TRUE(書き直す前)-03


次の日には退院し、私達は病院を後にした。
そしてあっという間に3ヶ月という月日が過ぎていた。



情報収集は何日もかけて国を跨ぐために歩くこともあれば、数日間同じ町にいて時間をかけて情報収集するようなこともある。
まぁ大体情報収集は人がいる所でしかできないから、国についたら何日か滞在する。そんなかんじだ。


そして私は自来也様と共にいて、大変な時期にトリップしてきてしまったと分かった。

どうやら私は第三次忍会大戦中に来てしまったらしい。

自来也様は、各国の様子を知るべくこうして情報収集しているとか。
危険な所に行くときは、必ず私を宿に置いていく。
大戦中だけど、どこもかしこも戦争まみれな訳ではなく、のんびりとした生活を送っている所もある。
そんなときは私も一緒に連れられて情報収集をする。

私なんかいて邪魔じゃないのかな・・・。と何度も思った。



自来也様と一緒に旅?情報収集?を始めたばかりの頃は、すぐに疲れて1日もまともに歩け なかったし、靴擦れや豆もできて本当に大変だった。
痛みを隠そうとしても隠しきれず、“おぶるか?”と聞かれてしまった。
正直そうしたいが、我慢して私は毎回それを断った。
自来也様におぶってもらうとか本当に夢なんだけどさ!


迷惑かけまいと努めているが、結局最後には迷惑をかけてしまう。
靴擦れまめがつぶれた日なんて、消毒して薬も塗って、ガーゼもつけて貰っちゃったし・・・


でもそんな日は今はもうない。
疲れるけれど、マメもできなくなったし!

んーー!!やっと修行できる!!



そう、今まで修行はしなかった。正しく言えば出来なかったのだけれど・・・







----------



「これからお前に修行をつける」

『しゅぎょうですか?』

「あぁ」




本当は自分から頼もうと思ってたけど、その必要はなくなったみたいだ。

話を聞くと、危険な目に会わせる気はないけどそれでも危険な目に会うかもしれない。そんな時、守ってあげられないかもしれない。だから自分の身を守れるように鍛え上げる。と。
まぁ時代も時代だし・・・。
それと、自分の居場所を見つけてどこがて暮らすことになって、力があって悪いことはないだろうということだそう。


ちょっと、悲しい。

“お前の居場所が見つかったら”と言われたときに、自分はやっぱり迷惑なんだなって思った。

私はずっと居たいのに・・・。




------------






というわけで、修行をすることになってはいたのだが、例のマメやら靴擦れでそれどころではなく・・・
今日まで引き伸ばされていたと言うわけだ。




「お主のチャクラの量はかなり多い。」

『え!?そうなんですか、?!』

「忍術は・・・後まわしじゃ。
量が多すぎてうまくコントロール出来んかもしれんからな」




そ、そんなに多いんだ!
でもなんでダメなんだろう?コントロール出来ないとそんなに良くないことが起きちゃうの・・・?




「自分のチャクラにからだが耐えられなくなるかもしれんからな」

『・・・・・』




そんなに多いの!?
チャクラの量が多すぎるのも考えものだなぁ。

ということは体術?筋トレ?体力作り?




「お主にはまず体術を教える。」




わー!やったっ!
筋トレとか体力作りとか、辛いもん…。
でも、やらなくていいのかな・・・?




「今から筋トレしてもあまり意味がないからのぅ」




あ、でもやっぱ必要なのか。
はぁぁ・・・。イヤだなぁ。




「でもまぁ足腰はそこそこついてきたじゃろう!」

『・・・そう、ですね』




さっきまでは真剣な顔をしていたけど、にかっと急に笑う自来也様にきゅんとしてしまった。
可愛くてです。

あぶない!マジでにやけるところだった!!
自来也様の前で気を抜いちゃいけないな!




