「では、行ってきます」 白いスーツをきっちり着込み、帽子を手に持ったキンブリーが振り返る。 玄関先に立っているなまえは不安げな様子だ。 「やっぱり私も一緒に──」 「ダメです」 敵に捕獲されたグラトニーとプライドを「迎え」に行くようにと中央(セントラル)から連絡があったのはついさっきの事だ。 わざわざキンブリーに頼んでくるくらいである。急がねばならないだろう。 「私一人で行くと言ったはずですよ」 「でも……」 聡明な彼女のことだ。足手まといになるのは解りきっているはずなのに、何がそれほど心配なのか随分と食い下がってくる。 「大人しく待っていなさい。──その子と一緒に」 やや和らげたキンブリーの視線が腹部に注がれるのを感じ、なまえは自分の腹をそっと手で押さえた。 そこには芽生えたばかりの新しい命が宿っていた。 「春とは言え、まだ気温は低い。身体を冷やさないようにして安静にしていなさい」 「……はい」 渋々ながらもなまえが引き下がったのを確認してキンブリーは外に出る。 「気をつけて…。早く帰ってきて下さいね、ゾルフ」 まだ少し心配そうにしながらも笑顔で見送る妻に、帽子を持った片手を上げてみせると、キンブリーは待たせている車に向かって歩いていった。 TOP 1/1 |