私は眠った。
もうこの目は開けることはないと思ってた。
でも誰かに起こされた。
---「起きろ、目を覚ませ」
頭の中で誰かの声がしたんだ。
私、助かったのかな?
目を開けたらきっと病院の白い天井があるんだろうな、と思いながらゆっくり目を開けた。
でもそこに白い天井はなくて。
水色の空と、真っ白な雲と同じ色の髪。
しかしその額にはこの人のトレードマークである、あの独特な額宛はなかった。
でもこの顔は・・・・・・
『じらいや、さま・・・?』
口から無意識にこぼれた言葉に目の前の人物は目を大きく見開いた。
この時から、私の新たな人生が幕を開けたのである。
* * * *
『わたし・・・いきてるの?』
私は確かに車に跳ねられた。
だからこれが夢であることも考えた。
でもあのとき生じた痛みがそのままあって、事故が起きたという真実をしっかりと私の身体に残していた。
『いっ、!』
からだを起こそうとしたら言葉ではとても表せないほどの激痛が走った。
ダメだ。体が動かせない。
すると頭の上から優しい声が降ってきた。
「なぜワシの名前を知っているのか気になるところはあるが、まずお主の治療をしなくてはならんのォ」
そう言って私を横抱きにした。
あれ?自来也様ってこんなに大きかったっけ・・・?
161あるはずなのに、腕にはすっぽりとおさまるどころか、私を片手でも持てるほど大きかった。
そんな疑問もつかの間。
瞬きをしている間に景色ががらりと変わり、病院らしい建物が目の前に現れた。
これが瞬身か!と感動した。
か、カッコいい!!
興奮して体が無意識に跳ね上がり、再びあの鈍痛に顔を歪めることになってしまった。
「これ、じっとしとらんかい」
自来也様の呆れの混じった声がした。
はい。じっとしてますっ。
私はからだを自来也様に預けることにした。
「すまんがこの子を診てくれんか」
自来也様は建物の中に入り、受付を済ませ私たちはすぐ奥の部屋へと案内された。
そこの床には呪文のようにが字がズラズラといてあり、これから治療されるのだと悟った。
床に寝かせられ、看護婦さんの格好をした女性に“大丈夫よ。必ず治すからね。”と声をかけられ、その看護婦さんがいってしまったあと何となく目を瞑った。
そこから先の記憶はない。
いつの間にか眠りに落ちていたようで、目覚めた時には夕日に染まったオレンジ色の病室にいた。
夕陽が綺麗で顔をそちらへ向けたが、驚いたことに痛みはない。
試しにゆっくり体を起こしてみたが、痛くなかった。
これが医療忍術か・・・。スゴい。
ぐーぱーぐーぱーと手を広げたり、握ったりして見た。
あれ、私こんなに手してたっけ?
ずいぶん子供っぽい手・・・
これじゃまるで幼児だ。
その手を不思議そうにボーッと見つめていると、ベットの横においてある椅子に座っていた自来也様が口を開いた。
「気分はどうだ」
『あ・・・』
“大丈夫です”と告げると、にこりと微笑まれ1本の瓶を差し出された。
何が入っているのか分からずじーっと見ていると薬だと言われ、一気に飲み干した。
良薬口苦しと言うことなのか、苦すぎて気を失いかけた。そんな私を見て自来也様は水を持ってきてくれて、それを受けとるなり、薬と同様勢いよく喉に水を流し込んだ。
っぷはぁ!
なにあの薬!あんなに苦いの飲んだことないよ!苦すぎる!
「大丈夫そうじゃのぅ。」
慌てる私が面白かったのか自来也様は声をあげて笑った。
は、恥ずかしい・・・!
でもあの自来也様が笑ってる!
カッコいいよぉー!
50才の自来也様もおじ様って感じで好きだけど、今私の前にいる人物はどう見ても30代にしか見えない。
大人の男性のオーラを漂わせる自来也様はとても魅力的だ。
あれ、なんか私ヤバイ人?