「じゃあまず移動するぞ」

『はいっ!!』




こうして私たちの修行は始まった。




情報収集の後で、やるのは大変だけど。


強くなるんだっ!!守りたいものを守るために。




* * *
「はぐれるなよ」

『は、はい!』




そして毎度のように自来也様の着物の端をちょこんと掴んだ。

今は国につき、左右にたくさんのお店が並ぶ大通りを歩いている。

ちなみに今日来ている国は戦争にあまり関わってないみたいだ。
でも、自来也様がここに来たってことは何かあるんだろうけど・・・。


道はかなりの幅があるが、人が多すぎてかなりの混雑をしていた。

こんなにたくさん人がいない時はしないけど、今みたいにぐれてしまいそうなほどだとこうして、はぐれないように着物の端を掴ませてもらっている。


歩くスピードも合わせてくれて、毎日助かっている。
たぶん自来也様がいつも歩くスピードはこの三倍くらいなんだろうなぁ。
だって、歩幅が3倍違うんだもん。


でも私はこうして大きな背中を眺める時間がたまらなく好きだ。
唯一甘えられるのがこの瞬間だけだから。


大好きな背中だけをみて自来也様の後ろを歩いた。


そんな時鋭い光が私の目を刺した。

なに、眩しい!!
反射的にその光の軌道をたどってしまった。
その先には


水晶で作られた様々な装飾品が綺麗に並べてある一件のお店があった。

店頭にはたくさんの商品が並んでいたけど、反射して光を私の目に運んできたものはすぐに分かった。

それは、白く透き通った大きな丸い形をした水晶の首飾り。


綺麗で思わす見とれてしまった。




『きれい・・・』




無意識に出ていた言葉に。そして足を止めていることに私は気づかなかった。





「・・・・・・、アキラどうかしたか?」




遥か高くから降ってきた声に驚いて、ビクンッと体が跳ねた。

いけない!!
よそ見しないって決めてたのにっ!

首飾りから目を離し、自来也様の方を向いて顔を横に降った。




『ごめんなさい・・・。なんでもないです・・・』

「・・・・・・そうか。
では行くぞ。」




そう言って自来也様はからだを進行方向へ向けた。
私は最後にもう一度だけあの首飾りをちらりと見てその場を後にした。


欲しかったなんて気持ちは心の奥にしまった。






* * *





「うまいのぅ!やっぱりここの団子は最高だのォ!
どうだアキラ!」

『はい!とってもおいしいです!』




この国には何度か来たことがあるらしく、その度この団子屋に来ているそうだ。
自来也様と同じくらいの年齢の若い女性の店員さんと仲良く話す姿がそれを証明していた。

疲れてると勘違いされて気を使わせたわけじゃないみたい。
安心して熱いお茶を飲んだ後にふーっと息を吐いた。


お団子はみたらし団子と、ゴマ団子と、回りにあんこが着いている草団子。
美味しくてパクパク食べていたらもう私の分のお団子はお皿からきれいになくなっていた。

んー。どれも美味しいけど一番好きなのはみたらし団子かな!
あの甘さの絶妙さはなんとも言えなかった。


ちらっと自来也様を見ると、あのみたらし団子を食べようと、大きな口を開けていた。

あぁ、いいなぁ。




「お?」

『!?』




やばいっ!気付かれちゃったかな!?
なに私は食い意地張ってるんだ!

自分を落ち着けるためにお茶を飲もうと口を開いた。

が、苦さはやってこず、逆に甘じょっぱい風味が口内に広がった。




「それはお主にやる!」




口に突っ込まれたのは自来也様が食べようとしていたあのみたらし団子だった。




「わしゃちょーっといいおなごを見つけたんでな。
ワシが帰ってくるまでそこで待っとれ!」

『!?』




私が何を言う暇も無く、自来也様は人混みのなかに消えていった。

いっちゃった・・・。

それにしてもあの人混みの中から美女を見つけるなんて・・・、流石自来也様だ。


団子を食べるか迷ったが、一度私の口に入ったものなんて食べたくないだろう。
うん、いや、誰のでも嫌だな。

食べちゃお。


口に加えたままの団子の串を持った。




---(いつ帰ってくるか分からないしね)




長くなることを予想し、味わいながらゆっくり食べた。






* * * 




十分時間をかけて食べたつもりだったが、自来也様は中々帰ってこない。



---もしかしたら私のこと置いてっちゃったのかな・・・。



いつかテレビでやっていたドラマを思い出した。
題名は忘れちゃったけど・・・。

ある家族が少し遠くまで旅行に来ていて、母親が「戻ってくるからここで待っているのよ。ついてきちゃダメよ」と子供に言い聞かせ、まだ自分の住所も言えない子供を置いて家に帰ってしまう。というシーンがあった。
子供は言いつけを守ったがいつになっても戻ってくることはなく、ある老婆に拾われ、親をさがしにいくというストーリーだった。


なんだ、これ。
まさに同じシチュエーションじゃんかっ!

