最後のダリハ地区が墜ちた。
無線で本部に届いたその報せは、イシュヴァール全区が完全にアメストリス軍の支配下に入った事を示しており、事実上の終結宣言でもあった。

これでようやく帰れる。
その思いが、戦いで疲弊した軍人達を一気に活気づかせた。
とは言え、すべてが終わったわけではない。
まだ残党狩りなどの後処理が残っている。



「アームストロング少佐も、もう少し頑張っていれば共に祝えたのに…」

「仕方ないさ。あの方は優しすぎたんだ」

祝杯をあげる男達の輪から少し離れた場所で小さな声で語り合う二人の兵士を横目に、キンブリーは仮設テントの一つに向かって歩いて行った。

彼らが話題にしていたアレックス・ルイ・アームストロング少佐は、戦闘が終わる少し前に使い物にならないと判断されて強制送還させられたと聞いている。
戦場に派遣された国家錬金術師が戦闘を放棄したのだから懲罰は免れないはずだ。
せっかく多くの将軍を輩出してきた名門アームストロング家の生まれだというのに、これでは今後の出世も望み薄だろう。
勇ましい姉とは大違いだ。

だが、キンブリーは遅かれ早かれこうなるだろうと予想していた。
こんな戦場で人殺しをさせるにはアームストロングは善良すぎたのだ。
キンブリーとは違い、彼はまともな良心を持った人間だったということである。


テントに入ると、中はカウンター代わりに設置された折り畳み式のテーブルが置かれた簡易郵便施設となっていた。
数人の兵士がテーブルに向かって手紙を書いている。

「私宛てに荷物が届いていると聞いたのですが」

「あ、はい。こちらです」

相手が紅蓮の錬金術師であることを確認した係の兵士が、折り畳み式のテーブルに小さな段ボール箱を乗せた。

「中央からですね。ここに受け取りサインをお願いします」

渡されたペンを紙に走らせてサインをする。
そうして受け取った荷物をキンブリーは隣のテーブルに移し、中身をあらためた。
着替え用の真新しい清潔なフレンチスリーブのシャツが数枚と、同じく新品の靴下、それから戦地では支給されない細々した品が小さな箱の中にぎっちり収められている。
同封されていた便箋には、キンブリーの体調を気遣う言葉と、無事に帰ってくるのを待っているといった内容が書き綴られていた。
署名の“なまえ”という文字を見て、知らず口元に淡い微笑が浮かぶ。


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