目を開けると真っ白な天井が。
この世界に来てパパに会った日の事を思い出した。
どうしよう。なぜここにいるのか分からない。何があったのか全く思い出せない。
でも最後に“ごめんね”とクシナさんの声が聞こえたのはしっかり覚えている。
身体を動かすと首に鈍痛が走った。
それがきっかけになったのか、きちんと働いていなかった感覚神経が機能し始めた。
右手だけ、とても温かかった。
首は動かすと痛いから、目だけ動かして右手を見ると、私の手を両手で包んだクシナさんが目に映った。
なんだか様子がおかしい。
俯いてじっとしたまま動かないのだ。
それにクシナさんをみてもっと状況が分からなくなった。
私本当に何してたんだろう。
『くしなさん・・・?』
寝起きの声は掠れていて自分でも聞き取りづらいものだった。
でもちゃんとクシナさんの耳に届いたみたいで、ピクッと身体を揺らした。
それから下を向いていた顔を勢いよくをあげた。
「アキラちゃん・・・!」
クシナさんの目の下にはうっすらと涙の跡が見えた。
ダメだ。本当に何も思い出せない。
私の名前を読んだときは慌てた顔をしていたけれど、それはほんの一瞬で。今はすごい剣幕に変わっていた。
「なんで、なんで怪我の事を黙ってたの!」
・・・・・・思い出した。
私は修行の途中で倒れたんだ。それで・・・
クシナさんは本気で怒っていて私は黙りこんでしまった。今クシナさんに何を言ってもダメだと思って・・・。
私の言い分はきっと、私の言い訳にしかならないから・・・。
無意識の間にクシナさんから目を切り握り締めれた片方の拳を見つめた。
「本当に、ごめ、ね・・・。
気づいてあげられなくて、ごめんね・・・・・・。」
いいにおいがすると思ったら、クシナさんに抱き締められていた。
肩は小刻みに震え、声は聞こえないけれど泣いていた。
それからというもの、ことあるごとに“怪我してない?”と聞かれ、かすり傷だから大丈夫だと思って“してないです”と答えた。
しかしそれがバレてしまい、クシナさんから“けがしてるじゃない!”とまたお叱りを受けた。
それ以降私は信用を失いクシナさんに身体検査されることになった。あと、お風呂も一緒に入るようになった。服で隠れてるところに怪我してないか見るためだと思う。
正直本当に恥ずかしい。いやらしい目で見られてる訳じゃないんだけど本当に・・・・・・
やっぱり大人の女性といると自分のまな板が悲しくなる。
まだ子供だから仕方ないんだけど・・・・・・。ね。
痛みが残っていたのは首だけで(クシナさんどんだけ手刀強く落としたんだ・・・!)、他の傷はほとんど治っていた。これは医療忍術のおかげかな?
私はその日に退院し、次の日から再び修行か再開された。
「読みが甘いっ!」
『くっ・・・!』
「全然集中してないってばね!」
クシナさんが私を一喝した。これで今日何度目だろうか。
集中できないのはここ最近のこと。
でもその理由はもう分かってる。
「(でも集中できないのは仕方ない、か・・・。)」
パパが帰ってこないのだ。
今までも任務が長引いて、期限通り帰ってこないのはまれにあったけれど、今回は今までにない遅さである。
パパは死なない。私が知る未来は。
でも少なからず私が来たことにより多少のズレはどこかで生じるはず。
だからどうしても不安になってしまうんだ。
「今日はここまで」
『・・・!?』
パンっと手を叩き、クシナさんは影分身を消した。
私が集中しなさすぎて呆れちゃったのかな・・・。
折角修行を見てもらっているのに失礼なことをしてしまった。
自分が馬鹿で阿呆で、噛み締めた唇を隠すために俯いた。
クシナさんはサクサクという軽い音を立て此方へ近付いてきたから、身体にぎゅっと力をいれた。
怒られるんじゃないかと思ったから。
目の前で止まったが何も言ってこず、しゃがんで私の顔を覗き込んだ。
目をつり上げて怒ってると思っていた顔は逆にふんわりとしていて戸惑った。
「心配なのよね。」
実は私も心配なの。と、クシナさんは苦笑いをこぼした。
どうやらクシナさんには私のことなど全てお見通しだったようだ。
こくんと頷くと頭を撫でられ、私の手を握るとすくっと立ち上がった。
「火影様のところへ行ってみましょ?