本当に私のこと・・・

いやいや!自来也様はそんな人じゃないっ!


余計な考えを頭から消すため、ぶんぶんと頭を振った。




「お父さん、遅いわね。」

『・・・・・・?』




長椅子に座る私の横に、綺麗に着物を来た女性が座った。
誰に話しかけてるんだろう。と思った。

少なくとも私じゃない。

でも周りを見回しても誰もいない。


・・・・・・私?


お父さんなんていないのに。




「でも大丈夫よ?あの人は絶対帰ってくるから」




ニコッと笑った女性は、よくみると来店時、自来也様と親しげに言葉を交わしていた店員さんだった。な、なんて美人なんだっ…!

キチッと着物を着こなし、長い後ろ髪をお団子にまとめあげ簪を刺した彼女は私に優しく笑いかけていた。




「はいっ!これでも食べて元気だして!
ねっ?」




キラキラと輝く琥珀色の団子を二つ並べた白いお皿を私の膝に置いた。

ちょっと。状況が読めない。




「あの人にもちゃんとした女の人が出来たのね…」




自来也様が消えていった人混みを見つめ、独り言のように言った。




「ねぇ?あなたのお母さんって、どんなかたなの?」




その人は切なそうに目を細めて私をみた。
“きっとあなたみたいに綺麗な人なのよね”と続けた。
ちょっと待って。この私が“綺麗”だとか突っ込むところはあるけど、この人は勘違いをしている。




『あの・・・・、わたし、じらいやさまのこどもじゃない、です。』




薄く開かれていた目は大きく開かれた。




『あの、わたしその、こじで・・・・・・
じらいやさまにひろわれて?それで・・・』




このあとは何と言ったら良いのか分からなくて黙った。
弟子って言っとけば良かったのかな。
あぁ、それにしてもこの空気気まずい。




「ごめんなさいっ・・・!無神経なこと聞いてしまって・・・」

『だいじょうぶですよ。』




ぱっと見てその人の過去がわかる人なんていない。私が言葉を詰まらせたからこの女性は不味いことをしてしまったという顔をしてるけど、私の心は別に感傷的になっているわけじゃない。

むしろこうして自来也様に会えたことが幸せだっ!!!

あー!この空気どうにかなんないかな!もう!
私は耐えきれず口を開いた。




『あの、おだんごおかえしします』

「え?」

『わたしはおかねがなくてはらえないので。』




スッと女性の膝に置いた。
今食べて自来也様に払って貰うのはあれだ。ただ私を慰めるために持ってきてくれたんだと思うけど、これは受け取れない。

でもそのお皿は再び私の膝の上に置かれた。




「これは私からのお詫び!
さっきは言いづらいこと聞いちゃったから・・・」

『で、でも!』

「いいのよ!
それに私にとってはいいこと聞けちゃったからね」




頭をそっと撫でるとその女性は店の奥へと消えていった。
どこかスッキリした表情をうかべ、穏やかに微笑んでいた彼女の表情が私の“勘”を“確信”に変えた。


あの人はたぶん自来也様が好きだ。

まったく自来也様も隅に置けないなぁー。


私はまた貰った団子を青い空を仰ぎ見ながら頬張った。





(自来也様を誰にも渡したくないという独占欲が湧いてしまったのは誰にも言えない)





* * *




「アキラー!」


あ、自来也様。
ガハハと笑いながら近付いて来た。




「悪いのォ」




私の目の前に立つと頭をガシガシ撫でてきた。
な、なに!?いきなりなに!?
何でこんなテンションになってるの自来也様!




