことを考えていた。
決めかけていた決断はあの一言で崩れかけてしまった。
ーー俺は何を守るべきなのか、何を守りたいのか
「ねぇ兄さん?父さんは火影になれるのかな?」
真っ直ぐな瞳が俺を映した。
咄嗟に返してしまった言葉が嘘になるか本当になるかは未来の俺の決断に託された。
ーー「あぁ。きっとな。」
この時どう答えるべきだったのか。
そしてその答えを俺はまだ導き出せずにいる。ーー
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