何か連絡が来ているかもしれないから」
ねっ?という問いかけに、私はまた首を縦に振った。
クシナさんが手を握ってくれたおかげで、ちょっとだけ不安が和らいだ。
私たちはそのまま手を繋いで、おじいちゃんの所に向かった。
しかし妙な胸騒ぎが、火影邸に近付くたび強くなっていった。
火影室の近くまでいくと部屋の中に気配が3つあるのに気付いた。ひとつはおじいちゃんで、もう2つは分からない。
でもチャクラを感じるから忍で間違いないだろう。
先客がいるようだ。
忍がおじいちゃんにする話はだいたい里に関わる事で、勝手に聞いていいものじゃない。
しかしここにいると中から微妙に話し声が聞こえてしまう。
一旦ここから少し離れようと体の向きを変えたとき、中からある単語が聞こえて一歩前に出そうとした足が動かなくなった。
どうかした?というクシナさんの問いに気付かないほど、動揺していた。
---「しかし自来也が雨にとどまるとはのぅ・・・。」
パパが雨に・・・?
「アキラちゃん?どうし、どこ行くのアキラちゃん!」
繋いでいたクシナさんの手を払い、私は走り出した。あんの門へと。
雨。きっと雨の国のこと。
そしてそれは、長門たちに会ったということ。
私なりにどうしたらパパを助けられるか自分で考えた。
まずひとつはパパが長門たちと会うのを回避すること。出会わなければ長門たちは忍術を覚えることはないはず。だから、パパがあんなことにはならないはず。
どこに行くか毎回聞いておくべきだった・・・!
しかしそれは過ぎた話。次の対策を考えなきゃいけない。
たしかパパが忍術を教えるまで少し時間があった。それまでに私がパパを連れて帰ればなんとかなるかもしれない。
夢中で走った。
「待って!!!」
『っ!!』
門が見えてきた所でぐいっと腕を捕まれた。
見なくても分かる。この手はクシナさんだ。
『はなしてくださいっ・・・!
わたしはぱぱのところにいかなきゃいけないんです・・・!』
「アキラちゃん!」
腕を捕まれてもなお無理矢理前に進もうと抵抗していたが、叫ぶように名前を呼ばれ、それをやめた。
するとクシナさんは私の肩を掴み、向き合うように回転させた。
クシナはアキラを追う前に影分身をだし、火影に急いで自来也のことについて聞きき、その後影分身を消し、アキラがこうなる理由は分かっていた。
「自来也先生はきっと大丈夫だから!
だから・・・待ちましょう・・・・・・?」
『・・・・・・はい』
クシナさんは真剣な瞳をしていて、私は頷いてしまった。
私はその日早く寝た。
それは今夜やることがあるから。
クシナさんが眠ったのを確認し、息を殺して布団から出た。
あの時は頷いてしまったけれど、やっぱりじっとなんかしてられなくて、夜抜け出すことを決めた。
早く寝たのは仮眠をとるためだ。
ほとんど何も入っていない鞄を肩にかけ、月明かりの差し込む窓へ、一歩一歩音をたてないように気を付けながら歩いた。
窓の鍵を開け、窓を開けると柔らかな風が吹き込み、私の髪を遊んだ。
窓を飛び越えようと、窓枠に手をかけたときだった。
「アキラ・・・・ちゃん」
気付かれた!?
そう思って勢いよく振り返った。
しかしクシナさんの目は目蓋で見えず、寝言のようだった。
ホッとする反面、裏切ったような罪悪感が沸き上がった。
でもパパを連れて来るだけだから。すぐ帰ってくるから・・・・・・。
ごめんなさい。
でも、許してください。
パパにもらった首飾りが月明かりで青く光った。
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