「やっと帰ってきたのね!どれだけこの子を待たせたと思ってるの!」




私の後ろにはあの店員さんが立っていた。


いつの間に…



軽いお説教に軽く耳を傾けつつ、弱気な自来也様の反応を楽しんでいた。

口を尖らせ、拗ねている表情なんて滅多に拝めない。
今のうちに見とかないと(笑)




---「あぁ!もう団子買うから許せ!」




とお説教から逃げるために言葉を放った時は可笑しくて笑ってしまった。
自来也様がむっとした顔で見てきたから、はっとして慌てて口を押さえたけど。

まずった。これはまずった。

椅子から飛び降りて店員さんの後ろに隠れた。隠れる場所がここくらいしか無かったから。
“アキラテメェ!”と聞こえたが気にしない事にした。私が笑うのもしょうがないってお姉さんが庇ってくれたから。

あ、お姉さんってゆーのは、あのお団子くれた美人の店員さん!






--------




長かったお説教も終わり、私達は甘いにおいを漂わせながら宿へと向かった。


結局20本みたらし団子を買った。


うーん。きっと今日の夜ご飯はみたらし団子だ。

私は別にいいんだけどね。美味しいから。




宿につく頃には日もくれ、星たちが輝き始めていた。




お互いお風呂に入ってさっぱりしたあとに夜ご飯にしようと言われ、大浴場へ行った。

普通ならまだ母親がついていなければいけない4歳児が一人で入浴をしている姿は見慣れないのか、チラチラと視線を感じた。
みせもんじゃないんだよ!


居心地が悪くてあまり人のいない露天風呂にしっかり浸かってからでた。



夜ご飯はみたらし団子だった。

自来也様は、お酒やら摘まみやら、他にも何か食べてるけど。

私はそれよりもお団子の方が食べたかったからそれだけを食べた。


んーー!幸せっ!!





眠くなって二つ敷いてある右側の布団に潜り込んだ。

“おやすみなさい”と呟いた。



ニコッと微笑む自来也様を見てから目を閉じた。



今日あったことを思い出しながら、私は深い眠りへと落ちていった。





(あの首飾り、欲しかったなぁ・・・)

(お父さん・・・、か。)





* * *
今日は国を出るらしい。

朝起きたらそう言われた。
昨日いってくれればよかったのに。


歩くのは大変だけと、まだ知らない新しい所へ行ったり、知らないものを見たりするのはとても楽しいから好きだ。


今日はどんな発見があるんだろう!


身支度をしながらわくわくしていた。




「アキラ、準備できたか?」

『はい!だいじょうぶです!』




自来也様は軽く部屋を見回して、忘れ物がないか確認していた。
私は手ぶらだから確認するものは何もない。




「行くか。」




くるりと反転し、私に背を向けた自来也様の後を追った。
宿の外に出ると、容赦なく日差しが目を刺した。

昨日の夜には納まっていた人の流れは、再び活気が増していた。


自来也様がチラッと私をみた。

これは合図だ。“掴め”という。
私は自来也様の服の端を掴んだ。



が、今回だけは違った。

自来也様は私と向き合いしゃがみこんだ。


いつもは遠くにある顔が自分と同じ目線にあるのは新鮮で、普段こんなに向き合うことはないから少し恥ずかしさを感じだ。

一体なんだろう。

こんなことは初めてで自来也様が何をしようとしているのか全く分からない。




「なぁ、アキラ」

『・・・なんですか?』

「その、昨日はすまんかったな」




きっと私を長く待たせたことだろう。
別に私は付き添い?というか厄介だから、自来也様は別に気にしなくていいことなのに。




「それでな、侘びと言ってはなんだがこれをもらってくれんか?」




そう言って、自来也様は懐へと手を伸ばした。
キラッと光るそれを見た瞬間、胸がドキリと音を立て、息が止まった。




『それは・・・・・』




自来也様の手には、昨日欲しくてたまらなくて必死に忘れようとしていたあの首飾りだった。




「ん?どうかしたか?」




わざととぼけたような顔をする自来也様を見て泣きそうになった。


その時の私の頭は信じられないくらい早く回転した。



私と自来也様は基本離れることはない。私がついて回っているから。
危険だからと言って、私と一緒にいないこともあるけど、昨日、今日ではそれはなかった。
私が一緒にいる間は自来也様は何も買ってない。
だから、これを買ったのは私と離れた時ってことになる。
そう、昨日あのお団子屋さんで素敵な女性がいたからと言って人混みに姿を消したあの瞬間しかなかった。

遅くなった理由って、それを買いに行ってたからってこと・・・・?

