今日は久々のおうちデート。といってもデート自体が久々な訳だけれど。
彼はとても有名で、ガラル地方では彼を知らない人の方が少ないのではないだろうか。その彼とは、ナックルシティのジムリーダー・キバナの事である。
彼とお付き合いしてからもう数年が経過している。付き合った日付はお互い覚えているが、何年経ったかは覚えていない。興味がない……という訳ではない。
確かに彼と出会って、付き合って、短くない時が経った。しかし、10年も15年も前でもないし、人生の半分ほど長くもない。だが、感覚としてはずっと前から一緒にいた、そんな感覚なのだ。
言葉ではうまく表現し難いが、なんというか、感覚と実際の時間の経過にずれがあって、数えるのを辞めたし、覚えるのも辞めた。今何年経ったかは、携帯アプリの通知で分かる程度。どれだけ付き合ったかなどたいして重要ではない、そんな考え方だ。
お互い何を考えているか、大体は分かるけど全ては分からない。私に人の心は読めないしキバナもだ。大体分かれば十分だ。分からない所は言葉を交わせば良い。そのために私たちの先祖は言葉を産み出したのだから。
ちなみに今のキバナは疲れている。
昨日はポケモンリーグ最終日だった。今までのトレーニングの疲れ、バトルの疲れ、メディアインタビューなど言い出せばきりがない。
目標としていた、チャンピオンへの勝利も叶わず。そのせいで良く眠れなかったのであろう。目の下にはクマができている。
普段はにこにことしていて愛想の良いキバナの姿はなく、どこか表情がない。なんというか、素のキバナだ。テレビや街で見るキバナからは、とても想像ができないだろう。
私にだけその姿を見せてくれるのだから、キバナから信頼されているのだろうと思うと嬉しい。しかし、その反面、彼の疲弊しきった顔をみるのは、胸が痛む。
彼のつらそうな顔をみるのはちっとも嬉しくない。彼には笑っていて欲しい。
力なく私の肩に寄りかかる、元気のないキバナ。
標準程度の身長のある私は決して小さくないが、長身のキバナと比べるとやはり小さく、体重をかけて乗り掛かられると、彼を支えきれず倒れてしまう。今こうして普通に座っていられるのは、キバナが加減をしてくれているからだ。
こんな時くらい思い切り甘えてくれてもいいのに、そうしない、いつも相手を気遣う彼らしいといえば彼らしい。
「キバナ」
「……んー?」
「少し眠くなっちゃった」
キバナの返事も聞かず、彼の手を引いて寝室へと向かった。何も言わずキバナはおとなしく着いてきた。
掛け布団をめくり、私がベッドに潜ると、キバナはゆっくりとベッドに身を沈めた。
「ちょっとだけ寝よっか」
「……あぁ」
お互いの顔が見えるように体の向きを変えると、自然とキバナと目が合う。
いつもより力なく開かれていた目は、先程とは違う、睡魔と闘う目へと変わっていた。
キバナはそっと私の手を握ると、いくらもしなうちに重い瞼を閉じた。それから暫くすると、規則正しい寝息が聞こえた。
眠くなったというのは、キバナをここへ連れてきて寝かせる口実で、私はこれっぽっちも眠くなかった。
しかし、こうも穏やかに眠る姿を見ていると自然と眠くなってきてしまう。
どうせキバナが起きるまで、このままでいなくてはならないのだ。キバナの寝顔観察も悪くないが、それはまた別の機会にしよう。
「おやすみ、キバナ」
そうして、私もゆっくりと目を閉じた。
ーーー目覚めたら、いつものように貴方が元気に笑っていることを願って。
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▼あとがき▼
読んでくださりありがとうございました!
恋人と穏やかな時間を過ごさせたかった……。
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