初恋ははじめまして

 ガラル地方最強のポケモントレーナー。ポケモンリーグチャンピオン。無敵のダンデ。きらびやかで華々しい呼び名。
 数多くのスポンサーに、CM出演、ファイトマネー。チャンピオンになった当初は金額を提示され、その桁に目を大きくしたが、今ではすっかりなれてしまった。ひとりではとても使いきれない額である。稼いだ額を公開したことはない。しかし、それなりに持っていると世の中を知っている大人は分かるだろう。だから、 私生活もさぞ豪華だろう。そう思われがちだが、実際はそうでもない。
 確かに平均以上の生活はしていると思う。例えるなら、暮らしやすい場所でセキュリティ面もしっかりした家に住んでいるとか、欲しいもので金額に悩むことはあまりないこととか、高いレストランで値段を気にせず食べれるとか。豪華といえば豪華かもしれない。
 だが、夜の街に繰り出して、クラブやバーで飲んだり踊ったり、宝石やブランド物の時計をコレクションしたり、何台も車買ったりなんてことはしていない。そんなものに興味はないし、そんな時間もない。
 年齢が二桁になったばかりの頃にチャンピオンになった。トレーニングや仕事で忙しくて遊んでいる暇など無かった。暇があっても、自分が好きなバトルのことで頭が一杯で、バトル以上に興味が沸くものもなかった。
 不満に思ったことは無かったが、今思えばもっと年相応の経験をしても良かったのかもしれない。同年代の人と駆けっこやボール遊びをしたり、同年代の人と友情を築いたり。まぁ、今さらどうしようもないし、それをしなかったからといって今まで不便な思いをしたこともない。
 話はそれたが、オレはあの呼び名のせいで華やかな生活を送っていると思われがちである。特に女性関係で。
 周りは「選びたい放題でしょ?」と言うが、そうでもない。最もオレにその気がないから。
 恋愛というものに興味が無い。昔悪い思い出があった訳でもなく、単純に興味がない。過去に恋愛をしてこなかったのは時間が無かった事が大きいだろう。今でもそれは変わらないが、チャンピオンになって右も左も分からないあの頃とは違う。10年もやっていれば大体のことは経験するし、ちょっとしたハプニングにも、要領よくうまく立ち回れるようになった。言いたいのは、時間はあるってことだ。
 とはいっても、よし!恋愛しよう!といってするものでもないと思うし、さっきも言ったが興味もない。綺麗な女性は綺麗だと思うし、格好良い男性は格好良いと感じる。幸せそうなカップルを見れば幸せそうだなと思う。しかし、それ以上の感情を抱くことは無かった。
 人としての感情がけ欠如しているのではと自分を疑った事もあったが、家族は愛している。誰かを愛すという感情は持っている。それに、誰もが恋愛したいと思っている訳ではない。だからオレは変じゃないという結論に至った。
 オレは今後彼女や嫁が出来るどころか、恋をすることすらないのかもしれない。そう思った矢先の事だった。
 その日は広告の撮影の仕事がある日だった。現場には、スタッフの他、ジムリーダーでありながらモデルとしても活動しているルリナもいた。準備が整う間、ルリナと談笑をしていると、扉が開く音と、女性の声が聞こえた。
 今日はもうひとり一緒に仕事をする人がいる。疎いオレでも名前を聞いたことがあるほどのスーパーモデル。街を歩けば彼女のポスターはよく見かける。それ以上の詳しい事は知らないが、ルリナの親友でもあるらしい。
 今回一緒に仕事をするのも初めてだし、会うもの初めてだ。挨拶をしようと、音のした方に顔を向けた。彼女の姿を見た瞬間、オレの体はぴしりと動かなくなった。
 心を奪われるとは、このことを言うのだろうか。すらりと伸びた長い足は、規則正しい音を奏でながらこちらへと近づいてくる。長く伸ばされた髪が歩く度に揺れ、キラキラと輝いている。
 なぜだか目が離せない。頭の先から爪の先まで全てが綺麗で美しく、魅入ってしまった。心臓が飛び出てしまいそうな程、激しく動いている。バトルの時とは違う胸の高鳴りを感じていた。
 オレが正気に戻ったのはその女性がオレの前に立った時だった。



「はじめまして。今日はよろしくお願いします」



 遠くからでも整った顔立ちであるのが分かったが、近くで見ると何から何まで完璧で、まるで美術品のようだった。どれも美しいが、その瞳は特別に美しかった。鮮やかなその色は輝いていて、見ればみるほど深みを増す。吸い込まれるような瞳とはまさにこのことだろう。



「えっと……ダンデさん……?」



 彼女のまっすぐな瞳の色が困惑に変わり、オレは慌てて返事をした。



「すまない。綺麗でつい見惚れていた。」



 自分が放った言葉に、自分自身が一番驚いていた。それはルリナも同じようで、ぎょっと目を見開いていた。
 目の前の彼女は、こんな言葉、飽きる程言われてきたのだろうが耳を赤くしていった。



「ふふ。ありがとうございます」



 目を細めて笑う彼女はやはり美しかった。ずっと見ていたいと思ったが、スタッフの声でその時間は長くは続かなかった。
 彼女は先ほど別の仕事で撮影があり、終わった後まずは挨拶と言って、ここに来たそうだ。衣装を着替えるために、再び入ってきた扉から姿を消した。オレはその姿を、扉がしまった後もじっと見つめていた。



「……デ……ダンデ!!」



 ルリナがオレの声を呼んで我に返った。頭の中は、彼女のことで一杯だった。あの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。彼女はもうここにはいないのに、胸の拍動は速いまま収まることなく激しく動いている。これは一体なんなのだろう。
 ルリナは眉間にシワを寄せて小さな声でオレに言った。



「あんたもしかしてあの子に惚れた……?」



 その言葉を頭の中で繰り返した。惚れ、た……。バトルの時の様に、胸が高鳴っているのに、それはバトルの時とは全く違う。初めての感情だ。つまり、今まで抱いたことのない感情。それはつまり、もしかしたらそうなのかもしれない。
 無意識にまたあの扉を見ていた。返事はしていないのに、ルリナは何かを察したようだった。

 抱いたことのない感情。それは多分恋なのだ。ーー




*  *  *
(おまけ)
「ルリナ!!どうしよう!ダンデさん滅茶苦茶格好よかった!!それに、綺麗って……!見惚れていたって……!どうしよう!もっと好きになっちゃうよー!!」
 美人だねとか綺麗だねって、言われるのはやっぱり嬉しいんだけど、好きな人に言われるのってこんなにも嬉しいんだ……。


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▼あとがき▼
読んでくださりありがとうございました!
一目惚れするダンデを書きたかった……。


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