私に気づかれないような嘘を言って、あたかも偶然それを買ったかのようにして



優しすぎるよ、自来也様・・・・・




「これを受け取ってくれたら話があるんじゃ
相談に乗ってはくれんか?」

『・・・・・』

「それでチャラってのはどうだ?」




自来也様はニカっと歯を見せて笑った。





* * *



安心するように笑みを浮かべる自来也様の優しさで涙が落ちそうになったから、それが落ちる前にぐいっと自分の服で強めに拭いた。




『それは、そんなにじゅうようなそうだんなんですか?』




聞き方が生意気だったな、と言った後に思った。
私が言いたいのは、その相談が、その首飾りと同じくらいの価値があるかどうかということ。
どの女の人がいいとか、どのお店のご飯が美味しそうとか、そういう相談だったらそれは受け取れない。
でも結局どう言っても生意気だ。
自来也様に嫌な思いをさせてしまったかもしれない・・・・・・。




「あぁ、アキラにしかできぬ相談だ」




自来也様の瞳は力強いものだったけれど、優しさもある目だった。
でもどんな相談かわからない。
真面目な顔でズレたことを言うのが自来也様だ。
首飾りを受け取ったら、とそう言われたけど、先に相談を聞かなきゃ気がすまない。

私は強気な態度で、自来也様有無を言わせないように強めに言った。




『・・・・・さきにそうだんききます』




自来也様は少し顔を下に向け、ふぅと息を吐いた。
それから再び私へと顔を向けた。

そこには真剣な表情で、私を見る自来也様がいた。





「ワシの娘にならんか?」




この瞬間、涙が出た。

いつもは我慢できた。じわりじわりと出てきたそれも、ギリギリのところで抑えた。

でも今はそれができなくなるほど涙が溢れてくる。止めようとしても止まらないんだ。


本当はずっと、怖かった。
自来也様は私の事をよく面倒を見てくれた。でも、いつかは離れなくてはいけない。

自来也様は一緒に居てくれる。

でも結局自分は一人だ。

私を知る者など誰一人いない世界。
頼れる人は誰もいない。

赤の他人の私を、自来也様はいつかは捨てるかもしかれない。
嫌われないようにいつの間にか必死になっていた。


ずっと、強い繋がりを。確かな繋がりがほしかった。



何も言えず泣き続けた。

するとふわりと優しい温もりが私を包んだ。
目の前には自来也様の胸がある。

私、自来也様に抱き締められてるんだ。

その腕のなかはとても居心地が良くて、温かくて。安心した。

私はそれを離さないように自来也様にすがり付いた。


自来也様のいう相談の答えを伝えたい。でも今さら何も言い出せないこの状況。
言葉ではなくて行動で伝えることにした。

抱き締め返すことはやってもいいのか分からなくて躊躇ってしまった。

変わりに自分の思いが伝わるように、自来也様服をぎゅうっと強く握り、1歩進み、微妙にある自分と自来也様の間にある距離を無くした。


そうすれば自来也様には伝わったのか、さっきよりも強く抱き締めてくれた。

涙は今も止まらなくて、すぐ目の前にある自来也様の胸に額を押し付けて泣き続けた。



自来也様は私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。

するとゆっくり身体を離されて、再び顔を合わせた。




「アキラ、これを受け取ってくれるか?」




キラキラと光を反射し続けるその首飾りを、自来也様はもう一度私に見せた。

言葉で言うのは恥ずかしくて、こくんと小さく頷くと、自来也様は目を細めて微笑んで、私の首にそれを掛けてくれた。



それはまるで指輪を渡すプロポーズ現場みたいだった。


そしてそれからキラキラの笑顔で言われた。




---「これからずっと一緒だ」





また一筋の涙が私の頬を滑り落ちた。


(どうやら自来也様は私を泣かせるのが得意なようです)


* * *





鬱陶しいほどの人の量でいつもは不快にしか感じないそれを、今は全く感じないほど気分がいい。


今までは真後ろを歩いていたアキラは、ワシの真横を歩いている。

左手でワシの服の布を掴み、右手には昨日買った首飾りを嬉しそうにコロコロと触っていた。
真っ直ぐな横線を引っ張ったように閉じられた唇は、緩い弧を描いていてそれを見ただけで自分の頬も緩むのが分かった。





