アメストリスの国軍関係施設には必ずテレフォンブースがある。
相手の承認を得てオペレーターに取り次いで貰うまでにワンクッションもツークッションも置かなければならない一般施設からかける電話と違い、全国各地の司令部に直通で繋がる便利な連絡手段だ。

今もキンブリーはブリッグズ要塞にあるそのテレフォンブースで何処かに電話をかけている。
なまえとマイルズはブースの入口で彼の通話が終わるのを待っていた。

「すみません、マイルズ少佐。お待たせしてしまって」

「君が謝ることはない。これも私の仕事だ」

申し訳なさそうに謝るなまえにマイルズは泰然として答えた。
敷居となっているパネルを背にしたマイルズと、その隣に立っているなまえからは、電話に向かうキンブリーの表情は見えない。
会話相手に相槌を打ったり返事を返す彼の声が聞こえてくるだけだ。

「寒くはないか」

「はい」

テレフォンブースは外に会話が漏れないようドアで通路から隔離されている。
そのせいか要塞内の廊下ほど寒くはなかった。

「むしろ私は中佐のほうが心配です。病み上がりですし、本当はもっと温かい服装をさせたいんですけど、何かあのスーツ姿にこだわりがあるみたいで…」

「確かにこの地でスーツはあまり見ないな」

「ですよねぇ」

なまえは困ったように笑ってキンブリーへと目を向けた。
白いスーツの背で揺れる黒い尻尾が見える。

「だから薄くて保温性が高いインナーだけはきっちり着て貰っているんです。下手したら汗で服が凍りついて凍傷にかかってしまいますから」

雪眼防止用であるらしいサングラスの上にあるマイルズの眉がちょっと持ち上がった。

「まるで世話女房だな」

「いいえ、これも部下としての仕事の内です」

「なるほど、失礼した。では言い直そう。君は仕事熱心なんだな」

「有難うございます」

なまえは微笑んで礼を述べた。
世辞を言うような男には見えないし、正当に評価して貰えたのだと思えば素直に嬉しい。

「士官学校でも優秀な成績を誇っていたのだろうな」

「ええまあ、そのせいで誰かさんに目をつけられてしまったんですけど…」

キンブリーのほうを見て苦笑するなまえに、マイルズも苦い顔つきで笑みを返した。


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