「全身打撲に、内蔵は一部破裂しとった。」
『そんなにひどかったんだ・・・』
内蔵破裂でよく生きてたな私。私の体はどうなっているんだ。
「・・・・・・お主、何があったんじゃ?」
さっきの和やかなムードとは一変して、ピリッとした空気が病室をつつんだ。
優しい光を灯していた瞳は鋭くて、蛇ににらまれたように動かなくなった。
果たして自分は異世界から来たと、真実を告げても良いのだろうか。
私の出した答えはこれだ。
『わかりません』
「(こやつなにか訳有りじゃな)
そうか。
ではなぜワシの名前をしっとったんじゃ?」
『それは・・・・・しらないひとのほうがすくないんじゃないですか?』
「ほぅ・・・」
嘘は言ってない。何があってここにいるのか分からない。原因はあの事故というか、私が死んだからだと思うけど。
前世ではNARUTOは有名だったし、NARUTOを知るもので自来也という人物を知らない人なんていない。
だから、嘘ではないのだ。
大事なことを言ってないだけ。
---(嘘ではないが何か隠しているようじゃな)
自来也はそれに気づいていたがあえて突き止めることをしなかった。
なにせ相手はまだ幼い少女。追求したところで何か重大な事が分かるわけでもない。
そう考えたのだ。
* * * *
「お主家はどこだ?」
張り詰めていた空気は消え、自来也様の優しい声が静かな病室にこだました。
“近くまで送ってやる”と自来也様は続けた。
家、か。
そんなものはどこにもない。家か・・・・どうしたらいいんだろう。
私は異世界から来たわけで、当然どこの里にも所属していないし、家もなければ親戚もいない。
行くところはない。帰るところはない。
『いえはありません』
そうとしか言いようがなくて、私はそう答えた。
「親はどうしとる」
『・・・・いません』
「そう、か」
本当はいるれけ、どこの世界に来てしまった以上、いないと言うしかない。
そして会話はここで途切れてしまった。
自来也様もどう返したらいいのか分からないんだと思う。
私だってこの状況をどうしたら良いかをからないし・・・。
すると自来也様は顎に手を当て、唸り始めてしまった。
困らせてる、私のせいで…
只でさえ病院に連れてきてもらって、そして今もこうして私の隣に居てくれている。
これ以上迷惑をかけられない。とそう思った。
『わたしならたぶんだいじょうぶです。
なんとかしてみます』
「・・・・本当にそう思っとるのか?」
『はい』
どこかで働けるところを探して、お金を稼いで、なんとなく生きていければ良い。
ナルトやサクラ、サスケにだって会ってみたいけど、身元が分からない私が木の葉の里に入れるわけがない。
つまりそう、会う術がない。
だから今こうして自来也様と向き合い、出会えたことは奇跡なわけで・・・。
この後この人と別れたら、もう再び見ることは無くなる。たぶんこのあと他のキャラにも会わずに過ごしていくんだと思って、その姿を目に焼き付けようとじっと見つめた。
“そうか、わかった”と言われるかと思ったら、全く違う言葉が帰ってきた。
「4才児がなにをいっとるんじゃ。無理に決まっておるじゃろう」
4才児?
今確かにそう聞こえた。何言ってるんだろう。
私は18才なのに。
でもそう言われてみれば“いつもと違う”と感じたところはたくさんある。
まず自来也様が大きすぎると思った。
喋っていても上手く話せなくて舌足らずだと感じる。
手はぷくぷくしていて、成人手前の手にはとても見えない。
まさかな、と思って手に持つガラスのコップに自分の顔を映した。
嘘だ。
からだが、縮んでる・・・
私はこの状況に黙り混む他なかった。
---(何で小さくなってるの!?)