アキラと共に過ごすようになって数ヶ月。
自分でもこんなになる理由は分からないが、とにかくアキラに執着していた。
ただこいつに興味があっただけだったのに。


アキラは絶対に甘えてこない。
マメが潰れ、靴擦れで流血し、それを見かねたワシがおぶるか?と聞いても必ず断られた。

初めだけだろうと思っていたが、それは何日たっても変わらなかった。

辛いのがバレないように必死に耐えるその姿は、勇ましいとは思えず、逆に辛く感じた。

宿では、ワシを気づかって先に風呂に入ってくださいと譲らず、自分からは絶対に入らない。


ものをねだるなんてことはもっと無かった。



もっと自分に甘えてほしい。この感情が沸き立つ理由が分からなかった。そしてこの感情が何なのかも、30を過ぎているというのに分からなかった。

それが分かったのはある活気のある商店街を歩いている時だった。




「ちょっとそこのお父さん!娘さんのためにこら買ってかないかい?」


「かわいい娘さんだね!今なら1本まけとくよ!」


「お?かーちゃん抜きでお使いかい?いい魚入ってるよー!」





ことごとく家族だと間違われた。

斜め後ろを歩くアキラを横目で見るが全くの無反応。
忙しそうに小さな足を動かして、ぎゅっと握りしめられた着物をみて、周りの音や風景を見れるほどの余裕がないのが分かった。

家族扱いされているのに全く気づいていないようだった。


家族、か。


ぱっと頭に浮かんだ映像。

それはあまりにもリアルだった。


我に返ると、すぐそこにあったのは肩を並べて歩く親子の姿。その手はしっかりと繋がれ、笑顔で顔を見合わせている。

その姿がさっき脳内に映し出されたものとダブった。




---あぁ、そうか。そうだったのか。




やっとこの感情の名前が分かった。




---ワシはいつの間にかアキラに愛情を抱いていたのか。




その日からワシは、アキラに笑っていてほしいと思うようになったんだ。





* * *




アキラと過ごして3ヶ月が経過したある日、何時かのあの、感情の謎が解けたときの事を思い出させるような人混みの中を歩いていた。


天気は素晴らしく、雲はひとつもない。
でも太陽の光は容赦なく、何もしなくても額に汗が滲んだ。


アキラが自分の影に入り、陽に当たらないようにしているのだが、今日は一段と日差しが強いから、いつも以上に気を付けながら歩いた。

暑くてたまらん!と愚痴を溢そうとしたが、立ち止まった後ろの存在が気になり同じように足を止めた。
初めての事で驚いた。
今までそんなことはしなかったから。
ワシは黙ってアキラの姿を見つめた。
なにか気になるものでもあったのだろうか。




