脇腹を串刺しにされた人間が後部に刺さったまま、汽車は駅へと到着した。
到着するなり、車を手配して軍関係者用の病院へ運びこんだキンブリーは、当たり前だが相当な重傷と判断され、そのまま入院する事となった。
どてっ腹に穴が空いているのだから当然の成り行きと言えるだろう。

「機関士達の口止めと破壊された貨車の後始末は軍部のほうで処理してくれるそうです」

ベッドに横たわるキンブリーに向かってなまえは仕入れてきた情報を報告した。

「それと、まあ出てこないとは思いますが、念のため切り離した貨車付近に死体が転がっていないか捜索して貰っています」

「そうですか」

キンブリーが小さく息をつく。
声こそ普段と変わりないが、さすがにまだ少し苦しそうだ。
腕には点滴。
顔色も悪い。
どこからどう見ても病人である。

「ご苦労でしたね。貴女も少し休みなさい。この体たらくでは暫く動けそうにない」

「私なら平気です」

「無理をするものではありませんよ。昨夜からずっと眠っていないのでしょう?」

「ええ…まあ…」

なまえは曖昧に微笑んだ。
眠る暇がなかったと言うよりも、彼のことが心配で眠れなかったのだ。

「心配をかけましたね」

「…わかってるなら無茶しないで下さい」

思わず拗ねたような口調になってしまう。
キンブリーはくっくっと肩を揺らして笑い、それが傷に響いたのか、ちょっと顔をしかめた。

「なまえ」

甘さを帯びた声が呼ぶ。

「私は今動けないのですが」

「はいはい」

なまえは横たわるキンブリーに屈みこんでキスをした。
彼の唇がなまえの唇を食み、これでは物足りないと告げてくるが、直ぐに身を離す。

「続きはお預けです」

「やれやれ…いつからそんな冷たい女になったんですか」

「それはもう、中佐の調教の賜物ですよ」

「ほう……私の、ねぇ?」

キンブリーは瞳を細めて凄みのある微笑を浮かべてみせた。

「それでは、傷が塞がったら再度教育し直すことにしましょう。どうも調教が足りないようだ」

「えっ──えーと……私、やっぱり宿をとって休んでくる事にします」

そそくさと椅子から立ち上がったなまえを見上げ、キンブリーは「そうしなさい」と澄まして言った。

「明日は午後からで構いませんよ」

「はい。じゃあ、ゆっくり休んで下さいね」

話題が変わったことにほっとしつつ、なまえはキンブリーの額に垂れかかる一筋の黒髪を優しく梳き流し、病室を後にした。


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