* * * *
ワシの言葉を聞きくと、目の前の幼女はそれ以上何も言わず、腿の上に置いたコップを俯きながら見つめた。
そして一瞬だけ不安気に揺れた青い瞳をワシは見逃さなかった。
それと同時にワシを気づかっていたことに気付いた。
一体この幼女は今までどの様にして育てられたのか、とその生い立ちが酷く気になった。
子供がどのくらいからちゃんとした会話ができるようになるのかはよく知らんが、あの年であのような気遣いできるヤツは普通いない。
出来るのはだいたいだが10才前後だろう。(10才でも出来ないやつはいると思うが)
それにしっかりとした敬語を話せるし、舌足らずな所はあるが流暢に喋っている。
正直自分を伝説の三忍と知っていることにも驚いた。
まだ幼いがどこか大人びた雰囲気を醸し出しているこいつに興味がわいた。
そして自分の半分もない小さなからだの奥深くからふつふつと沸き上がる膨大なチャクラの量。
鍛えたらどれだけ強くなるのだろうかと想像すると、背筋がぞくりと震え、顔がにやけるのが分かった。
何が起きたか分からない、親いなければ、帰るところもないというこやつにワシはある提案を持ちかけた。
「ワシと一緒に来んか?」
すると幼女はコップを映していた青い瞳にワシを映し、その目は大きく開かれていた。
イエスともノーとも取れないその反応にワシは困った。
そしてどういう訳か、この提案を断られることを恐れた。
ワシは慌てて付け足した。
「ずっと一緒にいるわけじゃない。お主の居場所がみつかるまでじゃ。」
そう言えば、さくらんぼのような小さな唇を震わせた。
何か言おうとしているのが分かったから、少し緊張しながらその返事を待った。
『・・・・・いいんですか?』
眉をハの字にし、布団をきゅっと握りしめていて、声はとても小さなものだった。
「ワシは構わん。
こんな小さな子供は放っておけんからのぅ」
にかっと笑いながら言った。
そうすれば“ご迷惑でなければ・・・”と、俯き、遠慮気味に返事をした。
「じゃあ決まりじゃな!」
断られなかった安堵と嬉しさを隠すかのように、ワシの片手にすっぽりと収まってしまう小さな黒髪の頭をわしゃわしゃと撫でた。
幼女は素直にワシに撫でられた。
目を細めて恥ずかしそうに頬を桃色に染める姿が可愛らしいと思った。
そう言えばまだ名前を知らんのう。
撫でていたてを止めると少し寂しそうな顔をした。
「お主名前は」
『アキラ・・・。##NAME1##アキラです』
アキラ、か。
“良い名前じゃのう”と、柄にもなくそんなことを思った。
夕陽で朱色に染まり、優しく微笑んだ小さな幼女の後ろに、同じ青い目をし、笑っている見知らぬ黒髪の少女の姿がダブって見えた。
でもそう見えたのは一瞬のことで、瞬きをすれば消えてしまった。
なんとなく、少女の頭を再び撫でた。
---(これからよろしく頼むのう)
* * * *
私が小さくなった自分の姿に驚いていると、自来也様が唐突に“ワシと一緒に来んか?”と、言った。
頭の中が更にパニックになった。一緒に来るってなんだ?と、簡単な文章も理解できないほど、その時の私は混乱していた。
すると今度は“ずっと一緒にいるわけじゃない。お主の居場所がみつかるまでじゃ”と言葉を紡いだ。
この時やっと頭の中の整理がついてきて、言葉を返そうとした。“是非お願いします。”私の居場所が見つかるまでじゃなくて、ずっとお側にいさせてください。と言おうとした。
しかしよく考えてみると、それでもいいのか?という疑問がわいた。
情報収集であちらこちらへと移動を続ける彼の元に居るのは負担、かつ邪魔なんじゃないかと。
でも私は居場所を求めてしまった。
この持ちかけを断ってしまったら…?
“私は一人になる。”
恐ろしくて。寒気がした。
『・・・・・いいんですか?』
出した声は情けなく震えているのが自分でもよく分かった。
一瞬でも感じてしまった孤独に私は勝つことができなかった。
「ワシは構わん。
こんな小さな子供は放っておけんからのぅ」
歯を見せて笑った自来也様。
その笑顔には裏がなくて、無垢なものだった。
私は、甘えてもいいのかな・・・。
“ひとり”という暗闇へ差し出された救いの手に、私は遠慮がちに捕まっている。
振り落とそうとされるならば、私はその手を自ら離すと決めた。
もしも相手が私の手を握りしめてくれるのであれば、私もそれに捕まっていようと。
『ご迷惑でなければ・・・』
一体なんと返ってくるのだろうか。
そう思えたのも束の間。
次には
「じゃあ決まりじゃな!」
と言いなが、私の頭をわしゃわしゃと自来也様が撫で始めたのだから。
私の頭を簡単に収めてしまうほどの大きな手から伝わる温もりに、細いながらも確かな繋がりの存在を実感した。
少し乱暴だけど、それすらすら嬉しくてニヤけそうになるのを必死にこらえ、バレないように下を向いた。
「お主名前は」
撫でていた手が頭から離れた。寂しいと思ってしまったのは顔に出てはないだろうか。
そういえば。まだ自己紹介してなかった。
『アキラ・・・。##NAME1##アキラです。』
自然に緩んでしまう頬を押さえようとはしなかった。
真っ直ぐ自来也様の顔を見て、ニコリと下手くそながらも笑って見せた。
自来也様はふっと微笑み、今度は優しく頭を撫でてくれた。
確かにできた“繋がり”を今度はしっかりと握りしめた。
私はこの世界で生きていく。
そう強く思った。
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