『きれい・・・』




小さく呟かれたこの言葉を聞き、アキラの視線の先をたどった。

その先には大きな水晶で作られた首飾り。

それをアキラは惚れるようにうっとりした目で見ていた。
初めてあれがほしいと、そうねだられるかもしれないと思い、心臓が跳ねた。




「・・・・・・、アキラどうかしたか?」




知っているのに訪ねた。
言ってから聞き方を間違えたかもしれないと、後悔した。
“あれがほしいのか”と、ストレートに聞くべきだった。




『すいません』




しかし返って来てた言葉は期待とは全く違うのもで、熱を持った心臓は急激に冷めてしまった。

追求してもアキラは絶対に口を割らないのを知っているから、ワシはそれ以上聞くことをやめた。




「・・・・・・そうか。
では行くぞ。」




そう言って再び歩き出そうとアキラ背を向けた。

名残惜しそうにそれを見つめる切な気な瞳。

気付いたときには血が滲むほど唇を噛み締めていた。





歩いているうちに思い付いたある考え。ワシはそれを実行すべく毎度立ち寄る甘味処へと足を運んだ。

出され団子にそわそわしているアキラが余計なことを考えているはすぐに分かった。

暫くすると小さな口に団子を頬張ると、キラッと大きな青い目が光った。

どうやら気に入ったようだ。


みたらし団子が特に気に入ったようで、ワシがそれを食べようとしたときに視線を感じた。

ワシはそれをアキラの口に突っ込み、“いいおなごを見つけた”という適当な台詞を吐き捨て、バレないように鼻の下を伸ばしながら人混みに紛れた。

瞬身を使えば一瞬でついてしまうが、それは目立つので使うことが出来ない。
人に紛れている忍びなんて自分以外にたくさんいるのだ。


普段、人の流れに逆らうことは余りしない。というより、今するのが初めての事で意外と時間がかかってしまった。


ワシは目的のものを素早く買い、再びあの波へと飛び込んだ。


ワシがあの店を選んだのは、団子がうまいのももちろんあるが、それよりもそこに勤めている娘とそこそこの親交があるため、アキラの面倒を見てくれると思ったから。


ヘラヘラとした態度で戻ってくると案の定説教を食らった。
早く終わんねぇかなぁと思い、“団子買うから許せ!”といい放つと普段笑わないアキラが笑った。


久しぶりに見た笑顔だけで、何か満たされた錯覚が起きた。





アキラの気に入った団子を大量に買い、タイミングが分からず、結局その日は首飾りを渡すことなく終了してしまった。

強情なアキラがどうしたら受け取ってくれるか、夜通し思考を巡らせた。







* * *



アキラは人通りが多いところに入るとき、ワシが後ろを見るのを、“人混みに入るから着物をつかめ”という合図だと思っとるらしい。

いつも無意識に自分がそうしていたんだと思う。
でも今回は違う。

ワシはアキラと同じ視線になるように膝を曲げた。




「なぁ、アキラ」

『・・・なんですか?』




少し動揺しているように見えた。




「その、昨日はすまんかったな。
それでな、侘びと言ってはなんだがこれをもらってくれんか?」




そう言って、ワシはそっと懐へと手を伸ばした。
そしてアキラは、ワシの手に握られたものをみると過剰に反応した。




『それは・・・・・』




口をぱくぱくと動かして、明らかに動揺している。
違うものを買っていたらどうしようかと不安もあったがどうやらこれであっているようだ。




「ん?どうかしたか?」




わざととぼけたように振る舞うとアキラは目に涙をうかべた。

アキラは頭のいいやつだ。きっと全て察したんだろう。

またそんな風に眉を下げて困った顔をして欲しくて買った訳じゃない。
笑って欲しいんだ。




「これを受け取ってくれたら話があるんじゃ。
相談に乗ってはくれんか?」

『・・・・・』

「それでチャラってのはどうだ?」




ニカっと歯を見せて笑った。
アキラが安心するように。
たまった涙を乱暴に服の袖でぐ拭いてからアキラはようやく口を開けた。




『それは、そんなにじゅうようなそうだんなんですか?』




子供は余計なことなんか考えなくてもいいのにのぉ。




「あぁ、アキラにしかできぬ相談だ」




そう言ったがアキラはいつになく強い眼差しを向けながら小さな声で言った。




『・・・・・さきにそうだんききます』




これは何を言っても言うことを聞かなさそうじゃのォ。
ワシは折れて、心を落ち着かせた。




「ワシの娘にならんか?」




本当はこんなことを言う予定ではなかった。
適当に“あの団子屋の娘と上手くいくと思うか?”と、聞くつもりでいたのに。

勝手に口走っていた。


目の前のアキラはボロボロと珠のような涙をこぼした。



その顔は何かにすがるような顔で、自分のいいように受け取ったワシは自分より何倍も小さいアキラを抱き締めた。

突き飛ばされたらそれは、“拒絶”の答え。
そうされたら、誰か他に預けようと考えていた。

しかしそんなことはなく、むしろ逆にワシの腕の中に納まろうと身を擦り寄せてきた。

ぎゅっとさっきより強く抱き締めてやった。


胸に額を当てて泣くアキラの頭を優しく撫でてやる。




赤の他人から自分の娘へと変わった繋がり。



そう気づくと緊張が解け、どっと疲れが湧き出た。


情けないと、自嘲しながら高い空を仰ぎ見た。






のぅアキラ。

今日の空はお主の瞳のように青い。






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